第2話 離婚保険

 乳首を舌先で転がしていた。

 この女の乳首は小さくて弄ぶのが面白い。

 口を離すと唾液に濡れたそれが、血の気を含んで立ち上がるのが見える。小動物のようなそれが無性に愛しかった。

「離婚式終わったのよね、佐伯さんも」

 夫婦の会話が冷め切った時期にクラブ通いをした。その時に知り合った女だ。

 寧々という名前だが本当かどうかも判らない。ただaccountもそうであるので、了解している。苗字はまだ知らない。

「ああ。本当に居づらい場所だった。知ってるか。嫌味のように小さな炉壺まで置いてあるんだぜ。婚約指輪も結婚指輪も、それから彼女時代のアクセも全て担保に申請した貴金属はその場で溶かしてしまうんだ」

「やば。カンペキじゃない」

「完璧な仕事はこれからなのさ。離婚保険が何がいいかって。別居したらさ。あいつ当てのDMとか手紙とか俺のマンションにも転送されてきたんだわ。それが明日からは、全てなくなる。そればかりじゃない。保険会社は徹底していてな。お互いのプライバシーの清算をしてくれる。SNSに流れた夫婦の写真とかtwitter履歴とか、その他一切のデータを消去してくれる」

「どうして?」

 嘘っぽく眼を寄せて訊ねてくる。

「お互いに真っさらに次のステップを踏めるようにさ。特に女性側のプライバシーは完全に守られる。それが社会常識になったわけだよ」

「じゃあさ」

 と元嫁よりも一回り年下の女が足を絡めてきた。

「私との関係もバレないの」

「そう。もしあいつが俺のスマホに監視アプリを入れていたとしても、その履歴も消える」

「ラブホでLINEきたときは焦ったよね」

「動画通話なんてできないしな」

「ヤバ、思い出したら鳥肌立ってきた」

 そう言って上に乗ってきた。

 寧々は羽振りが良くて、そのクラブでは有名だった。

 マスターの言によると、離婚貴族という括りらしい。

 保険返戻金で余裕のある生活の癖に、素知らぬ顔だ。


 小ぶりだが張りのある乳房を乗せてきて、それが潰れて柔らかい感触が伝わってくる。それから身を浮かせて、先端で俺の胸板を悪戯にくすぐってくる。

 若いのは、こういう仕込みが楽しい。

 教えたらどんどん積極的になる。

「じゃあさ・・・私とも加入してくれるの」と下から声をかけた。もう頭は股間に入っている。唇に含もうとする寸前で焦らしているのがわかった。

 俺は故意に答えなかった。

 ほら来たことかと思った。

 離婚保険の料率が落ちたばかりだ。


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