第69話 うっそ??
「……きゅ……92点だとぅ……」
信じられないという目で採点された答案用紙を見る孝之。
ここは家のリビング。
目の前には「どうよ?」と言わんばかりにドヤ顔でふんぞり返っている結衣菜と、あいかわらず魔法使い姿の
ハローワークから結衣菜を回収し、説教したあと部屋に隔離した。
そして一連の出来事を
「……あいつアレで成績良かったから。進学コースの方が良かったのかもな?」
との情報が。
とうてい信じられない事実だったが、義母にメールで確認したところ、
『あ~~あのコそうなのよ。趣味と性格と性癖は壊滅的だったんだけど、見た目と頭だけは良かったのよね~~~~。だからモデルの仕事始める前に、高校三年分の勉強は済ませとくって一年生のときに集中的にやってたわ。……たしかセンター模試で偏差値70とか出てたと思うけど。でも、もうブランクもあるし……いまじゃ50くらいが精々じゃないの? それよりも孝之、あんたあのコに変なイタズラされて―――』
とのこと。
いやいや……高一でセンター模試、70とか……漫画じゃねぇんだから。
いくらなんでもやっぱり信じられない孝之は、ためしに過去問題をネットから拾ってきて数学をやらせてみたのだ。
したらこの点数……。
「……と、跳び級で大学行かなかったの……?」
冷や汗をダラダラ流しながら唾を飲む孝之。
「いや、だからあのバカ母にモデルの仕事やらされたから……。私だって好きで勉強したわけじゃないし。せめて卒業できるくらいの範囲は先にしておこうと思っただけよ? ……まぁ結局卒業しなかったケド……」
言ってちょっとしぼむバカ、もとい天才姉。
「……ほ、ほかの科目もだいたいこんな成績なのか?」
「現役の時はね、いまはどうだろう……保健体育なら100点取る自信はあるわよ?」
ニヤケ顔で言ってくる結衣菜だが、この点数を見せられては笑えない。
だったら医者目指せば? とか言いたくなる。
「と……とりあえず、まずは『高認』取ろう、そ、そして大学受験を……」
驚きつつも話を進める孝之に、結衣菜は曇り顔で、
「え~~~~……それはやだなぁ~~~~」
本当に嫌そうな顔で身をよじった。
「な、なんで? この成績ならいまのままでも、たぶん合格できるよ!?」
「でも学校なんか行きたくないもん」
「なんでさ!? 行ける成績があるんだったら行けよ!! そのほうが絶対得だって、金なら俺から親に相談しておくから!!」
「や~~だ」
「なんで!?」
「……だって意味ないし」
「意味? 意味なんて……」
「大学生とか……人生で一番調子にのってバカな世代じゃない。そんなオロカモノたちに囲まれて四年間とか、ストレスでお姉ちゃん死んじゃうんです~~」
口を尖らせて主張する。
そんな結衣菜をみて孝之は難しい表情を浮かべた。
そもそも結衣菜は対人恐怖症を抱えている現役ニート。
そんな人間をいきなり大学という名の人間テーマパークに放り込むのは、たしかに乱暴が過ぎるかもしれない。
せっかく外に出られるようになってきたのだ。ここで焦って元の
「まぁ、本人が意味ないって言ってるんだから……。だいたいさ、最近じゃ大学ってモノも無闇に行けばイイってもんじゃなくなってきてるらしいぞ?」
そう言うのは
「遊んでばかりいたヘタな低名大卒者よりも、早めに世に出て社会に揉まれている者の方が、実は労力が高いって再認識されているらしくてさ」
「そうだそうだ。もっと言ってやって、もっと言ってやって!!」
嬉しい援護射撃に盛り上がる結衣菜。
孝之は納得いかない風に腕を組む。
「……もちろん目標を持って真面目に勉学に励んでいた優等生は別だぞ? そうじゃなくてさ〝将来楽をするために〟ってな目的だけで〝とりあえず〟進学している奴らはダメってことさ。だってそうだろう? そんな連中、卒業して社会に出たところで真面目に働くわけないじゃないか。そうしないた・め・に・勉強したんだから」
「……ぬむむう……」
そう言われては耳が痛い。
いまもまさにそういう感覚で進学を進めていたからだ。
返す言葉を探して黙り込む孝之。
「そんなことよりもさ、まずは何をしたいかを考える方が大事だろう? その結果、やっぱり大学に行ったほうが良いんなら行けば良い。必要がないなら時間の無駄だ。本当にやるべきことをやった方がいい」
「……じゃ、姉ちゃんは何がしたいんだよ」
聞いてから「しまった……」と手で顔をおおう孝之。
結衣菜は「墓穴を掘ったな」とばかりに目を光らすと、
「あんたのお嫁さんになって専業主婦になりたい。そして五人くらい子供を作って少子化対策に貢献したって大威張りで食っちゃ寝生活を送って運動不足でデブりたい」
「……全国の専業主婦さんにボコられてこい……10回くらい……」
孝之のつぶやきに、
「まぁ、それはそうだよな」
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