第6話 キツイんじゃ
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
一糸乱れぬ正論の四連撃を浴びせられ、優衣菜は泣き出すことしかできなかった。そんな姉に孝之は一切の妥協を許さず辛辣に言い放つ。
「泣いても無駄だ!! とにかく明日からこのスケジュール通りに動いてもらうからな!!」
「ひどいわひどいわ、どうして急にそんな意地悪言うの!? 愛の裏返し!? 裏返しなのね!?」
「断じてち・が・う・!! いいか姉ちゃん、親がいなくなった今こそ、俺たちはしっかり二人で協力して生活していかなくちゃならないんだ。これを機会に姉ちゃんには真人間に戻ってもらうぞ!!」
「どおして??」
「どおしてにどおしてを返したい!! どおしたらここでそんな純粋なハテナ顔を作れるんだ!? 将来のこととか考えたことないのか!??」
「あるわよ、あるからこうやって孝之のお嫁さんになろうと必死に誘惑しているんじゃない!! ねぇ~~お姉ちゃんと結婚しようよ~~。永久就職させてよ~~。18歳になったらすぐに届けを出して親と私を安心させてよ~~弟ぉ~~」
「人聞きが悪すぎるーーーーーーーーっ!! お前それ外で絶対言うなよ、言ったら終わるぞ色々と!!!!」
ズボンに引っかかり泣きべそをかく優衣菜。
引き剥がそうとあばれる孝之。
もつれてソファー前のテーブルを激しく揺らした。
ガチャンとレコーダーのリモコンが床に落ちる。
その衝撃で再生ボタンが押されたか、モニターが点灯し、何かの動画が再生された。
「あはん、あふん、ばかん、いやん」
映し出されたのはアダルトビデオ。
しかも姉弟がくんつほぐれる畜生道であった。
「せいっ!!」
ブチブチがっしゃんっ!!!!
孝之はテレビ台の中にあったHDDレコーダーを本体ごと引っこ抜くと、力いっぱい庭に放り投げた!!
レコーダーは塀のコンクリートにぶつかってバラバラに砕け散った。
「な……なんだいまのは……?」
ごごごごご……!!
犯人は一人しかいない。
状況を整理する工程をすっとばして、どういうつもりかバカ姉に問う。
「い、いやぁ……そのぉ……場を盛り上げようと思って……。ほら、助走があれば孝之だって新たな世界に飛び込みやすいでしょ?」
うふ。っと可愛く首を傾ける
その首を捻って庭にさらしてやろうかと衝動にかられる孝之。
だが、そこに――――、
「どういうことだ貴様ーーーーっ!!」
突如、開けたリビングの窓からブレザー姿のメガネ男子が飛び込んできた!!
「ぬぉっ!?? ――――し、慎吾っ!?」
いきなり現れた幼なじみに、孝之は50センチほど飛び上がる。
「なんで!? いきなりどうした突然!???」
「貴様が優衣菜さんに不埒を働かぬよう、草葉の陰からずっと見張ってたんだよ!! したらお前……い、い、い、いかがわしい声があふんあふんと……き、き、貴様学校ではあんなすまし顔で興味なげに常人ぶっていながら、舌の根の乾かぬうちに本性を現しおったなーーーーーーーーーーっ!!!!」
顔面を二倍に膨らまして激怒する慎吾。
すかさず孝之の前に立ちふさがり、
「優衣菜さん、もう大丈夫です!! この変態は俺が食い止めて見せます!! あ、俺『葵 慎吾』です。お久しぶりです。ごぶさたしております!!」
優衣菜を背中に隠し、孝之を睨みつけながらちゃっかり自己紹介をする。
孝之は頭の中でツッコミに整理券を配りつつ状況を整理しようとするが、すぐに無理だなと諦めソファーに座る。
そしてそっとスケジュール表を開き直すと、
「決定事項だから」
無慈悲にそう宣言した。
「お前ぇ……いくら家族だって……姉の生活にそこまで干渉したらイカンと思うんだよ……。……優衣菜さんには優衣菜さんの生活リズムってものがなぁ……」
床に顔面をこすり付け、突っ伏しながら、蚊の鳴くような声で慎吾がつぶやく。
いましがた「よく覚えていない」と返され、ショックで魂が蒸発しているのだ。
優衣菜と合うのは5年ぶり。
5年ぶりと言っても、そもそもそれまでに親しかったわけでもなく二、三挨拶を交わしただけで、あとは慎吾のほうが勝手に憧れていただけなのだから仕方がない。
ともかく事情を聞き、孝之の卑劣な仕打ちを聞かされた慎吾は、死に体ながらも優衣菜に加勢していた。
「躊躇なく不法侵入してきたお前に『干渉』がどうのこうの言われてもなぁ……」
「ものには段階と順序ってものがあってだな……何事も急いてはイカンのだよ」
「だからお前が言うかと……」
「いいぞ、もっと言ってやって言ってやって慎吾少年!! もっともっと」
慎吾の後ろで、なにやらよくわからないが棚ぼた式に湧いて出た援軍にエールを送る優衣菜。
ちなみに慎吾がいるので、さすがに裸エプロンは着替え、いつもの死に装束に戻っている。
「お前の心配もわからなくはない……。しかしここはともかく俺の顔を立ててもう少し穏やかな予定表を……」
「そうだそうだ慎吾少年の言う通りだ。せめて朝は登校ギリギリまで寝かせろ~~~~亭主関白~~~~」
民意と書かれたタスキをかけて拳を上げる優衣菜。
孝之は両手で頭を抱え込み、考え込んだ。
悔しいが、たしかに少し強引だったのもわかる……。
ここは一つ落ち着いて、あせらず順番に問題を片付けるのが正解か……。
「わかった……じゃあ、とりあえず料理だけ勉強してくれ。あとは追々考えよう……」
まずは食だ。
泣いても笑っても一年間、姉弟で協力して生きていかなければならない。
美味いメシの確保は絶対必須要件だった。
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