第13話 潜入

 りょうが待ってる。

 それってドキドキする。

 スマホで呼び出したエレックカーは無人なので、ちょっとスカートの中をいじってみる。やぁだ。凄いことになってる。お店に着いたらすぐにトイレでビデを使わないと。

 そう。ワタシの性癖を開花させてくれたのは、温水便座のビデ機能だった。まだ小学生の低学年だと思う。その水流がかかったときに電流が走ったわ。指で触ってみたらもっと良かった。それが他人の指だと別モノだと知ったの。

 りょうって不思議。

 女子高だったので、お互いのお触りはご挨拶のようだった。

 それでもりょうの「寧々」と呼びながら触れてくるのは刺激的だと思った。

 なんてゆうのかな。

 そう、りょうは女っぽくないし、ボクっ娘だし。

 違和感があるのは、ワタシ自身が自分の匂いを、彼女からと酌み量ろうとしてんの。

 そうね。

 ワタシって、意中の男性の目線の動き、喉の動き、指の動きを見ているわ。そしてその中にどれほど自分が棲んでいるかを推し量る、そんなことをりょうに対してしているの。

 それは嫉妬・・・ではないわね。

 彼女の匂いの中にワタシがいる。

 愛し合いながらそれを探るのよ。

 まるでオトコとやってるみたい。

 恵比寿について、スマホでりょうの位置を確認して、クレジット機能で支払った。しっとりとした夜気が肌に貼りついてくる。

 初夏の柔かな朧な光のもとで、漆黒に切り取っている人影が、向こうで手を振っている。

 この時間は恋人たちの時間なのよ。

 でも幾重の人影の中で彼女は判る。

「・・待ったぁ」と手を振ってみた。

 やだ。今日はひときわボーイッシュ!

「どしたの。今日はキャラ変?」

 まるで少年のようで、ぴっちりとした黒いパンツスーツみたいなの着てる。その上にパーカーを着てフードで髪を隠している。闇を練り上げた立像のよう。

「ちょっと寧々にお願いがあるの、実はね」

「お願いって珍しいね」

「keepしていた彼がいるの。その彼がデートしているのを・・見ちゃったのよ、知らない子と。ジョギングの途中で」

「そのkeepの具合ってどの程度、ATMってとこ。それとも入籍して、いずれは保険金で暮らすよな?」

「そうねえ、ATMにしておくのは癪なの。それなりに気に入ったドレスって感じかしら」

「その店にいるのね。で様子を窺ってくればいいの?」

「このスマホを置いてきて。全方位カメラがついてて、特定の声紋の人物を追って録画するの。カレの登録は済ませているわ。会計はボクのカードを使って」

 ワタシは艶然と微笑ってりょうのカードを受け取った。

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