第89話 吸引力の変わらない、ただひとつのンニャララ
ちゅーちゅーちゅーちゅー。
流した鼻血の分だけトマトジュースを補充する林檎。
大きなお兄様御用達、育成系の教育シュミレーションならば林檎とて覚えがないわけではない。いやむしろど真ん中というか――目覚めたのが中古で買った初代カス◯ムメイド的なナニガシだったので思い出が噴出してしまったのだ。
「だ、大丈夫かな? 同士・聖女アップル??」
心配半分、信頼半分の視線を向けてくる優衣菜。
その顔は凛としていて、とても美人。
外見だけ見れば、そんな腐った夢をもつ問題児にはまったく見えない。
「し……しかしアンタ、まともに近づけないほど人が苦手とか言って。大学なんてよく行く気になったズラな。そもそも嫌だって言ってなかったズラか? それもあってオラが弟? 夫? を説教してやったというのに……」
「う~~それなんだけど……」
優衣菜はあれからの孝之の落ち込みっぷりを林檎に説明した。
聞いた林檎は、なんだかなぁ~~と頭をポリポリ。
「やれやれ、ずいぶん極端な弟さんズラな。思春期というか、そもそもの性格というか……。馬力はあるけど、折れたらモロいタイプなんズラな?」
「そうなのよ。最初はスゴいんだけど、萎えるとあっという間なのよね昔っから」
――――ぼたぼたぼたぼた。
「……い、一応確認するズラが、それはアレズラね? 忍耐とかの話しズラな?」
トマトジュースを吸い、同じ量だけ鼻血を返還する。
「もちろん。……あと持久力とか回復力とか連射性能とか、ヌフ」
「いやもう絶対ソッチの話ズラな!?」
「気のせい気のせい」
指折り数える優衣菜に、真面目にやるズラと怒る林檎。
「おぬし…………三十路手前・彼氏無し女のマグマの如き欲求不満ナメてるズラな? ……いいんズラよ? このまま溢れんばかりの煩悩タンクを決壊させても。そうなったオラはもう老若男女構わずベロンベロンしまくるズラからな!? アンタみたいな美人、あっというまにツバだらけにしてやるズラよ!!」
しゃぁぁああぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~っ!!
イヤらしく舌をベロンベロン、ちゃぶ台を舐め回す林檎。
優衣菜は若干引きながら、
「だ、だから、冗談だって。ちょっと話を弾ませようとガルズトーク的なやつを久しぶりにと思って。はははは」
「…………そんなパリピィな糞トークはいらんズラよ。心がエグられるズラ。やるならもっと
だるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるっ!!!!
ちゃぶ台に吸い付き、激しく唇を震わす。
そんな林檎の目は、本気中の本気。
そんなモンスターの興奮が自然消滅するまで、しばし優衣菜はお茶を飲みながら窓の外を眺めるのであった。
「……ま、あれズラね。北風と太陽の話ズラな」
ようやく落ち着いて正気を取り戻した林檎。
ちゃぶ台の汚れはスッキリ吸いつくされて、鏡のごとく光り輝いていた。
「あれだけ厳しかった弟が、急に大人しくなってもんで逆にアンタがしっかりしてきたってことズラな?」
「いや、まぁ……そういう……。う~~ん……。まぁ、それもあるかも知れないけど……。だって急に落ち込んじゃうんだもん。なんだか私も姉(嫁)として気まずいっていうか、元気づけなきゃっていうか……」
それにつけ込んで襲おうとしたことは――このさい黙っておく。
「なるほど。だったらまあ結果的に良いことかもしれないズラが……。しかしそれでアンタは大丈夫なんズラか? 試験とか、大学とか、行けるズラか?」
「……だからこうやってバイトして免疫を付けようとしてるんだけど……」
「高認試験は来月ズラな? それで間に合うズラか?」
「……まぁ……努力はする。ダメならその時はその時って感じで……」
正直、
そしてあと一ヶ月でこれを克服できる自信もない。
「そうズラか。ま、そうズラな。そもそもゲーム作りなんて大学まで行かなくても案外できるもんズラよ? 昔と違っていまはプログラムなんか組めなくとも――――」
「うん、まぁ別にゲームって本気で言ったわけじゃないけどね」
「違うんかーーーーーーーーーーーいっ!!!!」
「私は弟の気が引ければ何でもいいから。……やっぱり最終目標は孝之のお嫁さんになって、引き籠もりつつ、授かった種を温室栽培するコトかな?」
キラキラキラキラ。
昭和の少女漫画バリに、瞳に宇宙を創造し顔を輝かせる。
林檎はゆら~~~りと立ち上がると、
「その前にオラがその種吸い尽くしてくれるわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
三十路煩悩メーターを振り切って、民間廃棄物処分場が再稼働した。
はるか遠くで――――。
ぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞっ!??
クラスのみなが見守る中。
孝之はひとり悪寒にのけぞっていた。
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