第8話 Carpool

 肌がちくちくする。

 他人の目って、針のようなもの。

 それを知らない女なんて、寂しい人生だと思う。視線を集めた数だけ女冥利と見映えはあがるものだって。


 けど何か違うと思っていた。

 これは羨望でもなくて、ましてラヴでもない。

 敵意とすれば薄味だし、興味としては執拗過ぎる。

 監視、そう監視の目であればしっくりする。

 さりげない動作で、ふと視線を背後に飛ばしてみる。


 どうしたの?と、彼は訝しむ表情をしている。

「なんか見られてる気がするんだけど」

 その言葉に軽く苦笑しただけで「自意識過剰か、気のせいだよ」と無責任な言葉でゆって済まそうとすんのよ。

「結構、バック攻めてきてるからじゃん」

 そう。翠のブラキャミに新芽色のヨガウェアのトップ。その背中はざっくりとV字にあいてる。さすがに夜気はまだ冷たいけれど、冬場の生足と比べたらどおってことない。


「そろそろ来月には、ここのナイトプールが開くわね」

 カクテルグラスがかつん、と硬質な音を立てる。

「勘弁して欲しいね。そんな場所は居づらくて」

「大丈夫よ、女友達といくから」

「男抜きで?」

「ええ、りょうは男嫌いなの。むしろね」

 と耳元で囁いてやった。悔しいので、驚く顔が見たいのよ。

「ワタシに惚れてんの。そっちの趣味なのよ」と。

 はっ、いい表情。それで帳消し。


 流石にトップを増やして、タクシーを止めた。

 紺のカーディガンを肩にかけたまま、乗り込もうとした。

「寧々、ちょっと待って」と耳に優しい声がした。

 背後から柑橘系の香りが小走りに届いてきた。

「あら、りょうなの、嫌ぁだ。見てたの?」

 ワタシは先にリアシートに収まって、隣を彼女に空けるためお尻で移動した。

「そう。見ちゃった。今のが彼氏?」

「そうかも、もしかしてATMかも?」

 と肩をぶつけ合って笑った。

 当たり前のように彼女はワタシの住所を告げる。

「泊まっていくの?」

「そぅね。私としてはそうしたいわ。寧々のうちでまた何か作ってあげる」

「やった。今日はちょっとお酒入っているけど。まだ大丈夫」

 すっとお尻の下にりょうが手を潜らせてきたので、ちょっと腰を浮かせてあげた。深いところに届くように。

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