第83話 高かったんですよ?

 シャカシャカシャカシャカシャカッ!!!!

 じゃばーーーーーー!! じゃばぁーーーーーーーーっ!!!!

 シャカシャカシャカシャカシャカッ!!!!

 じゃばーーーーーー!! じゃばぁーーーーーーーーっ!!!!

 シャカシャカシャカシャカシャカッ!!!!

 じゃばーーーーーー!! じゃばぁーーーーーーーーっ!!!!


 色んなところを徹底的に。

 それはもう徹底的に磨き上げた優衣菜。

 やりずぎて脇や股間のあたりがヒリヒリと赤くなっているが、おかげですっかり体は石鹸のいい香りに包まれた。


「――――さて」


 どきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきときどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどき。


 これから始まるのであろう禁断の秘事を想像してしまう。

 心臓がありえないほどに早く脈打ち、音が聞こえてくる。


「お……落ち着けぇ~~……落ち着くのよ~~私……。お姉ちゃんでしょ。弟だって初めてなんだから……ここは私がリードしてふ、ふ、ふ、筆筆筆――――」


 ツルッ――――スカ。ツルッ――――スカ。

 浴室ドアを開こうとするが、緊張で手が震えて上手くノブを掴めない。


「……おいおい、らしくねぇなぁ~~。なぁにブルっちまってんだい私ときたら~~~~……」


 思った以上に怖気づいてしまっている自分。

 しかし据え膳食わねば女の恥とも言うではないか(?)

 ここでヤッパリ何もしない。なんて無様を晒してしまったら今後の姉弟間でのパワーバランスが崩れてしまうのは避けられない。


 それだけは姉として我慢できないことだ。

 これまでさんざん醜態を晒してきたことなど棚に上げまくって、気合を入れ直す。


「大丈夫大丈夫!! こういうのはアレだから。勢いだから!! 大丈夫大丈夫!! とにかく始めちゃえばな、な、な、なんとかなるから!! まずはもうホラ、ブチュっと一発かまして、アレをどうのこうの、そんでもってナニをこうしてこうやってもうアトはもう流れに任せて本能のおもむくままにぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!」


 ――――ドガコンッ!!


 自分を鼓舞し、精神をトリップさせ、ドアを蹴り開ける。

 そしてバスタオルをくるりと巻くと、


 ――――スパーーーン!!!!


 両手で頬をひっぱたき、いよいよ本気の戦闘態勢に入った。





「たらりらりら~~♪ たらりらりらりらり~~ららぁ~~~♪ りらるるるらりら~~ららぁ~~~~らららららららぁ~~~~~~♪」


 自前のミュージックとともにスタイルだけは抜群の生足を、廊下の影から部屋の中へと艶めかしく踊らせる。

 くねくねと色っぽい太ももは付け根のギリギリまで露出させ、姉の足など見慣れているはずの弟であっても興奮は押さえきれないだろう(と思っている)。


「さあ孝之。お姉ちゃんの準備は整ったわ。……アナタは何もしなくていいの。全部お姉ちゃんに任せて……。二人で禁断の世界へと飛び込みましょうっ!!」


 ――――バッ!!

 影から飛び出し、バスタオルを脱ぎ捨てる。

 そして生まれたままの姿をさらけ出し、

 ――――びょ~~~~んっ!!!!


「大丈夫、怖くないから!! 天井のシミを数えているうちに終わらすから!! 痛くしないから!! ふ~~じこちゃ~~~~ってアレ!???」


 ル◯ン三世ばりの飛び込みジャンプを披露するが、その着地点に孝之の姿はなく、


「げ? な、なんっ!???」


 代わりにビニールで作られたリアル男風船と、貼り紙が一枚。


『反省の旅に出ます探さないでください。身代わり人形を置いていきます。それでも寂しくなったら親友の蒼慎吾くんを可愛がったら良いと思います。――――謎のアラビアンナイトどっきゅん国葬より』


 ――――びよ~~~ん――――ドンガラガッシャンッ!!


 人形にバウンド、家具をなぎ倒しひっくり返る。

 貼り紙を呼んだ優衣菜はワナワナと肩を震わせ、


「こ……こんなもんいるかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいっ!!!!」


 絶叫すると割れたサッシから隣の家へ、その女性用ラブ◯ールの〝突起〟を掴み、力任せにぶん投げた!!


 ――――しばらくの後。


 夕飯時の団らんお隣一家から、つんざくような悲鳴が聞こえてきた。

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