第67話 こういう人も増えたね
トイレは庁舎内の共同スペースにあった。
そこへ行く間、目に入ってくる求職者たちの不景気な顔、顔、顔。
設置されたPCで求人票を閲覧しているのだろうが、その全員の目が、ものの見事に死んでいる。
わざわざ施設に出向かなくても携帯でいくらでも検索できるだろうに、それでもここの設備を使っているのは、きっと雰囲気に背中を押してもらわないと決断できないからなのだろう。
現役バリバリのニートである結衣菜にはそれが手に取るようにわかった。
ある者は「て……手取り13万……クソが……」と絶望し。
ある者は「このバカ会社、年中募集してるな……ブラックが……」と呆れ返り。
ある者は「もしゃもしゃもしゃ……」ただ無言で、プリントした求人票を咀嚼し。
そしてまたある者は「やってられるかバァ~~カ。滅びろ日本、いや世界」と、目を座らせながら勝手にゲームソフトをインストールして暇を潰している。
「……なかなか見どころのある同士たちだな」
そんな連中を頼もしく思い、トイレへと急ぐ。
じょばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーー。
ガチャコン――――「ふぅ~~~~~~ぃ」
なんとか用を済まし、面倒くさい鎧を装備しなおす結衣菜。
そして個室から出たところで、
「あんら、ごめんなすぁい♡」
目の前を横切る御婦人とぶつかりそうになった。
婦人は鎧姿の結衣菜を見て少し驚いた顔をしていたが、そのまま通り過ぎ、隣の個室へと入っていった。
「…………………………………………」
結衣菜は無言で固まっていた。
なぜか?
御婦人のスネが毛むくじゃらだったからである。
ついでに顎も青かったからである。
「んっふっふっふ~~~~ん、そうよぅわ・た・すぃ・はぁ・牡牛座ぁのぉぅ女ぅぁ~~~~♪ お気のす・む・ま・で・ぅ笑~~うがいいわぁ~~ん♪」
野太い声で歌う個室に向かって――――ジャキン。
剣を抜く結衣菜。
そして閉められた扉の隙間に切っ先をブッ刺すと、
「ホォァエアーーーーーーーーッ!!!!」
テコの作用で強引に扉をこじ開けた!!
――――ドガッシャン――――ガラガッシャンッ!!!!
外れた扉が勢いよくタイルへと転がり、
「おんぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?? んなにっ!? んなぃいんっ!??」
女子トイレ全体に
「え? ……な、なぁぬぃ!? なぁぬぃ!??」
突然の扉破壊に驚愕し、目をシロクロさせるオジサ――御婦人。
倒れた扉をメキメキと踏みしめ、そこに結衣菜が仁王立ちする。
オジサ――御婦人は綺麗なフリフリのワンピースを着用し、便座に座っていた。
そこに結衣菜が一言。
「コーホー……
威圧的に見下ろした。
オジサ――御婦人はしばらく困惑していたが、やがて我に返ると、
「や……やぁ~~ねぇ~~~~
紫のまぶたで体をくねらすオジサ――御婦人。
手はしっかり自分の股間を押さえている。
「コーホー……そんな毛むくじゃらの足をひけらかして疑うもクソもない。貴様に残された釈明があるとすれば、もはやソコにイチモツがアルかナイかだけだ、コー~~~~~~~~……っ!!!!」
「え~~いやだんお・げ・ひぃ~~ん。……もしあったらどうするのぉ~~ん?」
「フコーー……。ボコボコに成敗した後に裸にひん剥いて、女子トイレの表示パネルとともにM開脚させた姿をSNSに晒す。コーホー……」
「やぁだぁ~~それって犯罪ぃ~~~~」
「コーホー……ここはジェンダーレストイレではなかったはずだ。……もうその時点で貴様のほうが犯罪なのだよコーホー……」
「でもでもぉ~~わたすぃ女だしぃ~~性別って心で決まるものなのよぉ~~?」
「コーホー……言いたいことはそれだけか……フゴ~~!!」
機関車のような湯気を吐き出し目を光らせる結衣菜。
真の女として譲れない一線がそこにはアル。
大剣を両手で振り上げる鎧にオジサ――御婦人は、
「ちょ、ちょっと待ってぇんっ!! わかったぁ、わかったぁケドォ、あなたはどうなのよぉんっ!?」
「――――あんっ!? シュゴーーっ!!」
「あなただって女には見えないわよぉんっ!? そぉんなおかすぃな格好しちゃってさ~~~~ん??」
「私は女だ!! スコー!! 声でわかるだろう!! コーーーーッ!!!!」
「声がなによぅ、わたすぅいだって女よぉんっ!!」
「だから、その証拠を見せろと言っている!! ンゴーーーーッ!!!!」
「……しかたないわねぇ……じゃあ見ておいでなすぁいな!!」
覚悟した顔でそのオジサ――御婦人はバックから携帯を取り出した。
そしておもむろに海外サイト『ボーンパブ』を立ち上げる。
「ぬ……な、なにをする気だ……コ~~~~ッ!!??」
嫌な予感に後ずさる結衣菜。
オジサ――御婦人は構わず〝女性用〟㊙動画を再生する。
するとそこにはイケメン金髪男子二人がくんつほぐれつジャニってて、
――――むくむくむくむく。
それを鑑賞するオジサ――御婦人のスカートがみるみる三角に尖っていった。
結衣菜は、無言で足元の扉を拾い上げると、
「……こ、今回だけは見逃してやるぅ~~コ~~~~……!!」
――――バタコンッ!!!!
悔しさに震えながら、個室を閉めなおした。
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