第86話 またかよ
ゔぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ――――。
ギシギシと音を立てながらヨタヨタ走る電動キックボード。
鎧と合わせて100キロ近くあるだろう重荷を乗せて、それでも大通りへと出ることができた。
『『『動く鎧が現れた(タイヤ付き)!?』』』
往来の方々はみなビビリそそくさと道を開けてくれる。
おかげで実に快適に走ることができていた。
「コーホー。うむ、余裕余裕、この調子ならすぐに帰ってこれそうだ。スコ~~」
予想外の順調さに、上機嫌で走る優衣菜。
その後ろから「ピーーーーーーーーーーピピッピッピッ!!!!」
気分に冷水をかけるがごとく、制止のホイッスルが刺さってきた。
「……なんだ……? フシュゥゥゥ~~……」
ボードを止めて不機嫌に振り返る。
すると彼方からヒョロロロロ……ヒョロロロロ、と息を切らした警官が。
「……き、キミィ……ちょ、ちょっと待ちなさい……ぜぇぜぇ……」
「コーホー……。貴様はたしか……」
はて、どっかで見たことが……首をかしげる。
と、すぐに思い出した。
先日、孝之と一緒に歩いていたときに職務質問してきた、あの警官だ。
「コーホー……やれやれ仕事熱心なことだな。しかし私は今日も見てのとおり人畜無害な人妻をやっている。怪しむ者をお探しなら他をあたるがいい。コーホー……」
「……いやいやいや……あ、あんた以上の怪しいものなんているわけないだろう!! なんだんだねその鎧はっ!!」
至極真っ当な異議。
しかしそんな文句は聞き飽きている優衣菜。ダルそうに頭をかくと、
「コーホー……これは私の正装だ。……貴様はいったいなんだ? 通るたび通るたび人の格好に難癖つけて。この通りは貴様の好んだ格好でなければ通ってはいけないというルールでもあるのか? スコ~~!!」
「通るたび……? 君を見たのは今日が初めてだよ!!??」
「……ああ、そうか。ともかく私は怪しいものではない。愛する夫(高校生17歳)のため、健気にアルバイトに励む鉄壁の主婦(受験生22歳)、趣味はBLゲームと引き篭もり。将来の夢は『一生自己監禁生活を送ること』と『大陸弾道弾のスイッチを押すこと』、『弟と子供を一ダース作ること』だ!! ではさらばだ」
「ダメだっつてんだっ!!」
――――ぐり、じゃじゃっ!! ――どんがらがっしゃんっ!!!!
ボードに乗り、さっそうと走り去ろうとする優衣菜。
そのハンドルを直角に曲げる警官。
バランスを崩したボードは一瞬だけ二輪ドリフトして派手に横転した。
「な、何をするか貴様!! コーーーーッ!!!!」
ころんだ騒音で兜をコワンコワン鳴らしながら激怒する優衣菜。
「怪しいトコだらけじゃないか!! むしろ真ん中の願望が一番マトモに聞こえたわ!!」
「なら貴様にも闇落ちの才能があるということだな!! よろしい、そんな貴様には『国家転覆ポリス』の初号を与えよう、今後とも精進するがいい。シュコーーーーッ!! ではさらばっ!!!!」
「だからっ!!」
――――ぐり、どんがらがっしゃんっ!!!!
コワンコワン、コワンコワン――――。
「だから何なのだもうっ!! 私は忙しいのだ!! ンコーーーーッ!!!!」
「その鎧は何だと聞いているんだ!!」
「正装だと言っているだろうが!! コーーーーーッ!!!!」
「なんの正装だと言うんだね!?? 職業は!??」
「だから『鉄壁の受験生アルバイター主婦』だと言っとるだろうが!! ブコーーーーッ!!」
「そんな職業があるかっ!! ともかくそんな怪しい格好で運転させるわけにはイカンよ!! 降りなさいっ!!!!」
「なぜだ!? 鎧を着て運転してはいけない法律でもあるのか!! フーーーーーーッ!!」
「ないよ!! あるわけないだろうそんな馬鹿げた文言!! それでも事故を未然に防ぐため、不適切な者には注意と指導をする権限が我々にはあるんだ!!」
「この格好のどこがどんな具合に不適切なのだ!! プーーーーッ!!」
「視界が悪い!! 音が聞こえづらい!! 動きに制限がある!! 対向車の注意を乱す!! 固い!!」
「いいことだろうがっ!! 固くて大きいことに悪いことなんて何もない!! むしろ男として誇れることだっ!! シュゴーーーッ!!」
「なんの話をしているんだっ!? 昼間っから往来で卑猥な発言はやめたまえ!!」
「マジンガーZの話だよ!! ばぁ~~~~~~~~~~~かっ!!!! パイルダーーーーー!!!!」
「ぐむむむむうっ!!!!」
「スキありぃっ!! スコーーーーッ!!!!」
してやられたと、真っ赤になってうずくまる警察官。
そのスキをついて優衣菜は電動ボードに飛び乗った。
「ぬお、ま、待ちなさい!!」
「うるせぇ!! 私なんかを指導している暇があったら、昼間っから騒音撒き散らして蛇行運転してる箱乗り選挙カーでも止めてるがいいわ!! 嘘八百撒き散らしながら曲がり角に陣取って対向車に手を振る行為のほうがよほど不適切だろうが!! この弱いものイジメワン公がぁっ!! フォーーーーーーーーッ!!!!」
「なんだとーーーー!! 侮辱罪取るぞ貴様ーーーーっ!!!!」
中指立てて爆走し、去っていく優衣菜。
ゆでダコのようになりながら追いかけていく警察官。
遠巻きに見ていた周囲の人からは、まばらながらに拍手が起こっていた。
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