第71話 昔の人も怖かったと思う。
「は~~い……というわけでぇ~~……高認試験を~~受けることになってしまったようであるぅ~~コーホー……」
相手にしているのはやはり魔法使い姿で店を切り盛りしている
「そうか、良かったじゃないか。……調べてみたんだが、合格率は4~5割程度らしい。でもお前なら問題なく合格できるだろうよ」
「うぅぅぅ……テストはな、テストは……コーホー」
雰囲気に合わせ、木製に変えられたジョッキ。
その中に漂う得体のしれない濁り酒を眺め、気重に唸る。
最近、
どうやら自分のせいでそういう流れになってしまったようだが、結果的に商売繁盛しているようで良かったともいえる。
ランチタイムが終わってすぐだというのに、店内にはまだ仮装に興じた年寄りたちが、思い思いの格好ではしゃいでいた。
……どこの異世界飯屋かな?
そうつぶやいた結衣菜だが、自分が一番濃い扮装だと責められ黙らされた。
メニューも一部変更され、オーガ肉ステーキだとか、コカトライスの唐揚げだとか色々趣向を凝らしている。
……けっきょく気に入ってんじゃないのか。
疑わしい目で
「……問題はその後か? どうするんだ大学行くのか?」
「コーホー……無理無理……やっていける自信がない……スコ~……」
「まぁ……そうだよな。その引き篭もりを治さんことには、まずはどうにもならんよな……」
「コ~~……孝之も同じことを言うんだ……ピュロロロ……」
「……そもそもお前が一番治さなきゃいけないトコはそこだからな。仕事とか学校とかはその次の話だ」
「スコ~~……しかし……私はもう二度と浮世には戻らんと誓った身。……なんとかこのままで、いまの生活のままで生きては行けないものだろうか……ごきゅごきゅ――――ぶほっ!!!!」
謎の濁り酒をあおってムセこんでしまう結衣菜。
東南アジアの辺境からコッソリ輸入した一品だと言われたが……なんだか腐った芋の臭いがする。
「まぁそこは……漫画家とか小説家とか……投資家やインフルエンサー……あとは……」
「コーホー、やはり専業主婦!! であるコーホー!!」
「う~~~~ん……」
「しかもどこの馬の恥骨かもわからん変な男じゃなくて、昔からずっと知っている可愛い可愛い
「いやでも、その本人が嫌がってるんだから」
「コ~~!! いや、アレは照れているだけだ!! もっとこう……思い切って大胆に一線を超えてやればきっとタガも外れて私の絶品ホニャララの夢中に――――」
「いや、いまはもうそういうの女でも犯罪だから」
「貴様が言うかーーーーっ!! シャァーーーーッ!!!!」
「と、とにかく試験は11月だろ? それまでにその格好だけはどうにかしないとイケないな」
「むっ!? なぜだ?? スコ~~!!」
「……だってそんなお前……妙な格好で試験会場とか入れんだろう? 絶対追い返されるぞ?」
「で……そんな格好にされたわけか……」
学校から帰ってきた孝之。
夕飯の準備をしていると、いきなり背後に現れた
新手の幽霊かと、塩を容器ごとぶん投げた孝之だったが、顔面にヒットしたそいつには実体があった。
真っ白な顔をよく見れば、クソほど厚化粧をした
理由を聞いたらカクカクシカジカ……。
「……ん~~~~……そ、それで……この格好ならギリイケる……と?」
「と」
うなずく結衣菜に、
「いけるかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいっ!!!!」
塩を撒き散らしブチ怒る孝之。
「だって鎧並の装甲と、鉄仮面並の顔面防御を兼ね備えた正装っていったらもうコレしかなかったのっ!! いいじゃないコレでも。お姉ちゃんこれならギリギリ外歩けたから!! 日本の伝統衣装だから!! 恥ずかしくないから!!」
真っ赤なオチョボ口を池の鯉ようにパクパクしながら訴える結衣菜に、
「恥ずかしいわ!! 伝統衣装すぎるわっ!! 夜中見たらマジでショック死するから!! トラウマ兵器じゃそんなモーーーーーンッ!! おらぁ脱げーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
「あ~~~~~~~~~~~れ~~~~~~~~~~~~~~~~~!?(嬉)」
かくして。
鎧以上にイカれた格好を見せられた孝之はマジギレし、姉を下着姿までひん剥いた。
そのあと、着物一式を100万円の値段でベルカリに載せた。
翌朝起きたら、どっきゅん国葬さんから予約のメールが届いていた。
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