第73話 ちょっとはマシ……かも?

「ははぁ……なるほどなるほど……お話はわかりました。……つまりアノ鎧にかわる新たな衣装をお望みということですね?」

「いや……その……衣装というか……まぁ、はい」


 暴れそうな結衣菜に、うまい棒を与えることで大人しくさせた孝之。

 話の流れで自己紹介と、状況を説明する羽目になってしまった。

 あまり込み入った事情を話すのもなんなので、浅~~く説明したら、浅~~く理解してくれた。


「え~~っと……それでご主人(?)は具体的にどういった感じのものをご希望で?」


 結衣菜を料理人志望の非常勤アルバイトかなにかと勘違いしているサラリーさんは、さっそく商談のつもりで話を進めてきた。


「いやその、ご主人でもないんですが……」


 なんだその壮絶な勘違いは!? と優衣菜を睨むがバカ姉はまるで臆さず、


「コーホー……なるべく外界へのバリアーを強めに、かつ動きやすく、ナメられない迫力がこもった威圧的な衣装がいい。コーホー……」


 孝之に代わり希望を申し立てる。

 するとサラリーさんは鞄からパンフレットを取り出して、


「でしたら現在開発中のコレなんかいかがでしょう?」


 見せてきたのは『鎮圧しちゃうぞ☆』と銘打たれた新シリーズ。

『警備部・機動隊出動服(盾付き)』女性服バージョンであった。


「コーホー……ほほう、これはなかなか……良さそうなモノではないか……コーホー……」


 兜の上からキラキラを撒き散らし、気に入ってしまう結衣菜。


「ちなみにガスマスクも補助で付けられますが?」

「コーホー。すばらしい。ではそれをいただこう。スコ~~!!」

「いやいや、ちがうちがう!!」


 即決で決めそうな二人の間に、慌てて入り込む孝之。


「これじゃけっきょく鎧となにも変わらないじゃないか!! もっとこう、普通の服だよ!! 誰にも咎められない、注目されない普通のやつだよ!!」

「……普通ですか? ふ~~む……奥さんの要望と旦那様の要望。そして店のコンセプトを合わせた衣装となると……」

「いやだから嫁じゃないです!!」

「旦那であってます。コーホー」

「店のことは別に考えなくてもいいけどな?」


 それぞれの言葉を聞いているのか、いないのか。

 サラリーさんは「う~~~~~~ん……」としばらく考え込んだ後、


「ではコレなんていかがでしょう?」


 持ってきたケースの中から、一着の新たな衣装を取り出した。





「……で、では行ってきます」

「おう、気をつけてな……」

「あとで評判と感想をお聞かせくださいね」


 そう見送られて破沼庵ハヌマーンを出た孝之と結衣菜。

 新衣装に着替えたお試しに、さっそく外を歩いてみようというのだ。

 そんな結衣菜の新しいコスチュームは、


「た……孝之……腕、腕離さいないでね……」


 全身白地のコック風衣装。

 布はジーンズと同じ厚めのツイル生地で編み込まれ、


「わかったから……そんなに爪を立てるな、あいたたたたっ!!」


 頭は耐衝撃用に鉄板を貼り付けた『鉄のほっかむり』

 胴体にも、同じ鉄板を貼り付けた『鉄の前掛けエプロン

 そして顔にはマスク代わりの布をぐるぐる巻いて。

 背中には大きな中華鍋と肉切り包丁を背負っていた。


「……だってだって……この服なんか腰とか脇とか背中がスースーして心細いんだけど~~~~~~~~?」


 服は前と後ろがセパレート構造になっており、太い紐でゆるく繋ぎ止められていた。そのため通気性は抜群だったが、結び目の所々から肌色が見えてしまっている。

 とくにセクシーな太ももは、お尻のラインまで見えそうなほどに。





「……おい。あのデザインは必要だったのか?」


 よたよたともつれて歩いていく二人を見送って、愛美アフロディーテが不審な目を向ける。

 サラリーさんはさも当然とばかりに前髪を整えると、


「異世界ファンタジーの〝戦う料理人〟を想像して作らせました。冒険者としての側面も持た、せ戦闘に耐えうる防御性と武器。そして忘れてはならないお色気要素も加え、お客様受けも狙った懇親のデザインとなっております」

「ほお……まぁ、客に受けるのならまぁいいか……? いいのか?」


 もしかすると、後で私にも着れっていうんじゃないだろうな?

 一抹の不安を覚えながら頬をかく愛美アフロディーテ

 サラリーさんは遠ざかっていく結衣菜を見ながら首をかしげた。


「……しかし……あの方……どこかで見たような気がするのですけどね……」

「ああ……それは――――まぁ気のせいなんじゃねぇの?」


 言いかけて、はぐらかす。

 サラリーさんは「?」と愛美アフロディーテを見たが、やがて思い出すのを止めた。

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