第90話 本日のメインイベント

「コーホー……では確かに……あ、これはサービスですスコ~~」


 林檎に偽装してもらった商品とオマケのアップルパイを手渡して、伝わらない愛想笑いを浮かべる優衣菜。

 お格様の引きつった笑顔に見送られながら、扉を閉める。


「ホォ~~~~~~……。やれやれ……なんとか終わらせたぞ……フォォォォォォォォォォォォ……」


 汗だくになりながら、キックボードに寄りかかった。

 鎧を着込んでいたとはいえ、やはり人と話すのは緊張する。

 成り行きでの会話なら勢いでやりきれるのだが、今回のように自分から訪問するのはまた違うハードルがあった。


 しかしそれもなんとか乗り越えた。

 時間内に商品を届けねばならないという使命感が勇気を与えてくれたのだ。

 愛美アフロディーテの言う通り、これはこれでまた違った訓練法なのかもしれない。

 ともあれ任務は完了した。

 今日はもうここまでにして、帰ってのんびり引きこもろう。

 そして孝之に報告して褒めてもらって、あわよくばご褒美にアンナコトとかソンナコトとか……。


 むいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ…………。


 想像する優衣菜は、自然にアクセルを回してしまっていた。





 帰り道、優衣菜は林檎の言葉を思い出していた。


「大学に行くのなら、よほどしっかりした目標を持っていなければだめズラよ」


 アパートを退散する間際に言われたアドバイスである。

 どこにでもある、誰でも語っている定型文に聞こえるが、林檎の言っているのはそんな薄っぺらなものじゃなく。本気の忠告だった気がする。


「キツイことを言うズラが、アンタはもう人生かなり出遅れてしまってるズラ。そんな人間がいまさら学歴のためだけに大学に行ったところで意味はないズラよ。それでも行くと言うのならその先の目標をキチンと見定めて、それに合った学科を選択するズラ。……なにもなければ悪いことは言わないズラ。進学はやめて通信教育かなんかで実益になる資格を取るのをおすすめするズラよ。アンタ顔は抜群にいいんだから、営業系の仕事なんか無双できるかもしれないズラよ?」


 営業とか……想像するだけで吐き気がしてくる。

 しかし林檎の言うことも、ごもっとも。

 軽い気持ちで進学なんてしたところで、その先に待っているのは27際になってしまった自分。

 それも社会人一年生という周回遅れで、である。





 という話を帰ってすぐ、破沼庵ハヌマーンでしてみると。


「そ~~~~だなぁ!! そりぁいいアドバイスをもらったもんだなぁぁ貴様あぁぁぁっぁぁぁぁぁあああぁっ!!??」


 ぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりっ!!!!


 問答無用で鎧を引っ剥がされ、下着姿からのぉ~~――――、

 ――――がきんっ!!――――ロメロ・スペシャル!!!!


「ぎやぁああぁぁああぁぁあぁああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぅっ!???」


 どうにもならない無防備な状態で、胸とか股とかいろんなところが御開帳。

 絶叫する優衣菜の観音様に手を合わせる常連お爺様たち。


「客からクレームの電話があってなぁ!! 注文したメニューと微妙に違う商品を怪しすぎる鎧がオマケ付きで持ってきたんですけど、おたくの従業員で間違いないですかって!!」

「ま、間違いないでしょぉおぉぉぉぉっ!!」

「てめぇのことじゃねぇ、商品を言ってんだよ!!」

「ご、ごめんて!! 謝るってっ!! だ、だから足を、痛だだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだっ!!!!」


 店にいるのが老人だけだったというのが優衣菜にとっては幸い。

 愛美アフロディーテにとっては口惜しいところ。

 若いアンちゃんでもいたならば、特別ムフフイベントと称して投げ銭要求とかできたものを!!


「いやいや、ワシらだって払うもんは払わしてもらうぞ、のう!?」

「そうじゃそうじゃ、年金だって入ってきたばかりじゃし、ここは一つ奮発して」


 年甲斐もなく大興奮しているお爺様ども。

 優衣菜のブラジャーだのパンツだのの隙間にお札をねじ込んでくる。


「おおおお、良かったじゃねぇかお前。このまま水商売でも始めてみるかぁ~~? お前ならきっとすぐナンバーワンになれるぜぇ~~?」

「おう、それはいいのう!! だったらワシら真っ先に指名してやるからの?」

「そうじゃそうじゃドンペリじゃドンペリじゃ!!」


 そう踊って舞い上がるナマグサジジイ様は、厳格な賢者と僧侶の格好。

 ついでにパンツ丸出しな愛美アフロディーテのスカートの内側にも拝み倒して万札を挿す。


「み、水商売なんてできるわけないでしょーーーーっ!! 孫みたいな私の股見て興奮してるなーーーーーーーーっ!! 離せ離せーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー痛だだだだだだだっ!!!!」

「違いない違いない(笑)でもなぁ優衣菜ちゃんよ。ワシらからしてみれば27だろうが30だろうが孫みたいなモンよ。若い若い、ピチピチじゃ。周回遅れだとか細かいこと気にするもんじゃないぞう? ありがたやありがたや」


「だからどこに諭してんのよ!! おがむなっ!! 痛だだだだだだだだだ!!!!」

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