第23話 この世など滅びてしまえ
「姉ちゃんやめろっ!! 頼むからやめてくれっ!!」
叫び声に気がついた優衣菜は『今度こそ何かいる!!』と確信し、恐怖を振り払って部屋に駆けつけ飛び込んだ。
そこには案の定、慎吾がいて、彼はなぜか血の涙を流していた。
弟以外の人間に部屋を物色されていたと知った優衣菜は半狂乱になり、トイレ吸盤を振り回して大暴れ。抵抗のできない慎吾は、いいだけボコされ顔面一杯に吸盤を押し付けられゴミに埋もれている。
トドメとばかりサンポールをぶっかけようとする優衣菜だったが、すんでのところで孝之に羽交い締めにされ止められてしまった。
「離して!! 止めないでっ!! 変態よ!! 変質者よ!! こんなやつは滅っさなきゃ!! 退治しなきゃっ!!!!」
「バイ菌じゃないんだ、そんなもんじゃどうにもならない!! それにこいつは慎吾だ!! 変質者じゃない!!!!」
言われて一瞬、動きを止める優衣菜だが、やがてすぐに力を込めると、
「た……退治……退治しなきゃ!!!!」
慎吾のズボンの隙間に洗剤を突っ込み、中身をひりだそうとする。
「やめろやめろ!! 確信持って殺そうとするな!! そ、そ、ソコに!! ソコにソレはまずいって!! やめろ、やめてやってくれ!!!!」
いくらドジを踏んだ悪友といえど、これからの希望に満ちたソレにコレを注入してアレがシャレにならないことになっては可哀想すぎる。
孝之はとにかく怒りを収めるよう、必死に優衣菜をなだめるのだった。
「……で、この始末はどうしてくれるのかしら?」
すべての事情を聞いた優衣菜は、リビングのテーブルに肘を付き、組んだ両手に顎を乗せて二人を睨んだ。
孝之と慎吾はお互いに顔を見合わせると、肩をすぼめながらも、ぼそぼそと言い訳をしはじめた。
「いえその……僕は、孝之くんにそそのかされて……それに優衣菜さんの将来も心配してその……使命感というか……けっしてやましい気持ちなどなく……」
「んっ」
しどろもどろ、目を泳がせる慎吾。
そんな
「あ……そ、そ、それは……それだけは!! なにとぞ……なにとぞ~~~~……!!!!」
まるで悪地主に取り立てられた小作人のごとく、お慈悲にすがる慎吾だが、優衣菜は目も合わそうとせず黙ってソレをゴミ箱に捨てた。
「お、俺は謝らねぇぞ。そ、そ、そもそも姉ちゃんが無理やりあんな写真取るから……。取り返そうとしただけだ!!」
「だからって、なんでこんな知らない男を部屋に入れちゃうわけ?? 信じらんないだけど!? やりたければ自分でやればいいじゃない!!」
開き直り、自分の正当性を押してくる孝之に、反論する優衣菜。
〝知らない男〟とバッサリ斬られた慎吾は口から魂を蒸発させて脱力している。
「いままでさんざん信じられないことしてきたお前が言うな!! 真っ裸で弟の風呂に飛び込んできた常識知らずはどこのどいつだよ!!」
「身内だったら一緒にお風呂に入るのは当然でしょ!? 知らない変質者に姉を売る方がよっぽど常識知らずじゃない!!」
「当然じゃねーーしっ! 当然じゃねーーしっ!! 当然じゃねーーしーーーーーーーーーーっ!!!! そもそも姉ちゃんの〝異常〟が原因でゼンブこうなったんだよ!!」
「なにが異常よ!! 姉が弟を愛して何がイケナイの!?? キスだって昔からしてたじゃないっ!!!!」
「お前、それバッカ――――」
「
そのフレーズに、さっき見た悪夢を思い出し雄叫ぶ慎吾。
髪は逆立ち、全身から吹き出た金色のオーラは天井に届かんばかりに燃え盛る。
血走った目からは赤い雫が
精神の限界をゆうに超えた
「おまおまおまおまっ!!!!」
そして口をパクパク。
溺れかけた鯉のように、孝之と優衣菜を交互に指差す。
「おま、お前……まさか、ちゅ……中学のころから……おまおまおまおま……」
汗びっしょりになりながら孝之に迫る。
この男が何を見たのか。
優衣菜が暴れ、モニターが消えるまでの一瞬で、孝之は確認していた。
あれは……昔、優衣菜が悪ふざけで撮ったドッキリ動画。
キスは本気でされたので、実はドッキリでもなんでもなかった悪夢の動画。
カメラを取り上げ消去していたつもりだったが……まさかコピーが存在していたとは迂闊だった。
「か、勘違いするなよ……あ、あれは単なるお遊び――――あ、いや……」
「おあそびだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ????????????????????」
言葉の選択を間違えた、と口を押さえる孝之。
そこに追い打ちをかけるように、
「アレ……お姉ちゃんにとってもハ・ジ・メ・テだったのよね。たかゆき♡」
優衣菜が孝之の胸にもたれかかる。
それを見た慎吾は、
「Damnーーー
耳から血を吹き出し、絶叫しながら飛び出していった。
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