第16話 嬲り。

「………………………………………………………………」

「………………………………………………………………」


 天井とベッド。

 天地別れた両方から、見つめ合う二人。

 しばらくの気まずい時間が流れた後――――。


 ――――パシャパシャパシャパシャッ!!!!


 優衣菜は光の速度で携帯を取りだすと、シャッターを連射した。


「――――なっ!???」


 慌てて顔を隠す孝之。だがもう遅い。


「――――ぬふっ♪」


 いやらしい笑顔を満面に、優衣菜はにゅるん、と蛇のように検査口から下りてくる。


「ち、ち、ち、ち、違うぞ姉ちゃん!! こ、こ、こ、これは姉ちゃんを探して部屋に入ったら足が転がって、なんだかんだでこうなっただけだっ!!!!」


 姉のニヤケ顔から、あらぬ誤解をしていると、慌てて弁解する孝之。

 優衣菜はそんな弟の上に下りてくると、


「既成事実、確保~~~~~~~~……うふふふふふふふふふ」


 嬉しそうに笑い、トドメにもう一枚シャッターを押した。

 孝之は姉の言葉の意味に気が付くと、慌ててパンツとパジャマを放り投げるが……すべては後の祭りだった。


「そっか~~♪ そっかそっか~~~~♪ 孝之がねぇ~~ふぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん♪ まぁ~~ぁタカユキもぉ~~~~。もうお年頃だからぁ~~。おイタをしたい気持ちもわかるんだけどぉ~~~~~。でもぉ~~うふふふふふふふふふふ。お姉ちゃんに興味持っちゃったらぁ~~ダ・メ・よ・?」

「いや……だ、だから違うって言ってるだろ!! これは誤解で!!」

「しゃらーーーーーーーーーーっぷっ!!!!」


 必死に言い訳をする孝之に、優衣菜は撮ったばかりの写真を見せつける。

 そこには、薄暗い部屋の中、姉のベットで、姉のパジャマと下着に絡まってビックリ顔を向ける孝之おとうとの姿がはっきりと映っていた。

 それは……どうみても犯罪現場を見られてしまった変態男にしか見えなかった。


「……これを世界にばら撒かれたらどうなるか? 言わずともわかるわよね孝之?」

「ぐっ……」


 ――――……とんだ失態を犯してしまった。

 孝之は自分が犯してしまったミスを死ぬほど悔やんだ。


「おっとぉ~~取り上げようとしても無駄よ? すでに写真のコピーは私のPCとクラウドに預けてあるから。へたな真似をしたらその場でズドンだからね」


 不敵に笑い、SNSの投稿ボタンに指をかける優衣菜。

 抜け目のない、素早い行動であった。

 孝之は緊張した表情で冷や汗を流すと、観念したように、静かに両手を頭の後ろで組んだ。


「オ~~ケ~~~~イ、わかってるじゃないの。そうしたら次は……投げ捨てたお姉ちゃんのパンティを拾って、頭にかぶりなさい」

「――――!? ……や、やめろ……そ、そ、そんなことをしたら……どうなるかわかっているのか!?」

「もちろんよ。タカユキ~~~~♪ これであなたは一生……お姉ちゃんに逆らえなくなるのよ~~~~うふふふふふふふふふ」

「で……できない!! そ、そ、そんなことになったら俺の一生は台無しじゃないか!!!!」

「わかってないのねぇ~~~~。あなた……もうこの時点で終わっちゃってるのよ~~~~。『姉の部屋にて禁断の性欲処理をする変態弟』……これがお友達にバラされちゃったら……それだけであなたの青春はもうバッキバキからへにゃへにゃに転落しちゃうんだからね~~うふふふふふふふ♪」

「――――ぐっ!?? し、し、しかし姉ちゃんだって俺の部屋に忍び込んでただろう!? わかってたんだぞ!! 何してたんだ!!」


 反撃とばかり言い返す孝之。

 しかし優衣菜は余裕の笑みを浮かべて、


「あなたの布団に、お姉ちゃんのフェロモンを刷り込んでたに決まっているじゃない。さらに部屋中に媚薬スプレーを撒き散らしておいたわ」

「な、なんてことしやがる!?? この変態が!!」

「そうよ、お姉ちゃんはね〝変態〟よ。だからね、部屋に忍び込んでたことバレたとしても全然平気なの。別にいいわよ言いふらしても。むしろそのほうが燃えるわ、お姉ちゃん。うふふふふふふふふふ」

「く、くっそ~~~~無敵か……。 し、しかしパンツは……パンツをかぶらせるのだけはやめてくれ……。そ、そ、そんなことをされたら俺はもう……明日から太陽を見て歩けなくなる……」


 本気で怯える孝之。

 優衣菜はそんな孝之の体に絡みつくと、


「……しょうがないわねぇ……じゃあ今日のところは……これでカンベンしてあ・げ・る」


 と、頬を赤らめ、できうる限りの色っぽい表情をつくると、孝之の胸に顔をうずめ、その状態をパシャリ。


「ぐぅぅぅ――!!」

「うふふふふふふふふふふふふふ……ごちそうさま。……これでもじゅうぶん、あなたには効果的よね?。明日から楽しみねぇ~~~~タ・カ・ユ・キ♪」


 致命傷に近い一撃をくらった孝之。フラフラと、生気のない顔を揺らし弱々しく階段を下りていく。


 その姿を、魔界の女王のようなサディスティックな目で優衣菜は見下ろしていた。

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