第19話 魂の叫び
高鳴る胸を抑えつつ、ゆっくりと、禁断の扉を開ける慎吾。
音を立てないように少しずつ、少しずつ開いていく扉からは、優衣菜のフェロモンをたっぷり濃縮した空気が、もわぁん、と漂ってくる。
「すぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……」
その宝石のような甘酸っぱい香りを、限界まで胸に吸い込む慎吾。
すでにやっていることは不法侵入のチカンとなにも変わらないが、17歳という、性に対してのブレーキがぶっ壊れている年頃の彼に、冷静になれというほうが間違いなのだろう。
弟の許可は得ている、という大義名分も、さらに彼を自由にさせていた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……でりぃ~~しゃぁす……」
頬を火照らせ、悦に目をトロませる。
行為は犯罪スレスレかもしれないが、その顔はもはや完全アウト。
そしていよいよ慎吾は、行為までをもライン越えしようとする。
すなわち部屋への侵入である。
「あ、失礼いたします」
極めて紳士的に会釈をし、扉をさらに少し開ける。
そして滑り込むようにその隙間へ身体を滑り込ませると、慎吾はとうとう、彼にとっての夢の花園へと入り込んでしまった。
(おぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!)
部屋の中は、私物とゴミの山だった。
食べ散らかしたお菓子の袋に、カップ麺の容器。
散乱した雑誌にゲームの箱。
隅にかためられた、いくつもの買い物袋にはパンパンにゴミが詰められ、その中から丸められた、いくつものティッシュがこぼれ落ちている。
孝之は地獄絵図だと吐き気を覚えたが、慎吾は違う。
まるで宝の山を見るようだ、と感涙にむせんでいた。
そして煩悩のままに、足元に落ちていた布切れに手を伸ばす。
拾い上げ、広げたそれは、きっと使用済みの物だろう。
かぐわしい香りのするピンク色のパンティーだった。
「
天井を突き抜けて意味不明の英語が降ってきた。
孝之が作ってくれた食事を機嫌よく楽しんでいた優衣菜は『?』と上を見上げる。
上手くやってくれることを祈っていた孝之は、鼻から味噌汁を吹き出して
(あのヤロウ……なにコウフンしてやがんだ……)
「はて? いまの声は……?」
天井を見上げたまま怪訝に首をかしげる優衣菜。
孝之は慌てて、
「は? こえ!? な、なんのことかな?? お、お、俺、なにも聞こえなかったケド????」
誤魔化してみるが、
「ん~~~~~~? ……絶対きこえたよぉ~~? ……すごくハッキリと」
優衣菜はさすがに『なに言ってんの』と不思議に見返してきた。
やはり無理があったと目を泳がせ、孝之は新たな言い訳を考える。
「あ、いや……あの~~アレだよ――――ね、猫とか?」
「……最近の猫は……英語を喋るのかね?」
「い、いや、だから……け、喧嘩の声とか『ほにゃらがぎゃぎゃぎゃにゃ~~~~!!!!』って、なんか英語っぽく聞こえることあるじゃん」
「ん~~~~……??? ……………………にしてもね。……お姉ちゃんの部屋から聞こえた気がするんだけど……??」
「そそそそそうかなぁ~~?? いや違うんじゃないの!? お、お、お、俺は隣の屋根ぐらいからき、き、聞こえたケド……?」
必死に嘘を並べ立てる孝之だが、
――――ゴトゴト……ゴトトン。
その努力を台無しにするかのように、追加で物音が聞こえてきた。
「ほ、ほら~~~~やっぱり!! あ、あたしの部屋だよ!! な、な、な、なにかいるよ!? ぜ、ぜ、絶対、なにかいるよ!!??」
確信すると、優衣菜はすぐさま立ち上がってトイレに駆け込んだ。
そして配管詰まり用の吸盤を持ち出すと、
「た、た、た、孝之!! つ、つ、ついてきて!! 絶対……絶対上になにかいるから。……へ、へ、へ、変質者とかっ!!??」
青い顔をしながら怯える優衣菜。
当たらずも遠からじ。
いや、もう九割がた当たっている読みだが、正解とは言ってやれない孝之。
「わかった、わかったから、とりあえずいったんそのバッチイのをトイレに戻そうか。へ、部屋は俺が見てくるから!! 姉ちゃんはここにいてくれ、な!!」
孝之の申し出に、青ざめたまま無言でコクコクうなずく優衣菜。
(やれやれだ……しっかりしてくれよ慎吾よ~~……)
とりあえず怪しまれないように玄関に置いてある甲冑セットから剣を抜くと、警戒する演技をしながら、孝之は二階へと上がっていった。
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