第48話 もっとめんどうな夜

「よ~~するにぃ……私はねぇ~~そんじゃそこらの〝とりあえず結婚〟なんてしたくないって言ってるのぉ~~!!」

「えらい、よく言った!! それでこそ優衣菜、それでこそ私の後輩だ!! んぐんぐんぐぷっはぁ~~~~~~~~~~っ!!!!」


 あれからゆうに、一時間は経過した。

 時間はすでに日付をまたぎ、土曜日になっていた。

 優衣菜と愛美アフロディーテ、二人の酒盛りはまだまだ続く。


「私はぁ~~誰になんと言われようと~~ホントにしたい相手としか結婚しないし~~ダメだっていうんならぁ~~一生誰とも結婚しなぁ~~い」


 全く笑っていない目で孝之を見る優衣菜だが、孝之は携帯をいじくって相手にしないようにしている。

 ただその額には汗が目一杯浮かんでいた。

 そんな優衣菜の宣言に愛美アフロディーテは感涙し、唇を噛みしめる。


「く~~~~そうそうそれそれ!! それでこそホントの愛、ホントの結婚ってもんだよ!! そんじゃそこらのやつってさ~~どいつもこいつも簡単に相手決めてるけど、なんかウソっぽくねぇ!?」

「あ~~もう、ウソっぽいウソっぽい!! ちょっと意気投合しただけで〝恋〟とか言って、すぐ結婚して、で、ちょっと喧嘩でもしたら〝冷めた〟とか言って離婚するの。それってぇ~~結婚じゃなくてだたの同棲生活じゃん!?」


「だよなだよな、そうだよな!? 結婚ってさ『一生』『なにがあっても』『添い遂げる』〝覚悟〟の宣言だと思ってんだよは!!」


 とうとう自分を〝俺〟呼ばわりし始めた愛美アフロディーテに、目を塞ぐ孝之。

 どうやら土曜の予定はキャンセルしたほうがよさそうだ。


「それを白々しく誓っておいて、いざ結婚生活始めたら、やれ価値観が合わないだの、やれ精神的に疲れただの、やれ相手が浮気しただの、とにかく難癖つけまくって結局別れやがんの!! あのなぁ~~~……『なにがあっても』って意味わかってるかぁ~~? 一生一緒にいるっていってんだよ、そりゃ色んなことがあるよ!! それでも『死が二人を分かつまで』でうたったんだろ!! だったら簡単にひっくり返してんじゃねぇ!! どんなけ薄っぺらい〝覚悟〟なんだよそりゃぁっ!!」


「そうそう!! そういう連中に限って離婚した後ドヤ顔で言うの『自分は〝一度結婚〟した』って。アホかと、バカかと!?? それってさ、富士山に登るって言いながら途中で下りてきたくせに経験者気取ってる痛いやつと一緒だよ!!」


「マジそれ、マジでそれ!! マジでそういうヤツいっぱいる!! てか俺にカラんできたオヤジまさにそうだよ!! あいつバツ2だぜたしか!? それで結婚語ってんだぜ、マジでふざけんなっ!! お前だって全然〝結婚〟できてねぇじゃねぇかよ〝結婚しようと挑戦しただけ〟のヤツじゃねえかよ!! なんにもやり遂げてねぇんだよ。紙、役所に出しただけで〝結婚〟だと思うなよ!? 最後までやり遂げて初めて〝結婚〟なんだよ!! それで先輩ヅラして説教たれてんじゃねぇよ!! なにが女は30過ぎたら相手にされないだよ!! どこから見下ろして言ってんだよテメェはよーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!!!」


「はいそこで孝之、一言どうぞ!!」

「ジョセイハ、30カラガ、ホンバンダト、オモイマス」


「「心がこもってなぁ~~~~~~~~~~いっ!!!!!!!!」」


 ――――どんがらがっしゃん、がらがらどっかんっ!!!!


 美女二人に怒られ揉みくちゃにされ、ひっくり返される孝之。

 健全な男子なら、それはある意味ご褒美なのだが、いかんせんコッチも異常者に片足突っ込んでいるので本気に嫌でしかない。


「お前ぇやっぱり年増が嫌なんだろう!? いや、それともあれか? ピンクの髪したスク水美少女がいいのかぁ!? ツインテールボンキュッボンがいいのかぁ!? まさかお前まで30女は羊水が◯ってるとか問題発言するんじゃネエダロウナ!!」


 疑いの眼差し全開でほっぺをにょ~~~~んってしてくる愛美アフロディーテ

 孝之は痛みに涙しながらも携帯でメッセージを送る。


『女は30こえると羊水が◯るのか? また、そんな女性をどう思う?』


 宛先は慎吾。

 返事はすぐに返ってきた。


『◯らないし、そうだとしてもむしろご褒美』


 さすが奴だ。

 いつも俺の望んだ答えを返してくれる。

 そんなメッセージを愛美アフロディーテに見せてやると、


「んだろ~~~~ん? そうだろぉ~~~~ん?? やっぱ若いヤツはわかってるって。年増にゃ年増の魅力ってやつがあるんだよ女にはなぁ!! ――――って誰が年増やねん!! 俺はまだ24じゃーーーーーーーーいっ!!!!」


 だめだ、完全に酔っ払っている。

 こんなヤツに付き合っていたらこの後ナニされるかわかったもんじゃない。


「じゃ、じゃあそういうことで。女性はいつまでも魅力的で、結婚もいつだってできるものです。なので焦らず慌てず妥協せず、後悔のない相手選びをマイペースでどうぞ、それが正解。ではおやすみなさい」


 さっさと話を締めて退散しようとする孝之。

 そうはさせるかと、寝間着のズボンを背後から引っ張る優衣菜。


「どぉぅわっ!! や、やめろやめろ!!」


 伸び切ったゴム。

 隙間からはプリプリな半ケツがお目見えする。

 慌てて引き上げる孝之に、


「だからって、ゆっくりしたいわけじゃないんだよ? 本当に好きな相手が側にいたなら、すぐにでも一緒になってコドモを産みたいって思うのがオ・ン・ナ。そこのトコロ、孝之はどう思ってくれてるの?」


 うるうるした瞳で訴えてくる優衣菜だが、


「アンタはそれ以前にツツシミを覚えろ。そして世に出て働いて最低限の常識と生活力を身につけろ。いまどき男に養ってもらうとか、それこそ言ってることが昭和のオヤジと変わらんし、そんな根性じゃ誰と結婚しても見放されるぞ!!」

「ぐはぁっ!?」


 ガッツリ冷ややかに、正論カウンターを浴びせられノックダウンしてしまった。

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