第70話 だぶすた天国
――――という話を帰りの電車で慎吾にしたら。
「俺なら10人は作れるも~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~んっ!!!!」
つり革にぶら下がりつつ、なぜか鼻血を吹き出しながら謎の張り合いを見せてきた。
目の前に座るOL風のお姉さんが、ビクッと顔を上げる。
「お前それでなんつったYO!! どう答えたんだYO!!」
江頭2:5◯的な股間ドゥーーーーン、からの、取って入れて出すっ!!
リズムに乗ってお姉さんも釣られて踊る。
そんな二人(?)に顔を引くつかせながら孝之は、
「……いや、だからもちろん説教だよ。専業主婦なめんなって……」
「なめてんのはお前だYOっ!!!!」
ヒップでドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!
「痛ってぇって、だから!? あんたもなんなんだよっ!??」
またもや一緒にヒップアタックをしてきたお姉さんにキレる孝之。
お姉さんは素知らぬ顔で座りなおし、外を眺めている。
そんな彼女を守るように慎吾はカバディの構えを崩さない。
「お前はなぁっ!! このご時世、子供を産むってことの尊さを考えたことがあるのKA!! このかつて経験したことがないほどの超高齢化社会の昨今において、将来の我が国をになう、そして我々の老後を支えてくれる次世代の子供を産み落としていただけるということは、どんな高貴な仕事よりも崇高な行為だということが貴様にはわからんのKAーーーーーーーーz!!!!」
でもってまたドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ✕2!!!!
向かいの席まで飛ばされた孝之は、くたびれたバーコードヘアのオジサンに抱きつきながら、
「そうじゃねぇ、俺が言ってるのは主婦ってそんな甘い仕事じゃないって」
「それはお前の気遣い次第だろうGA~~~~~~~~z!!!!」
「はぁっ!??」
「だからお前が!! 炊事も!! 洗濯も!! 掃除も!! 全部やればいいんだろっ!! 言ったろ? 俺ならやるって!! 俺だったらもうホント、産んでくれるだけでいい!! 育ててくれるだけでいい!! 後のことはぜ~~~~~~んぶ俺がやる!! だって出産と子育てってそんくらい大変なことどぅあかぁらぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!」
そしてパーーーーン。
見知らぬモノ同士ハイタッチする慎吾とOL。
密かにフンガフンガと孝之の耳の裏の匂いを嗅いでいるオジサンに、
「そ、そうなんですか……?」
聞いてみるが、オジサンは頬を赤らめながら「ど・く・し・ん」と目を潤ませる。
ダメだ参考にならんと隣の、これまたオジサンを見るが「オッホンッ!!」と咳をして指輪のない左手を見せてきた。
そのまた奥のオバサマも、同じように目をそらした。
「どうだ、わかったか……?」
夕日の逆光を背負って、慎吾が仁王立つ。
そして血の涙を流して拳を握りしめ、
「俺は!! それでもこの人たちを非難しない!! なぜならこの方々は!! 平成の間ずっと続いた暗黒の30年を!! 自分の身と人生を犠牲にして!! 結婚すらも諦め!! 沈みゆく日本で踏ん張り続けて下さった戦士だからだ!! たしかに子供はできなかったかもしれない!! しかし悪いのは作らなかった彼らではなく、その土壌を整備しなかった政府にあるのだ!! 彼らはそのことを、己の人生という長い時間の代償を払って国にわからせてくれた!! そしてようやく助成金が潤うようになった!! ならば今度は俺たちが、それを有り難く受け取り、子供を産んで、国の発展と再興に務めるべきなのではないだろうか!? 結衣菜さんはそういうことを仰っているのだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぃっ!!!!」
演説に涙を流す、オジサマ、オバサマ、そして謎のOL。
孝之は、
「絶っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ対、違うと思う!!!!」
と、反論したかったが、そんなことを言える空気でもなく……。
かわりに――――、
「で、でも……姉ちゃんが大学行くってんなら……時期的に俺たちと同学年になるかもしれないんだけどな。……そうすればお前にだってチャンスが回ってくるかも」
言った瞬間。
どーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんつ!!!!
今の今まで仲間だったOLを弾き飛ばして、
「そうよね!! そうよね!! まずは子作りよりも出会いよね? んも~~~~アタシったらすっかり早とちりしちゃって、孝之がそんなにアタシたちのことを考えててくれただなんて!! そうよ、大学も専門学校も勉強するところじゃなんかないの。そんなの建前で、ほんとはクンツホグレツ遊び惚ける場所なの。時間が余った主婦のダンス教室みたいなところなの。そうやってみんな建前の裏でチュパチュパやって数を増やすの。ねぇみなさんそうでしょう?」
きらめく慎吾に、一転、冷ややかな目線を向けるオジサマたち。
そんな彼らに――――ペッ!!!!
唾を吐きかけるとルンルンな足取りで、停まった電車から降りていった。
そんな
「すいません、すいません。あいつホント頭おかしいんで!! どうか通報だけは勘弁してやってください!!」
そう頭を下げ、逃げるように階段を下りていった。
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