第13話 どこ行った?
次の日――――昼休み。
「ううう……あんまりだ……あんまりだぁ~~~~」
通りすがりのマダムに
そのことがショックで『もうお婿にいけない』と朝からずっと教室で泣いていた。
孝之はというと、あの後、優衣菜と大格闘の末、例の下半身鍋を庭のスタッフへ献上することに成功した。
優衣菜は泣き叫んでいたが、一口食べただけの慎吾がああなったのだ。普通に食べさせられていたら、いまごろ孝之の下半身はズボンに収まらないほどホニャララっていたに違いない。
「まぁ……通報されなかっただけ良かったじゃないか」
「ひ……人ごとみたいに言うな……。お前……あのあと俺がウチに帰ってどんな思いで処理したと思ってんだ……おさまらねぇんだぞ? 一回や二回じゃ――――」
「……わかった説明せんでいい」
「もうな、ずっと痛いのさ。頭が。真っ赤に擦り切れそうになってるのさ、頭が」
「わかったから!! ……具体的に不具合を報告するな。せっかくの弁当が不味くなる……」
今日の弁当はチャーハンだった。
弁当箱いっぱいに敷き詰められたそれを見て、慎吾は意外そうな顔をする。
「……今日のはずいぶんと美味そうだな。……またお前が作ってきたのか?」
「いや、姉ちゃんに作ってもらった」
「そ、そうなのか? に……してはお前……なんというか、普通に見えるんだが……? いや、優衣菜さんが作ったものならなんでも美味しそうに見えるぞ俺は、ただ俺が言いたいのはだな……」
「……あれだけの目にあわされて、まだお前はそんなこと言ってるのか……。これはなぁ俺が監視しながら冷凍食品をチンさせただけだよ」
「お、そ、そうか……。なるほどな……冷凍食品か。それなら優衣菜さんでも失敗のしようがないな!! うん……いや昨日の鍋も、その前のおにぎりも美味かったけどな、無論な!!」
うなずきつつ、一口拝借する慎吾。
「んあぁ~~……。やっぱりただの冷食でも、優衣菜さんがチンしたと思うとカクベツ美味く感じるな~~。レンジのボタンを押す優衣菜さんのなめらかな指先が感じられて……俺はもうまた大惨事になりそうだよ」
「生涯の黒歴史を刻んでもいいのなら勝手にしろ。そのかわりやるんなら廊下に出てやってくれ、俺は関わりたくない」
――――放課後。
帰宅した孝之は玄関ノブに手をかけたまま、背後を確認していた。
どうせまた開けた途端、バカ姉が半裸で抱きついてくるのだろう。
一悶着が避けられないのはもう諦めたが、せめて近所におかしな噂が広まるのだけは勘弁してもらいたい。
そうでなくても、親不在で血の繋がりの無い姉弟が二人っきりで暮らしていると、早くも話題になっているっぽいのだ。
今更ながら、そんな姉弟を置いてフランスに行ってしまった両親の良識を疑う。
「……よし、いいな」
背後の道に誰もいないことを確認して孝之は玄関を開けた。
同時に左右に体を揺らしフェイントをかける!!
そうしながら滑り込むように家内に侵入すると、すばやく扉を閉めた。
――――バタンッ!!
「ふ~~~~。今日はなんとか変なとこ見られずに済んだようだな――――って、あれ?」
胸をなでおろし安心する孝之だが、一つ足りないことに気がつく。
「……姉ちゃんは?」
待ち構えてると思っていた姉がいなかったのだ。
「…………はて?」
いや、全然いいのだが。
昨日、一昨日の行動を見るに、今日も絶対変態行動をしてくると思っていたので、なんだか肩透かしをもらった気分になった。
し~~~~~~~~ん……。
家の中が妙に静かだった。
まるで生活音がしていない。
「ん? まさか……いないのか?」
外出でもしているのかと思ったが、下駄箱の横には昨日の甲冑が置かれたままだった。
一応、甲冑について釈明を聞いてみたが、人間嫌いで人類滅亡をわりと本気で願っている姉は、これがないと怖くて外を歩けないのだという。
予想していた通り。そして社会的にはアウトなのだが、言っても仕方がない。
山積みの問題に整理券を配るとしたら、この件はかなり後回しになる。
ともかくそれがここに置いてあるということは、姉は家にいるということ。
「……姉ちゃん?」
リビングを確認する。いない。
「……お~~い」
キッチン。いない。
「入ってる~~?」
トイレもいない。
風呂場もいない。
「……はて?」
その他、どの部屋にも優衣菜の姿はなかった。
残る部屋は二つ。
一つは優衣菜の自室。
もう一つは孝之の部屋。
孝之は、並ぶ二つの扉を見比べて難しい顔をした。
――――姉はどっちかにいる。
自室ならば良し。
しかし俺の部屋だったら……?
ごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごご……。
ふ~~~~~~~~~~……。
あれだけ部屋には入るなと言っておいたのだ、まさかとは思うが……。
孝之は逆立つ怒髪天を抑え、冷静さを保とうと深呼吸をした。
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