第11話 強引なLVUP

 4月7日、地下食堂には朝日が昇らないので分かりにくいが、揺り起こされた俺がみた時計は午前8時を示していた。

「フワァーーーーーーーーー」

「あんたねぇーーーーーーーーーーーーーーーー」

 夜食を食べた俺は部屋の隅に行くと丸まってお休みなさい。女性達の声が煩かったもののグッスリ寝て、欠伸をしながら起きるとアネラスは怒りだす。

「ポチの話なのになんで私が決めるのよ!」

 床に屈んだら赤い切れ長の瞳を吊り上げて、文句を言って来るアネラスに対して身体を前後に伸ばしつつ、エアボードを立ち上げた俺はポチポチポチ……

 『結論は出たのかアネラス?』

「だからなんで私が決めるのよ」

 『アネラスの問題だろ俺はどっちでもいいんだ。それで結論は?』

「怪獣ハンターを続ける事になったわ。それでいいわよねフィリア?」

「アネラスさんはやっぱり学校へ……」

「しつこいわよフィリア!」

「うーーーーー」

 『此れから長い付き合いになるんだし、朝飯を食べてからみんなで話そうぜ』

「そうですね。では私は……」

 ウッキーは朝から酒とパンにハムステーキとか、俺は缶詰セットで、アネラスは普通の朝食セットだった。これ等に対してフィリアさんは……

「魚や肉食はできるだけ避けるのがエヴィン教の決まりです」

 肉類を沢山食べると野蛮になるそうで、彼女の朝食は山盛りの野菜セットに牛乳とパンになり、戦闘に必要なエネルギーはホールケーキで補うそうだ。

「そんなのを毎日食べて太らないの?」

「私は太らない体質なんです」

 栄養は全て上半身のあれに……ゲフンゲフン。コックロボがケーキは準備をしていないと言うとその代わりに、フィリアさんは蜂蜜一瓶を要求して、それをパンにたっぷりに塗ったり牛乳に混ぜたりとかして食べ尽くす。

 みんなで仲良く食べ終えたら俺達はあれこれと話を始めた。

 昨晩と同じくアネラスとフィリアが食堂のテーブルに向かい合って座り、俺達はその上に並んで座るとエアボードを起動する。

 『それでどんな話になったのですか?』

「敬語はいらないですよポチさん、名前も呼び捨てでOKです。それでですね……」

「子どもの権利、子供の義務とか面倒な物はいらないわ、私は自由に生きたいの。ましてやエヴィン教の教えを乞うなんて、絶・対・に・嫌なんだから!!!」

 ———以下省略。

「……金持ちは大っ嫌いなんだけど私!!!」

「金持ちになりたいならまず勉強を……」

「だーかーらーー」とこんな堂々巡りを彼女達は昨晩ずっとしていたらしい。

「私は諦めませんからね」

「そんな事言っていい訳? 逮捕されちゃうわよ」

「逮捕がどうしたって言うんですか? 出来るものならやってみなさい」

 『それ位でいいだろフィリア、これからについて話した方がいい』

「仕方がありませんね」

 アネラスを見つめるフィリアは何かを期待して、俺に横眼を向けるも溜息をついて諦めてしまう。(こんなのがずっと続くのかな? 止めて欲しいなぁ)

 これから何をするかって? それは勿論……


 ——————。

 ズゴーーーーッと俺は棍棒スケルトンLV8を焼いている、∞の塔内で。

 アネラスやフィリアさんに倒して貰うより、俺が止めを刺した方が経験値は多い。前にも話したが俺がLV15にならないと何も前に進まないのだ。

 2本のチンクエディアを構えて切り込むアネラスを先頭に、変身したウッキーが魔法攻撃で援護してその後ろへ、膝をついて何かを祈っているフィリアがいる。

「平和の宗教であるエヴィン教は【殺してはいけないんです】」

 (自分は殺さない癖に肉や魚を喰っちゃうのって、どうなんだろうなぁとか)俺は思ったりするのだが、

 【相手がモンスターでも殺しはダメで怪獣はもっとダメなんだと】。

「殺してはいけませんが……」

 エヴィン様と大司教に相談してみた所、後方支援ならOKとか、外の世界を知るいい機会だ等と許可が貰えたらしい。宇宙平和の宗教には不殺しで捕縛する方法が沢山ありフィリアは何十年も神殿に籠って修行し、エヴィン流捕縛術をマスターた彼女は魔王が相手でも怖くはないと言う。

 【そうまでして怪獣肉が……】

「食べたいんです私」

 因みにだ

 パートーナーで不死身になるにはエインヘリアルが必要だから、フィリアさんは太陽神エヴィン様に山ほどの貢物を捧げてウッキーを授けて貰ったと言う。(絶対の平等はどこに消えた? えこひいき禁止だろ? 批難ゴーゴーだぞブルジョワめーーーーと言いたい所だが、美人だからいいよねぇーーーーーーーっと)

 ———話を戻そう。

 土壁と地面で作られた退屈な洞窟内に、モンスターがわんさか沸いている。∞の塔には便利な機能があって、受付にいる量産型ロボットに金やアイテムを積んで頼むと、ボスラッシュやモンスター祭り等のイベントが開催できるのだ。


 《余談、その前に一つ覚えておかなきゃいけない話がある。

 【∞の塔では基本的に素材は出ませんから】

 【強力なボスを倒しても見返りゼロ!】

 見返りがあると塔に引き籠って外に出ない人が続出し、奪い合いとか殺し合いも起きたりしたので素材は出なくなった。塔の攻略はあくまでも【戦闘訓練】であり、稼ぎたいなら戦場へ行くとか外のクエストを受けるのが基本になる。

 【塔を攻略する意味ないじゃん】とか思うがそんな事もない。

 1.言うまでも無いがLVを上げやすい。

 2.〇〇のボス倒したとか結果を出すと相応の仕事をほかで紹介して貰える。

 3.LVをMAXにして塔の最上階を攻略するのが、王冠マーク取得の最低条件。

4.塔のどこかに時々宝箱が置いてある。(中身に期待してはいけないらしい)

 この4つが∞の塔を攻略する理由になるのだ。》


 脱線してしまったが俺は今なんと! 

 30体近いモンスターに囲まれている。(ふざけるなーーーーーー)

 【大丈夫です、私に任せて下さいって言ったんだよフィリアが……】

 鋼鉄の壁に囲まれた受付ロボットへ、フィリアさんは600万リムの札束を積み上げると【モンスターパーティH(ハイ)】の開催を要求する。

 この機能は小隊以上で参加するのが普通らしいが、エインヘリアルならと受付ロボットは許可を出してしまう。(受付ロボットに断って欲しかったよーー泣きたい)

 フィリアに説得されたアネラスは、嫌々ながらもマーキングシャワーで臭いを発している俺を抱えると(此れがあの集団の原因だったらしい、聖水なのに)、突入した洞窟内を走り回りモンスターを呼び集めて行く。

「頑張ってアネラスさーーん」

「本当に大丈夫なんでしょうねーーーーーー」

 そして予め調べて確保しておいた広場へ戻って来たら、乱戦になるのだがそこでフィリアさんは広範囲の拘束魔法を発動したのだ。

「低LVモンスターのみに使える荒業ですよ、纏めて倒してしまいましょう」


 普通はLV27でEP6400程なのに、フィリアは既に3万2400、ウッキーは1万4900Pもある。転生したりパートナーになる前はそれだけ強かったと言う証拠のなのだが、俺の立場はますます下がるような気がした。

 (いいなぁあれ……)と俺は思っている。

 ウッキーのLVは27、つまり変身が出来るのだ。

「ウッキッキーーーー」

 こう叫んだウッキーの体が光ると彼は小猿から、赤色と土色が入り混じった毛皮でゴリラの様に大きい【溶岩おさる】へと大変身をする。

「グワォーーーーーーーーー」

 大声で吠えてから走り出した大猿は、剛腕に魔法の土でグローブを作るとそれでスケルトン達をなぎ倒したり、野犬レッドのより大きい火炎弾で砲撃したりとか暴れ回った。

 (俺も早くあんな戦いをしたいなぁ……、なんか怖いけど)

 二刀流で戦うアネラスとウッキーを遠目に眺める俺は、フィリアさんの足元で準備が整うのをじっと待っている。(ドレスのスリットからチラ見する生足が眩しいぞ)

 フィリアはどうしているかと言うと、両膝を立てて両手を組んだお祈りのポーズになると何やら魔法の準備を始める。フィリアが呪文を唱えて魔力を溜め始めると身体に光の粒子(エーテル)が纏わりついて光始めた。

「コアライト・テンタクルストーム!」

 俺達が引き連れて来たモンスター軍団に彼女は魔法を発動させる。その魔法はフィリアの外見にピッタリの光魔法で、光り輝く無数の触手がどーーーっと地面から突き出してくるとモンスター軍団を地面に縫い留めてしまうのだった。

 ……暫くして。

「こっちはいいわよポチーーー」と、奥の方から手を振ってくれたのはアネラスだ。

 彼女の声に応じた俺はフィリアから離れると、野犬レッドやスケルトンとか見覚えのある奴らの間を進んでアネラスの側まで歩いて行く。

「倒しやすいようにEPを削ってあげたわ、感謝しなさいポチ」

 【コアライト・テンタクルストーム】は上級魔法だから、なんと魔法封じの能力も付いている。だから遠距離攻撃は無視してよいが、EPシールドは発動するし少し動いて反撃したりとかモンスター達は抵抗する。

 なのでアネラスとウッキーにモンスターを弱らせて貰ってから、俺が止めを指すという少々面倒な戦いになっているのだ。

「ワンワンワン」(覚悟しろ棍棒スケルトン!)

 キラキラと光っている透明な光の触手で、身体を地面に縛り付けられたスケルトンへ近付いた子犬の俺は、動きたそうにモゾモゾする敵へ炎を吐く。ゴォーーとミニブレスを吐くとEシールドが発生するも、予めEPを減らしておいたので直ぐに使えなくなり防御魔法の無くなった敵を焼き上げてやった。

 時間が掛かる方法だけど他の仲間が倒すと経験値が減ってしまうので、できるだけ俺が倒して行く方がいいのだ。

「私のEP総量は多いので魔法は解けません。慌てず確実に一体ずつ倒して下さい」

「ポチは死んじゃダメだからね。モンスターが動いたら直ぐに逃げるのよ」

「ワンワンワン」(分かった。よーーし頑張るぞぉ)

 ……約3時間後。

 朝9時過ぎに始めて時々モンスターを集めつつ、倒し続けたモンスターの数は多分だが70体を超えたと思う。慣れない序盤こそ手こずったものの、ウッキーが範囲魔法を使い始めるとモンスターのEPは一気に削られて俺が倒すペースも上がった。

 で視界の隅にある時計が昼の1時を示すとちょっと休憩。

 俺が四方にマーキング(聖水)をして回った所へ、フィリアが聖域魔法を重ねて安全地帯を作ると、まずみんなで深青色をした回復薬を飲む。

 この薬が昼食より先なのは、死ぬほどまずい此れを飲むと吐きそうになるからだ。

 俺達の昼食は缶詰とかサンドイッチにおにぎりで、食べ終わったら1階から2階へと俺達は階段を探して上って行く。LVが10になると1階の敵では物足りなくなり、勇気を出して2階へ挑戦することにしたのだ。

 2階も1階と同じように土壁と地面のありふれた洞窟で、俺達はモンスターを倒して倒して倒しまくって行く。


 ———モンスターの集団に追い回され戦い続けること数十時間、【48時間戦えますか?】と聞かれて【戦えます! と即答する】のがエインヘリアルである。

 《それ程までにEHポーションは【ヤバイ薬なのだ】。

 飲むと眠気が消えて気分スッキリ(激マズだけど)、筋肉痛が消えて複雑骨折でもあれよあれよという間に完治する。キメラ技術で作られた俺達の体はすんばらしいが、普通の人が飲むと効果が高すぎて命の危険がある【EHポーション】。

 俺のLVが15になるとフィリアさんが使った、お高い帰還アイテムでみんなは∞の塔から脱出した。「オツカレサマデシタ……」とか言う受付ロボットの声を無視しつつ、地下の訓練校に戻って来たのは朝日が昇り始めた頃のこと。

 【食堂の椅子に向かい合って座ったらみんなで報告会。】

「もうダメ~~~私死んじゃうーーーー」

 机に突っ伏して倒れたアネラスを始めとし、皆はくたくたでもう一歩も動けないという感じなのだが、1人だけ元気はつらつと何かの準備を始める人がいる。

「それじゃあ精算から始めさせて貰いますね」

 疲れてるし小声だったので俺達はこの警報を聞き逃す。

 4次元BOXボックスから、束ねた羊皮紙と万年筆を取り出したフィリアは、机に2枚を置いて広げるとサラサラサラと何かを書き込んで行った。

「ちょっと失礼しますね」

 何故か持ち上げられる俺の前足、それは赤くてブヨブヨした物に載せられて、色が付いたら羊皮紙へポンと突く。(これってまさか……)

「次はアネラスさんの番ですよ。此れにサインをして下さい」

「なによもーーー」

 眠そうに目を擦りながら差し出された羊皮紙を見て、アネラスは冷や水を浴びたように一気に覚醒した。

「167万万5000Rってどう言うつもりよ!」

 突如目を三角にして怒りだす褐色肌の少女へ色白の美人は丁寧に説明をする。

「∞の塔でモンスターパーティHを開いた利用料金に、帰還アイテムを足して4人で割った金額が167万5000Rです。本当はEHポーションや大量に使ったEフードの料金もお願いしたいですが、私達は【な・か・ま】なのでそれはよしとします」

 血の気が引いてフィリアが悪魔に見えだした俺がいる。

「ウッキーの分は私が出しますけど、ポチさんと合わせて335万Rになりますね」

「こんなの詐欺じゃない!」

 どうしようとオロオロしてしまうが、こういう時はアネラスの側に行って大人しくするのが俺のやり方。争い始めた女性達の間を動いた俺は、少女の前まで行くとそこで丸くなって目を閉じていく……(丸投げしていいのかな?)

「ポチも抗議するのよ!」

「キャイン」

 バシィと叩かれた俺はやむなくフィリアへ抗議を開始する。Sペンダントを触ってエアーボードを起動したらポチポチポチ……

 『∞の塔の利用料金は奢りじゃなかったのか?』

「そんな訳ないじゃないですか」

 『なぜ最初に説明してくれなかったんだ?』

「説明したら嫌がるからです。この程度の借金はエインヘリアルなら直ぐに返せるはずですし、まともに戦えなかったポチさんには寧ろ感謝して欲しい位ですよ」

 (うーーーーーーーーーーー反論できない)じーーーーーーー

「もうっ情けないわね!」

 アネラスを見上げて訴えると俺は怒られて、アネラスは猛抗議をしたが既に使ってしまったお金が戻って来る筈も無く諦めるより他にない。

「エヴィン教の名前を使うなんて卑怯よ。ぶつぶつぶつ……」

「銀行と違って私の取り立ては優しく利息もありませんから」

「ポチって疫病神なんじゃないの? これでいい」

「はい確かに受け取りました。後はですね……」

「なに?」

 受け取った書類を4次元BOXに仕舞いつつ、言いにくそうに口を閉じて微笑みかけるフィリアを、アネラスは恨めしそうな目で睨んでいく。

「アネラスさんなら分かって貰えるかなぁと」

「エヴィン教には入らないわよ」

「分かっていますよ、そうじゃなくてですね……」(あーー多分あれだ)

 『PTから追い出したら借金を取り立てる。』

「です。これ以上は言いたくないので言わせないで下さいね」

「借金で脅すほどの事なのそれ?」

「機会があれば三柱神かミリィ様に聞いてみて下さい。前の2回はそうだったので今回もきっと嫌がらせをして来ると思います」

「それはフィリア次第だと思うけど……」

 2人の女性と2匹の動物は、揃って天井を見上げるけど返事は貰えなかった。

「都合が悪いと黙っちゃうんですよね神様は。私が布教活動を諦める事は絶対にあり得せんから! ね、アネラスンさん」

「ちょっとやめてよ!」

 天井から視線を戻し両手で体を覆って身震いする少女を見つめる、フィリアの視線はまっすぐで暖かく決して諦めないという強い意志を帯びていた。

「ソコマデダゾフィリア」

「あらいらしたんですかX教官」

「いつから話を聞いてたの?」

「オマエタチガカエッテキテカラズット、チュウボウノカゲカラミハッテイタ。フキョウノハナシハナガイカラマタニシテ、デカシタゾポチヨクガンバッタナ」

 何か知らんがX教官に褒めて貰えた俺は、むずかゆくて居心地が悪かった。

「シレンノホコラニツイテハナサナケレバナラナイガ。フィリアハシッテイルナ?」

「はい知っています」

 フィリアとウッキーは既にクラスチェンジ済み、フィリアは【ハイプリースト】でウッキーは【溶岩おさる】に変身できるのだ。

「ポチも変身できるのよね?」

「ソノトオリダ、センタクデキルノハ……」

 オーガ系、魔法系(ウッキーはこれ)、機械系、ゴースト系、植物系、スライム系の6系統で変身すると、俺は子犬の体から解放されて漸く戦えるようになる。

「クラスチェンジの際に選ぶ系統は、一度決めると変更できません。なので祠へ挑戦する前によく考えておいた方がいいと思います」

 オーガ系は動物の体のままパワーが上がるやつで、他のは想像がつきそうだけど俺は真剣に悩み始めている。

「シニシレンノホコラヲブジニコウリャクデキタラ、プレゼントヲヤルカラガンバルンダゾオマエタチ」

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