第7話 調査員

 媚びているな、と思った。

 そう。それは立ち振る舞いに出てくるわ。

 もう皐月も終わりだから、初夏を思わせる陽光が輝いていた。

 彼女は枯葉色のカーディガンを肩にかけて、そのcaféに姿を現してきた。私の前に座る前にさっとそれを払うようにして椅子の背に掛けた。

 ダンスのステップのように軽やかに。

 アシンメトリな白キャミで左肩は露出している。逆に喉元から右肩は布に覆われている。胸の谷間から流れてきた香水は、柑橘系。

 とはいってもキャミって、この時期ではないわぁ。喉は隠しているけど、鎖骨は露わだし、身を翻すときに肩甲骨に大きめの黒子が見えた。

 ああ。それを男に見せたいのね、と思ったわ。

 

 りょうという女性だった。

 彼女は離婚保険会社の調査員をしている。

 元旦那の身辺調査をしていて、私への保険支払額の査定を頼んでいる。もしカレに離婚前からの不倫などの証拠が見つかれば、月額返戻金が増えるのよ。

 レポートを添付メールで読んだけど。

 余り納得はできなかった。

 それで。

 この子をけしかけてみたくなったのよ。

 媚びているのだから、渡りに船かもと。


 午後からは仕事が入っていた。

 先月から横浜の馬車道にあるレンタルオフィスで働いていた。明治の外観を遺す通りに鉄と硝子の無機質なビルがある。

 そのエントランスにあるブースで、契約している法人への電話受付や文書受取りなどのアテンドを行っている。

 ほぼ社員ひとりきりの法人が多いようだ。

 レンタルオフィスには、完全遮音の個室にデスクPCとネット環境くらいしか揃っていない。しかしセキュリティはかなり高いと法人様は言っている。そして公官庁がいまだに脱却できない文書などを受け取っては、仕分けして渡している。


 アテンドの職域は受付嬢という時代から、来訪者への見栄えに過ぎないと、知ってる。5人ほどが同僚で、引き継ぎの時しか会えないけれど、みな美人を揃えている。しかもタイプがそれぞれ違う。

 契約している方からお誘いもあるという。

 出会いを求めての職場、でもあるかもね。

 そして私も意中の方を見つけてしまった。

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