第52話 ちょっとだけよ

 かくかく、シカジカ……。


 すべてを見透かすような妖怪じみた眼力に気圧されて、孝之は経験した事実を包み隠さずありのまま、ダイジェストでお送りした。

 聞き終わった慎吾はなぜか涙をドバドバ流して、


「貴様……たかが高校生男子の分際で……美女二人相手に深夜の酒盛りだとぅ~~~~~~~~……」


 力いっぱい、孝之の首を絞めにかかった。


「……ぐ、ぐえ……ちょ……ちょっとまて……!! ち、違うんだ、だ、だからそんなイイもんじゃなかったんだよ……単に愚痴を聞かされただけで……」

「……その愚痴に、世の中では金を払う紳士もいるんだ。貴様……自分が受けた行為の有り難みをまるでわかっとらんな……!!」


 ぎりぎりぎりぎり……。


「んぐぐぐぅぅ……んだ……から、やめろ……って」

「しかも……しかも、しかも……お前……そのあと……ゆ、ゆ、ゆ、優衣菜さんと同じ布団で、スッポンポンで!! あぅあぅあぅ……朝まで寝てただと~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!! どういうことだ!! なぜそうなった!! なにをした!! なにが起こったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!」


「いやだから知らんって……そ、ソコは……まったく覚えてなくて……ぐぅうぅ」

「そんな羨ましい展開の入り口覚えとらんなんてことがあるかKISAMAきさまーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」


 がったんどたどたガッシャンッ!!!!

 興奮した慎吾に激しく揺れる机。

 孝之は窒息しそうになりながらも、必死に腕を掴み抵抗する。


「お……覚えてないものはしょうが……ないだろう。そ、それまでに……けっこうイロイロあってゲームとか引っ張り出されて……ヤケになって◯飲んで……気がついたらもう、そうなってたんだから……」


 教室のみんなは黙って話を聞いている。

 逆に先生は『何も聞いていない』と耳をふさいだ。


「そんな話が信じられるかっ!!!! お、お、お、お前、まさか優衣菜さんとお、お、お、お前さ、さ、さ、さ、最後までっ!???」

「いや、違う違うっ!! なにもしてないってマジで!! これは本気で本当になにもしてないんだって!!!!」

「だったらどうして『責任取って』なんて言うんだよ!!!!」

「だからそれはたぶん~~~~……状況に乗っかって、自分の都合のいい展開にしようと思っているんだよ……きっとね……ぬぐぐ……」

「きっとってなんだ貴様ーーーーーーーーっ!!!! よもやよもや、ヤルことやっといてシラを切った挙げ句……〝相手の悪巧み〟で逃げようとしておるんじゃないだろうな~~~~~~~~っ!!!!」


 孝之から手を話すと、刀の柄に手をかけ激高する慎吾。

 その顔はすでに涙と鼻水でビチョビチョになり、殺気で血走った目は血管が切れそうになっていた。


「違う!! 絶対違うっ!! 俺はなにもヤッてない無実だ!!」

「じゃあ証拠を見せろぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!」

「どうやってっ!??」

「こうやってじゃいっ!!!!」


 叫ぶと慎吾は孝之のズボンに手をかけ、ベルトを外し、脱がそうとする。


「ば、バカやめろっ!! なにやってんだ、やめろオイっ!!??」

「お前が経験したかどうかなんて見ればすぐわかるんだ!! 手をどけろ!! パンツをズラしてイチモツを俺の前にさらけだせぃっ!!!!」

「できるかよっ!!!!」

「じゃあコッソリでいいよ!! いいからとにかく確認させろ!! いや、させて下さい!! マジでお願いします!! じゃないと俺、胸がギューーーーンってなってるから!! 絶望と不安でギューーーーンなってるからぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」


 気が狂いそうな眼差しで訴えてくる慎吾。


 そこまで言われてしまえば孝之的にも断れず……。


 二人は教室のスミでカーテンに包まりながら〶ィンコを確認した。

 教室の全員が注目するなか、


「ちょまて」「いや見えねぇから」「見えるだろ」「もっと開けろって」「こうかよ」「暗いんだ、もっと光にさらして」「こうかよ」「いやだからもっとこう」「触るなって」「じゃあもっとズラせよ」「無理だって」「だから掴むなって」「貴様こそもっと上に向けろ」「向けられるか」「ピンとさせれば」「お前じゃないんだ操れるか」「あ、見えた」「どうだ」「いや……うん……」


 そんな異常者ふたりに先生から、


「性体験の有無を男性器の色で判断できるというのは迷信ですよ? ある程度刺激が加われば多少は濃くなりますが、それはなにも性行為で、と限ったことではありません。変化しない者はずっと桃色のままというケースも多いです」


 との的確なアドバイスが。


 それを聞いた二人はピタリと動きを止める。

 生徒たちはみなメモを取り、正しい教えに感謝する。

 恥ずかしそうに出てきた二人に先生は、


「授業を再開していいですか?」


 大人の威厳でそう確認してきた。

 二人は真っ赤になってうなずくしかなかった。

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