第12話 尾行
寧々との、連絡を絶った。
ボクは次の調査に向かう。
彼女の隅々は手中にある。
佐伯氏の不倫相手の情報は掴んだ。
離婚保険は相互検証を基本とする。
下手を打つと逆提訴されて、保険会社の方が敗訴してしまう。いわゆる調査員は、下世話で前時代的な、法理に汚い探偵でもある。
そのために今回の依頼者の方の、望月さんも並行して洗う必要性があった。
彼女は佐伯氏からの離婚保険金を受け取っているが、前夫の不倫履歴を追って保険額の上積みを申請している。その不倫さえも、彼女から夫に仕組んだ可能性さえも、疑ってかかるのが保険会社の習いだ。
そして彼女はボク自身が、彼のタイプだという。
けしかけるような物言いだったので、そんな懸念がある。
けれど仕事とはいえ、男性と性的な関係を結ぶには抵抗感がある。
乳房もシリコンで作られたものだし、男性器は切除して造膣もしている。女性が対象であれば、寧々であれば何の痛痒も感じないけど、男性が相手だと、この身が竦むのは生理現象なのだ。
望月さんを尾行をしていて、衝撃に貫かれた。
彼女をエスコートしているのは、神崎だった。
神崎は金融庁所管のNPOに出向の立場だった。
事務所は自宅になっており、その業務アドレスはネット空間にしかない。スマホかPCさえあれば公園でもcaféでもそこが事務所になるはずだ。
そこまで調べ上げてしまうのは、性分なのかも、ね。
望月さんはレンタルオフィスで受付業務に就職した。
そのビルはネット空間での防壁が固くて有名な所で、だからこそ尾行のような全時代的な調査手段を取らざるを得なかった。
ここで困ることになった。
ボクは変装のため男装で尾行をしているが、複数の目を欺くのは難しいと思った。幸いにも恵比寿で神崎が向かうのは、老舗のワインバーだとわかっている。あの店を紹介するんじゃなかったわ。ワインに天ぷらをアテにつけてくれる。小粋な接客のいいお店だったのに。
しかし店の暖簾を潜ったのを確認できれば、店内の防犯カメラと手持ちのタブレットを同期しておけば、画像は追える。それも店主とも契約金を払っているので、既存の調査行為になる。
でも。
もう一石を投入しておきたい。
スマホを取り出して、寧々にコールするようにAIに指示をした。
数コールの後で、彼女の舌足らずな声が流れてきた。
「どうしたのぅ、中々電話が繋がらなくって・・・」
「今は恵比寿にいるの。ちょっと出てこない?美味しいワインバーを紹介するわ」
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