第63話 運命の二択?
――――ビクッ!!??
学校の帰り道、
無表情でサイフォンを傾ける彼女の姿。
黒く大きな三角帽子に、同じく黒い怪しげなローブ。
首から下げた大玉の宝石(ガラス)は怪しげに赤く光って、背中に細かな装飾を施されたステッキと、分厚い本を背負っている。
一言で言ってしまえば〝ベタな黒魔法使い〟の格好だった。
――――カララララン。
「……ど、ど、ど、どうしたんですか
見過ごすことができず、思わず店に入ってしまう孝之。
「おう孝之、いらっしゃい。……いや、それがな……」
「……え~~~~っとつまりその……。うちの
「……そう。それでな、すっかりウチをソッチ系の店と思い込んだその人は、優衣菜の料理を絶賛しててな」
「泡吹かされたのに!??」
「そこがかえってリアルな世界観だと感動していた」
「どMかな……?」
「……ともかくその人は、この店をもっと本格的にするべきだと、サンプルの服をムリやり持ち込んできたんだよ」
「……それがこの魔法使いの服ですか?」
黙ってうなずく
「いや、私はこんなみっともない格好嫌だったんだけどな、でも……後ろ見てみろ」
言われた通り見ると「――――ぶっ!!」
奥の席には常連さんのお爺さんお婆さんが、いつものごとく茶話を楽しんでいたが、その格好がみんな
「……常連客にも配っていきやがってよ。で、みんな『ファロインじゃ』『フェラインじゃ』って面白がっちゃってな、いまじゃすっかりお茶飲みユニフォームになっちゃってんのよこれが。……客がそうするんなら、店だって合わせないとイケないだろ? それでな」
困った顔で頭を掻く。
集まっているお年寄りは、いつもよりあきらかに多かった。
賢者の格好をしたお爺さん。
占い師の格好をしたお婆さん。
僧侶の格好をしたお爺さん。
ドワーフ鍛冶屋のお爺さん。
ヨレヨレのタレパイもなんのその、ビキニアーマーのお婆さん。
そして仮装大会に釣られてやってきたホビット族の孫・孫・孫。
「な、なるほど……たしかにいつもより繁盛してるみたいですね……。で、でも姉はどうしたんです? ……まさかここで働いているとか!??」
「ありえるか~~~~ぃ」
「ですよね~~~~……」
「キャラは一番立ってるんだが……いくらなんでも技術がない。あれじゃ料理も給仕もなにも任せられん」
「あ~~~~……なんかこないだ……ペペロンチーノだって〝ミルク仕立ての地獄うどん〟を出されたんですけど……」
「……そういうことだ」
「…………ま、まぁでも……あの姉が、問題大アリとはいえ、お客さんの相手ができたっていうのが奇跡だと思いますよ」
「そうか――――…………そうだな。そういえば普通に会話していたなアイツ」
「……最近、スーパーやらデパートやら慎吾やら、いろんな刺激を受けましたからね。もしかすると対人恐怖症が治ってきているのかもしれません」
「そうだといいな。……あいつも学生時代は一軍グループ(スクールカースト)にいたんだ。調子さえ取り戻せは社会復帰なんてすぐにできるだろうさ」
そう言ってくれる
「というわけで姉ちゃん。このどっちかを選んでくれ」
「……なにが『というわけ』なのかな?」
夕飯の冷凍コロッケをポトリと落としながら、優衣菜は目を点にした。
孝之が広げた二つの書類。
一つは職業訓練所のパンフレット。
もう一つは進学塾のパンフレット。
それを見た優衣菜の全身から汗が沸々と湧き上がる。
「……俺、思ったんだけど。やっぱり姉ちゃんは無理にでも外に出たほうがいいと思うんだよ。いつまでも引き籠もっていてもなにも変わらないし……姉ちゃんならきっと、動き出せばなんでもやれるようになると思うんだ」
「無理無理無理無理」
「で、大まかに進む道は二つあると思って、書類を用意してきたんだ」
「無理無理無理無理無理無理無理無理」
「一つはハローワークから申し込める職業訓練所。これはすぐに働ける、様々な実践的な技術を〝ほとんどタダ〟で習得できる『最短社会復帰コース』」
「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理」
「もう一つは、もっと先を考えて『高認』所得後、専門学校か大学へ進むコース。時間はかかるけど、コッチのほうが夢を探しやすいと思う。姉ちゃんだってまだまだ若いんだし、努力すればいまからでも間に合う夢はきっとたくさんあるよ」
「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理」
「とはいえ職業訓練所でも頑張れば充分な資格が取れると思うし、なんなら働きながらでも勉強して、さらにキャリアアップすることだって――――」
そう説明する孝之に、
「お……お嫁さんコースを選択します!!」
ビッっと手を上げ〝夢〟を主張する優衣菜。
対し孝之は、
「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理」
と冷ややかに微笑んだ。
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