第3話 働き蜂

 ラブホテルを並んで出た。

 ちょい前なら連れ立って出るのはダメってゆうのよ。

 バカバカしい。

 そんなにロックオンされてるVIPでもないじゃん。気分に浸っていたいだけの、見かけだけの男よね。

 離婚保険がオンナに有利だなんて、そんなの誰もが知っているわ。

 だってワタシも受け取ってるもの。

 最初は高校生の時のデキ婚。相手は教育実習できたセンセの卵。教職の道を棒に振りたくなくて、慌てた両親が援助して一気に式まで進んだ。それでもうワタシの言いなりに貴金属を積んで担保にしたのよ。

 思いつくだけの我儘を言って。

 それであっさりと離婚したの。

「じゃあね」と言って、いつもは手を振るだけだけど。

 今日は唇を求められた。タバコ止めないのに舌を入れてくんのは最悪だけど。まあなんてことない。後味が悪いだけ。この男はどのくらい貴金属を積んでくれるのだろう。それは楽しみでもある。

 この身体は投資物件だから、安請け合いはしないわ。

 ネオンが瞬く裏通りから、タクシーが這い回る表通りに出る。

 そこで手を挙げて一台を停めた。

 さあ、まだ時計が0時を回っていない。約束はまだギリ守れている。今日中ってこと。次はタクシーで高層ホテルに向かう。

 今夜は連戦かぁ、働き者だなぁ。


「こんなのを用意しておいたんだけど」とそ奴はゆうのよ。

「ナニコレ。動画でもupげんの。それは嫌だな」

「違うわよ。警戒心高いわね」

 色気のある含み笑いをもらしてベッドにうつ伏せになって、白い背に黒髪が広がっている。肩甲骨にある大きな黒子にいつも眼が吸い寄せられる。その背を狙っているように撮影用の小型ドローンが、天井近くで浮いている。

 しばらく付き合っているカノジョだった。

「・・・もうすぐ、また結婚するんでしょ。もうノンケを漁るのにも飽きたのよ。こうして会えなくなるからね。私の想い出」

 そう言って自嘲的にりょうは微笑った。

 自慰のために動画をとっておくのかどうかは、わからなかった。

 不思議な雰囲気をもった女性だった。とてもテクニックがある。その手技は、男にはできない繊細なものだった。

 指先が優しく、舌先がまろびやかで、こちらの官能を引き出してくれる。この娘とは幾度もの絶頂が味わえる。あの佐伯とは比較にはならない。

 惚れているのはワタシの方かもしれない。

 動画が上手く撮れていたら、コピーをくれないかな。

 宙に浮かぶ無機質なドローンのレンズを見上げながら、広いベッドの海に溺れていった。

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