第54話 もぉ~~~~ぅ!!

「――――ぎゃあぁぁああぁぁっ!!!!」


 怒りの炎をまとった大太刀が、問答無用容赦なく、頭を狙って襲ってくる。

 孝之はとっさに後ろに転がって、カウンターチェアを盾にして逃げ出した。


「おのれぃ逃すか、この大罪人うらぎりものめっ!!!!」


 ――――ドバシンッ――――ガッシャァンッ!!!!


 血の涙を噴出させた慎吾が、椅子に一太刀入れつつ弾き飛ばす。

 飛ばされた椅子は壁に跳ね返って転がるも、真っ二つにはなっていない。

 どうやら刀は模造品。

 まぁそりゃそうだよね。孝之はとりあえず安心するが、かといって当たって痛くないはずはない。

 げんに合成皮はちょっぴり裂けて、中のスポンジが飛び出していた。


「ちょ、ちょっと待てって!! とにかく落ち着け、これは陰謀だ、策略だ!! 俺はハメられたんだ!! 信じてくれっ!!」

「ハメた!? ハメた!?? 言ったな貴様!? とうとう自白したな!?? おのれおのれおのれ!! おうりゃあぁああぁぁぁぁぁぁあっぁあぁぁぁぁっぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁっっ!!!!!」

「ち、違うってっ!! ハメ〝られた〟っつったんだよ!! ハメ〝た〟なんて一言も言ってねぇっ!! バカかお前っ!???」

「似たようなもんじゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいっ!!!!!!!!」


 ――――バシン、バキャン、バキン、バシン、バキャン、バキン、バシン、バキャン、バキン、バシン、バキャン、バキン、バシン、バキャン、バキンっ!!!!


 妙な解釈にターボをかけて、がむしゃらに乱斬みだれぎってくる慎吾。

 それを必死に椅子で防ぐ孝之。

 二人の大乱闘に、店にいたわずかな客は、壁際をそそくさと渡りお会計をお願いしてくる。


 そんなお客さんに頭を下げてサービスチケットを渡し見送った愛美アフロディーテはカウンターの背にある酒棚から一番安いボトルを取ると、


 ツカツカツカウツカ――――ドバッキャァァァァァンッ!!!!


 荒れ狂う慎吾を後頭部から思いっきりぶん殴った!!





「―――――……ううぅぅ……ん――――はっ!??」


 目が覚めた慎吾は、店の長椅子にロープでグルグル巻にされて寝かされていた。

 頭はびしょびしょに濡れて酒臭く、ズキンズキンと傷んでいた。


「ああ……目覚めたか。案外早かったな」


 状況が飲み込めず、目をシロクロさせている慎吾を愛美アフロディーテが見下ろす。

 その顔を見た慎吾は、


「あ……あなたは……いつぞやの……淫乱バリスタ!??」

「誰が??」


 ――――めしゃ。


 いきなり告げられた不名誉な称号に、反射的に足が出てしまう愛美アフロディーテ

 その素足に顔面を踏まれてしまった慎吾はまんざらでもなさそうな顔で、


「あいや……その……ちょっと最近お世話に……もごもご……いやなんでもありません……」


 不可思議なことを言う慎吾にハテナ顔で首をかしげる愛美アフロディーテ

 向かいに座っている孝之に視線を向けるが、

 プイ。

 あからさまに白々しく視線を逸らされてしまった。


「…………まあいいや……。目ぇ覚めたんなら、起きてさっさと帰んな。営業妨害だから」

「……そういうわけにはいきませんよ」


 冷ややかに言う愛美アフロディーテに、返事をしたのは孝之だった。


「……なんだよ怖い目してんなぁ? だから言ってるだろ? あの日の晩は変に盛り上がって行き過ぎた行為があったんだって。お前が覚えてないコトについては私は知らない。各自自己責任で飲み食いしてたんだから、自分で解決してくれ」


 そんな会話を聞いた慎吾は、殴られたショックで飛んでいた怒りを思い出した。


「あーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!! あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!! あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!! YUINASANNゆいなさんあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!! KillYouぶっころ!! KillYouぶっころ!!!! IWillKillYouぶっころすっ!!!!」

「うっさいわ!!」

KillYoぶっこ――――もがもがっ!???」


 発作的に暴れる慎吾の口に極太ソーセージを突っ込んで黙らせる愛美アフロディーテ


「……こいつなんなの……?」

「ですからぁ……俺の幼馴染の葵慎吾ですって。昔から優衣菜のことが好きで……今日もそのことでモメて、真実を確かめるためココに連れてきたわけですよ」

「ふむふむ。で、私が速攻で最悪の事実を暴露して、そのショックに耐えきれず葵少年は暴れてしまったわけだ? ……しょうがないヤツだなぁ」


 刺さったソーセージをグリグリ喉の奥まで押し込んでやる愛美アフロディーテ

 慎吾はケポケポ嗚咽しながら苦しそうにエビ反っている。


「ん~~~~? どおしたぁ? このぐらいで泣いてたらお前、将来とてもヤッてけないぞぉ~~? オトナになったらなぁ、このぐらいの太さ、すんなり喉に通せるようにならないと一人前とは言われないんだぞ~~~~?」

「な、な、な、なにをやってんだアンタは!! そ、そいつ変態ですけど、ちゃんと女好きだから!! そんな技スリ込んでどうするんですかっ!??」

「……どうするもナニも…………胃カメラの練習だけど? 親父が最近飲まされててな……。ん~~~~~~? たかゆきぃ~~……お前、心汚れてなぁ~~い?」

「んぐぬぬぬぬぅぅ……」


 あ~~~~もうどいつもこいつも腹立つ!!

 ガンガンとテーブルを叩きながら頭を掻きむしる孝之であった。

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