第47話 めんどうな夜
「……お前たち。結婚についてどう考えている?」
金曜、深夜23:00の三笠家リビング。
ハイネケンの缶を片手に、
片足を行儀悪く立てながら、赤ら顔でソファーにふんぞり返っている。
テーブルには大量のコンビニオツマミが並んで、その向かいには優衣菜が同じく酔っ払っている。
間の一人掛けには孝之が居心地悪そうにポテトをかじっていた。
「い、いきなりなんなんですか……そんなことまだ考えてるわけ――――」
「来年するつもりで~~す。先輩、そのときはスピーチお願いすると思うんでよろしくお願いしま~~~~っす、ふひひ」
「ふひひ、じゃねーよ勝手に決めんな!!」
「あ~~~~お前らに聞いた私がバカだったか……」
ついさっき、酒を持参した
何事かと尋ねると「店でムカつく客に絡まれたので愚痴らせろ」という。
孝之の風呂上がりを狙ってイタズラしようとお尻を振っていた優衣菜は、ジャマな来客に繁華街のホストクラブを勧めたが「バカ野郎」の一言で一蹴され、上がり込まれてしまった。
で、始まってしまった酒盛り。
事の発端は
『いや、自分はまだそんな気はない』
と返事した
『ダメダメ、女なんて油断してるとす~~ぐ腐っちゃうから、そうなる前にさっさといい男つかまえて子供作っちゃいなよ。じゃなきゃあっという間に〝イカズゴケ〟って笑われっちまうから』
ムカッとした
ぐっとこらえて笑顔をつくり、
『で、でも私はまだ24だから、まだまだ全然大丈夫だから』
そう返すと、
『24!? もうそうなるか? いや~~こないだまでションベンタレのじゃりン子だったと思ったんだが、もうそのトシか!? だったらなおさら結婚しなきゃ~~。女は25超えたらもうオバさんよ? いまは良いかもしれんけど、そうなったら急に男はソッポ向くから。そっから先の30なんてもうすぐそこよ。知ってるか? 女って30過ぎたら羊水が◯――――』
なんて言ってきたので、笑顔のまま臨界点突破した
「なにがオバさんだ!! イカズゴケだ!! 羊水が◯るだーーーー!!!! あんの昭和の化石ジジイが!! 価値観が終わってんだよ!! お前らの野蛮で幼稚で原始的な常識とか知・ら・ん・し!!!! 氷◯期かなんだが知らねーが、そんなんだから時代に見放されんじゃねーのか!? いまどきセクハラもわかってねえやつが偉そうに人生語ってんじゃねぇよーーーーーーーーーーっ!!!!」
そしてどう思う!?
と、孝之を睨みつけてくる
目が血走っている。
「……ど、どう思うってま、まぁ……」
つい先日、まさにこの二人にクリティカル級のセクハラを複数回受けた孝之はどう答えたらいいかわからない。
しかしここは話を合わせといたほうが無難だろうと、気持ちをよそに
「まあ俺は……女性もいつだって結婚できると思いますけど?」
その言葉を聞いた
「だろう? そうだろ~~う? そんな年齢気にして適当な相手と無理やり早く結婚とか、いまどき流行んねぇよなぁ!?」
「うん。まぁそれはホントにそう思いますよ。やっぱり結婚って計算でやっちゃダメだと思います。年齢とか収入とか容姿とか将来性とか、そんな打算で結婚しても絶対幸せにはなれないと思いますし」
いいつつ優衣菜に視線を向ける。
「私は孝之の全部が好きなの。見た目も将来性も子供の頃からコツコツ貯めていた貯金も。もちろん二次元オタクなところも受け入れちゃうから。これがお姉ちゃんのキ・モ・チ・♡」
「……あのなぁ」
「だよな!! やっぱ気持ちが大事だよな!! 気持ちさえあればオバさんだろうが貧乏だろうが元ヤンだろうが関係ねぇよな!!」
「そりゃぁ……まぁ……はい」
「なんだぁ~~気のない返事だなぁ~~!? ……まさか孝之お前、調子のいいこと言っといて、若くて美人で頭が良くてオシトヤカな金持ちの女が好きなんじゃねぇだろうなぁ~~~~」
「い……いや、そんな。ち、違いますよ?」
「あ、いまちょっとドモッた。……孝之それホントなの? お姉ちゃん若くて美人はなんとかするけど、頭と性格は自信ないよ? え~~やだぁそんなこと言うの孝之じゃな~~い」
「孝之だよ。言ってねえし。言ってねぇケド姉ちゃんと結婚はしないし!!」
「やっぱりバカで変態なところが嫌なのね。ひどいわ、え~~~~ん!!」
「自覚はあるのか!? いやそんな理由じゃないし。姉弟だからだって最初っから言ってるだろうが!!」
「そんなこと言って……お前……やっぱり年増の女がキライなんだろ!?」
ズズイと顔を近づけてくる
息がすでに酒臭い。
「い……いやだから、そんなんじゃなくてですね……」
「失礼な、私〝は〟まだ年増じゃありませんケド?」
「〝は〟っていうな〝は〟って!!」
……うわぁ面倒くさい。
年齢を気にし始めた二十代半ばの女子って、ある意味昭和のセクハラオヤジより厄介かもしれない……。
もちろんそんなことを口にできるはずもなく、孝之はただ愛想笑いを浮かべてこの場を乗り切るしかないのだった。
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