第10話 新しい仲間と布教活動

 4月6日、夜が明けると俺達を起こしに来たX教官は、気を使ってくれたのか今日の早朝トレーニングを無しにしてくれる。

 どれだけ吠えたり舐めたりしてもアネラスは、布団に包まったまま起きてくれず仕方なく一匹で、部屋から出た俺は地下食堂に歩いて行った。(今日の朝ご飯は何かなぁまた缶詰だったら嫌だなぁ……)

 遠からずも当たらずと言った感じ。

 俺の要望を聞いて考えてくれたコックロボは、コンビーフの缶詰を水で洗って塩抜きしたそれに、野菜とか栄養剤を加えて成形した物を出してくれる。飲み物は生のオレンジと牛乳をミキサーに掛けたフルーツジュースだ。

「ワンワンワンワン」とコックロボにお礼を言った俺は、今日することを考えるのだがやる気が沸かないので食堂のテーブル下に潜ると丸まってお休みなさい。

 【俺は夢の中で昨晩戦った光景を思い出していく……】

 俺は炎を吐きながら逃げ回り、遠近の風魔法で攻撃するアネラスがゴールデンスライムと一騎打ちのような形になったんだ。しかしズゴーーと炎を吐いている俺はやがてスライムに捕まり、アネラスも触手に捕まって巨大スライムに飲み込まれ始める。

「助けてポチーーーー」

 悲鳴をあげている少女を助けてあげたいが俺は動けない。

 この後スライムの中で暴れる美少女は革鎧が溶かされていき、暫くするとレオタードも無くなって……と〇×ゲームのような展開になっていく。そして酷く傷ついたアネラスは部屋に引き籠って外に出て来なくなったという訳だ。

 俺? 俺はあれだ、3回も喰われて1回は爆死とかもう慣れてるぞ。(PTSDになったらHELPに書いてあった通りに、病院で記憶を消して貰えばいいだけ)

 【カミヲシンジヨーーー、シンジルモノハスクワレルーーーーーー】。


「コンナトコロニイタノカポチ」

 どれぐらい寝ていたんだろうか誰かが体を揺するので、目を開けた俺は大欠伸をしながら頭を上げると相手の方へ振り向いた。

「ワンワンワンワン」(何か御用ですかX教官?)

「ジツハ……」

 なんとX教官は役立たずな俺の為に一緒に戦う仲間を探して来てくれたそうだ。

「ヘヤカラデテオレノトコロニキタ、アネラスガナントウッタエタカワカルカ?」

「ワンワンワン」(分かりません)

「コレイジョウポチトイッショニイタクナイワ! ソレカラ……」

 神様なんて大嫌い、名誉なんか糞くらえ、過酷で給料が出ない仕事なんて嫌、私は泥棒稼業に戻りたいのそれが出来ないならポチを……

「ペットショップニウルカ、ヒキニクギョウシャニヒキワタスソウダ。ムノウナオマエヲイチカラキタエルヨウナメンドウハシタクナインダト」

 (薄情者ーーーーー泥棒だけど。あんなに笑ってくれてたのに心の中でアネラスはとても怒ってらしい弱ったなぁ)

「ソコデダ……」

 惑星ミーティアの電子妖精、永久大統領にして……な〘ミリィ様〙に相談したX教官は「だったらこうしなさいと」と知恵を授けて貰ったのである。

 【その方法とは!】

 〘1.ポチと別れたら泥棒として牢屋行き向こう15年間、重労働の刑〙。

「……トイッテマズカノジョヲセットクスルコト」(X教官より怖いなぁ)

 〘2.アネラス1人で大変なら仲間を探しなさい、丁度いいのがいるわよ〙。

「……ツマリヤッカイバライ。チガウソウジャナクテダナ……」

 X教官から話を聞いた俺は準備をしようと部屋へアネラスを呼びに行くが全く相手にしてくれなくて、仕方がないから〘ワンちゃん一匹で首都へ向かう〙事にした。

「ワンワンワン」(マーキングシャワー)

 しょうがないだろ! 汚いけどアネラスがいないと俺はモンスターに襲われてまた喰われてしまうのだ。地下の訓練施設から首都まで片道約4㎞、付いて来なくていいのにとか思いつつゾロゾロと引き連れて行ったら、

「モンスターノシュウゲキダーーー」ってまたしても大騒ぎなってしまう。

 剣と盾を持って戦ってくれる量産型ロボットに頭を下げつつ、要塞都市に逃げ込んだ俺は目的の場所を目指してテクテクと歩いて行く。

 (こうやってゆっくり都市を眺めるのは、初めてかもなぁ……)

 要塞都市の西側には商店街があって倉庫だか工場のような建物もああるが、東側にそんな所は見当たらない。その代わりに5階建てで団地のような建物とか、公園があったりするのでこっちは住宅街なんだなと思った。

 (にしてもさぁ……酷くねここ?)

 団地はペンキが剥げてたり屋根や壁が無かったりとか、とてもじゃないが人が住めるような所ではない。いっそ解体してしまえよと俺は思うが、人の代わりにロボットが沢山いるのでそうしない理由があるのだろう。

 人の代わりに対空砲やらミサイルの発射台が並んでおり、それらを管理するロボット達を横眼に見ながら、あそこには近付かないようしようと俺は更に先へ進む。


要塞都市の東半分には人の気配が全くなかった。

 昼過ぎに訓練所を出発した俺が目的地に着くのは2時半頃で、今は首都庁の土台になる五角形部分の近くにいる。その南東側にある量産型ロボットが接客をする、オープンカフェで俺は待ち合わせているのだ。

 パラソル付きの白いテーブルと椅子が並べて置いてあり、行き交う量産型ロボットに轢かれない様に気を付けつつ、俺は頭を少し上げて左右を見ながら人を探す。

 (ロボットばかりで寂しい所だな、誰が俺を待っているんだろう……)

 少しして「ウキーーーキキキッ」と聞こえてくる猿の声。

「エインヘリアルで柴犬の子供、彼方がポチさんですね」

 (おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお)

 白い簡易テーブルに日本猿の子供がちょこんと載っていた。俺を指さした小猿はちゃんちゃんこを着ててってそっちじゃない! 

 【その隣に超美人が座ってる!!!!!】

 《20代前半、いや15歳以下にも見える透き通るような白肌。太陽を浴びて煌めく黄金のロングヘアーー、磨かれた綺麗な手指に大きな胸、桜色の口紅をした顔は端正で気取ってないが気品と美しさに溢れた絶世の美女がいるのだ!》

 (女神様だぁボーーーーーーーーーー、此れが一目ぼれって言うやつかな?)

「彼方がポチさんですか? 答えて下さい」

「ウキッウキキッ」

 今の俺には人の声など耳に入らない、ましてや小猿の声なんか……

「ウキーーーーーーーーーー」(人の話を聞けーーーーーーーーー)

 小猿が何かを手に取ると投げつけて来て、コツンと頭に当たって現実に戻って来た俺はフンフンと匂いを嗅いでそれを齧る。(甘くて美味しい此れは角砂糖だ)

「彼方がミリィ様に紹介されたポチさんですか?」

「ワンワンワンワン」(そうです俺がポチです)

 《服装は下から順に金の鉄靴にグリーブ、胸元が開いて深いスリット悩ましい白のロングドレス、太陽のマークがある金色のベルトとなっている。》

「失礼しますね、うんしょっと」

 尻尾を振ながら近付くと彼女は、俺を優しく持ち上げて膝の上に座らせてくれた。(迫力のDだ、いやEはあるかも……)椅子に腰かけた女性の太ももに座ると、あれが突き付けられるので俺は目のやり場に困ってしまう。

「私はパートナーのフィリア=レイ=パネスシア、LVは27です」

 下を向いて微笑んでくれる彼女の美しさよ、青い瞳に見つめられると思わず赤面して俺は顔を逸らしてしまうのだった。

「こっちの子はウッキーです……」(なんか変な名前だな)

 名前を聞いた時にウッキーって叫んだから、そのまま登録されたらしい小猿はフィリアさんと同じLV27。こんなにLVが高くて美人なのにこの2人は前に組んでいたパーティから追い出されて孤立中。

 (X教官は俺が3回目だとか言っていたが、一体何があったんだ?)

「ウキウキキキ?」

 テーブルに座っている赤い顔をして茶色に毛に覆われた小動物は、俺の事を聞きたいそうなのであれこれと詳しく話していった。

 この2人には言葉が通じるのでメールを使わずに直接話せる。《ウッキーはある戦場で死んだ元ワーウルフで、小隊を率いていた有能な軍曹だったんだと。》

「次は私ですね。ポチさんは太陽神エヴィン教をご存じですか?」

 《知っている訳が無いのだが彼女の説明によると、エヴィン教は宇宙平和を求める信者15億人越えの一大宗教なんだそうだ。》フィリアさんはその大司教の娘でとある事情によりこの惑星ミーティアへやって来たらしい。

「三柱神は何もしてくれませんよ」(はい?)

「ウキキィ……」(それでPTから追い出されたのに、いきなり勧誘するのかよ)

「私は嘘や偽りが嫌いなのです。いいですかポチさん……」

 目線を合わせるように膝の上からテーブルに載せ替えられて、フィリアさんにじっと見つめられながら俺は聞かない方がいいような話を聞かされて行く。

「この宇宙は欲望とか邪悪な心に支配されているんです!」

 〘三柱神(石像達の事)は、平和を求めない娯楽の象徴にして野蛮な神。(そんな事を言っていいのかな?)あのような者達を信じてはいけません、あのように愚かで軽薄な神々に従って戦い続けると何れこの宇宙は滅んでしまいます。〙

 (そんな大真面目に説かれても困るのだが、まぁ分からなくもない。しかし……)

「ワンワンワンワン」(フィリアさんは天罰が怖くないんですか?)

「怖くありません。私達には偉大な太陽神エヴィン様が付いておられますので、何も心配しなくていいですしポチさんも守って頂けると思います」

 (すごい美人だけどこの人はヤバそうだ、関わらずに分かれた方がいいぞ)と訴えてくる直感に従った俺は彼女から距離を取り始める。

「ウキキウキウキ」(ほら見ろ、いきなり話すから警戒されたじゃないか)

「しょうがないじゃないですか、逃げないで下さい!」

 フィリアさんの両手に捕まって引き寄せられる子犬の体。「いきなり信じて貰うのは無理かもしれませんが……」とフィリアさんは平和がどうしたの、愛がどうしたのとか魔神族とも仲良くしたいんですって長々と俺を説得してくる。

「どうかエヴィン教を信じて邪神と手を切って下さい」

 ムギューーって抱きしめられるとその弾力で、俺の理性は溶けてしまいそうになるから困ったもんだ。

 (グフッグフフフフえーーーーーいままよ! 思想と宗教の自由だし他の人に話さなければ大丈夫な筈だよね? カミヲシンジヨーーー違う神だけど、シンジルモノハスクワレルよなエヴィン様ならーーーーー)


 〔ちょっと待ったーーーーーーーーーーーー〕

 〔天罰じゃーーーーーーーー〕

「ウキキキキ」(ほら来た)

 〔私達のエインヘリアルを勝手に奪うのは許しません!〕

 【知らない、見えない、聞こえないっと。】(2回も追い出される訳だな)

 だが此れはチャンスでもあり「キューンキューン」と鳴きながら俺は、フィリアさんの胸を前足で触りつつ谷間に顔を埋めてしがみつく。(これは堪らん)

「邪魔をしないで下さい! ポチさんが怯えているじゃないですか」

 天を向いて叫んだ金髪美人のフィリアさんに、〔それは違うんじゃねぇか〕〔私もそう思います〕とか神達は余計なことを言う。(煩いぞぉ俺の事はほっといてくれ)

 〔何回言えばわかるんじゃ惑星ミーティアは……〕

 基本的に聖神族の領土であり、ヘル・ドラゴンには惑星の管理を預けてあるだけ。エヴィンなどと言う邪神の出る幕はないそうだ。

「知っていますかポチさん?」

 三柱神はその昔、四柱神だったらしいが思う所があって1人が分裂。その分かれた太陽神エヴィンは最強の戦闘神であり、3:1でも負けたことが無いと言う。

 〔勝った事もないでしょ!〕

「3対1で負けないんですから勝っているも同然です。だいたい天罰って何ですか、口論で負けるから天罰を落とすとか神のする事ではありませんよ」

 〔ぐぬぬぬ……〕

 〔いい度胸だな女ぁ!〕

「それにです元4柱神であられる太陽神エヴィン様にも、惑星ミーティアの権利を主張することが出来ると思います。いかがでしょうか皆さま?」

 キリッと空を見上げて神様に反論するフィリアさんを、俺は格好いいなぁとか思ってしまうのだが(そんな簡単な話ではないよなと)

「我らに従わぬと言うのなら……」(これはまずい)

 両者の主義主張はともかく【俺はフィリアさんと別れたくない。】(出来れば一生だ)

 胸にしがみついていると話しにくいので、名残惜しいけど手を離した俺は近くのテーブルへよじ登りながら……(どうしよう? まぁあれだ取り合えず)

「ワンワンワワン」(惑星ミーティアの話は横に置いといて)

 〔勝手に置くんじゃねぇ!〕

「ワンワワンワンワン……」(ミーティアではなく、俺がエヴィン教に入るかどうかそれが一番の問題ですよね。違いますか神様?)

 〔その通りです〕(これで話がしやすくなった)

 〔後でエヴィンを殴りに行ってやる〕

 〔程々にするのじゃぞ。さてポチについてじゃが……〕

 また繰り返すつもりか、PTから追い出されてもいいのかと神達は口々に言う。

 実際どんな事があったのか? 「ワンワンワン」と聞いても神様とフィリアさん達ははぐらかして答えてくれなかった

 〔約束を忘れたわけではあるまいな〕

「エヴィン教の布教活動の禁止ですか? 思想・宗教の自由と言うものが……」

 〔それは他国の権利や文化を侵害しない場合にのみ許される自由じゃ。分かるなフィリア? 分らぬとは言わせぬぞ〕

 (なるほど、つまりこうなんだな……)

「ワンワンワン……」(要するに俺がエヴィン教へ入らなければ、フィリアさんとPTを組んでも良いという事でしょうか?)

 ———あれ、なんで急にみんな黙るんだろう?

 〔ポチが誘惑に逆らえるとは思えん〕

 〔しがみついていましたし〕

 〔情けねぇなおい、アネラスを泣かしたら駄目だぞポチ〕

「お話の意味がよく分からないのですが?」

「ウキッウキキキ」(本当に分からないのかフィリア?)

「ワンワンワンワンワンワンワンワン」と俺は吠えて吠えて吠えまくった。

 〔下手な誤魔化しだな〕

 〔これ以上騒いでも意味はないようですね〕

 〔Execution-9641にフィリアとポチの監視を命じて置く。よいかお主達、お主達の仕事はあくまでも怪獣ハンターで、それ以外の事には深く関わってはならぬのじゃ〕

 〔不安ですがポチ、フィリアが布教活動をしない様に彼方が見張るのですよ〕

「ワンワンワン」(頑張ります)

「分かりましぁ、もうやりませんよーーーだ」

 口を尖らせつつそっぽを向いて天空へ返事をした、フィリアさんは続いて机に座っている俺の方を見ると俺の訓練について話し始める。


「ポチさんの事はミリィ様から聞いています、完全など素人なのですよね?」

 小猿の横に座って美人と向き合いつつ相談を始めるのだが、改めて言われると腹が立つけどその通りであり、俺は銃を握った事もないただの事務員である。

「ウキキウキウキ」(まずLV15にならないとな)

「そうですね、クラスチェンジしないと話になりません。そこで私からの提案なのですがもし宜しければ……」

 私達が戦ってPT経験値を稼ぎますから代わりに布教活動を見逃して欲しい、寧ろ協力して下さいとか言われた俺は首を傾げて悩んでしまう。(いきなりか!)

「ワンワンワンワン……」

 神様に頼まれた事であると同時に、【ミリィ様に見張られる=要塞都市とかあちこちにいる量産型ロボットや監視カメラが全て敵】と、こうなのでそんな怖い話には乗れないぞと俺は丁寧にお断りをする。

「そこを何とかお願いします……」

 獲得できた信者数に応じてお礼も貰えるとか言うけど、金で人を釣るのは宗教的に許される行為なのだろうか? その件について聞いてみると「問題ありません目的の為なら買収ぐらい神様でも普通にやります」と彼女は当り前のように答えた。

「国家と企業と宗教の違いが分かりますか? 違いなんて無いんですよ……」

 同じ民族、同じ歴史、同じ目的を共有できるから国や企業になる。国境線で分けるのと精神論で分けるのに差はなく、【形がなく目に見えない物を売りつける宗教家は他より有利だと言うだけなんだと】。》

「みんな分け方が違うだけなんです」

「ワンワンワン」(差があるとすれば慈善事業……)

「それに差はありません。国がやっても宗教・企業がやっても同じです、では宗教家の価値とは一体なんなのでしょうか?」

「ワンワンワン」(精神論ですか?)

「です。生命体が生きるのに必須となる指針・行動目標、太陽神エヴィン様は国や民族などと言う枠に拘らず全宇宙に平和と愛を……」

 神様がどうしたの、心が乱れているから魔神族に付け入られるだの、エヴィン様に仕える以外のエインへリアルは奴隷そのものだとか長々長々。

「ワンワンワンワン」(その話はもういいよーーーーーー)

「そう邪険にしないで下さい……」

 ムギューーってされたり対価を示されたら俺は流されそうになる。フィリアさんはスターライトセブンで言う金星の金咲 未知留ちゃんタイプ、金と権力に美貌で押し通して行くスーパーモデル美人だ。

「ソコマデダフィリア」

「フキョウカツドウキンシ」

「キョウセイタイキョサセルカラナ」

「あらあら困っちゃいましたね……」

 いつの間にか集まって来た量産型ロボット達が、俺達をグルリと取り囲んでいる。数は10体位かな、彼らはそれぞれ突撃銃とか剣で武装をしていた。

「ミリィサマノモクゼンデ、ドウドウトヤリヤガッテハジヲシレ」

「タイホスルゾコノペテンシガ」

「ペテン師とか聞き捨てなりませんね。私の一体どこが……」

「ウッキーーーーーーーーーーーーーー」

 流石に黙っていられなくなったのか、宗教家とロボット達が喧嘩を始めそうになるとウッキーさんは、声を上げて両者を止めに入るのだった。

 元軍曹らしい小猿はテーブルの上でロボット軍団の方に向くと土下座する。

「ウキッウキキキ」(俺がよく注意して聞かせますから、ここは見逃して下さい)

「止めなさいウッキー!」

「ウキキウキウキ」(怪獣肉が食べられなくなっても、いいのかフィリア?)

「ううっそれはその……」

 彼女が惑星ミーティアにきた理由はずばり、怪獣肉に惚れたから。高い上に供給量が少なくて中々手に入らず、輸出規制までされてしまうエヴィン教は大金持ちなのに滅多に食べられないので、ならば自分で狩ってお腹いっぱい食べようと言う話。

 ロボット達から顔を反らしたフィリアさんは、何やらブツブツと言い始める。

「エヴィン教が引き下がる訳には……でも怪獣肉、あの味はうーん……」

 (資産家を唸らせる程に怪獣肉は美味いのか?)

「取り合えず、私から離れて貰っていいですかポチさん?」(はいはい)

 大きなあれにしがみついていた前足を渋々離した俺は、テーブルに登ると椅子に座って悩むフィリアさんが答えを出すまで静かに待つ。

「……分かりました。もう布教活動はやりません」

「ヨクキコエナイゾフィリア。ハッキリイエ」

「もう布教活動はやりません! 暫くの間は此れでいいですかミリィ様?」

「コンドヤクソクヲヤブッタラソクキョウセイソウカンダゾ。ワスレルナフィリア」

「分かりましたから向こうに行って下さい」

 フィリアさんが追い払うように手を振ると、俺達を包囲していた量産型ロボットは解散してそれぞれの仕事に戻って行く。

「それで此れからなのですが……」

 小腹が空いてきたおやつの時間。今からダンジョンに潜ると中途半端なので、このオープンカフェでケーキセットや骨付き肉を頼んだ俺達は、適度に時間を潰してからミーティアのエインヘリアル訓練校へ帰る事にした。


 ———要塞都市の東門から外に出た俺は、頼もしい仲間にモンスターを蹴散らして貰いながら訓練校に帰ると食堂まで歩いて来る。

「お帰りなさいポチ」

 張り付いた笑顔ってこう言うのを指すのかな?

 顔は笑っているのに石像のようで、背中に炎が見えるような気がしたりするまっすぐ俺を見てきたアネラスの態度。レオータードの上から革鎧を着た、小柄な褐色肌の美少女はとても不機嫌そうだ。(俺には彼女の怒る理由がさっぱり分からない)

「席に座ったらどうなの?」

「そうですね」「ウキキキ」「ワンワンワン」

「話は色々ある見たいだけどその前に……」

 悪魔の微笑みを維持している赤髪の猫耳娘は、席から立つと反対側にいる子犬の首を摘まみ上げて自分の部屋へと連行していく。

「なんど言ったら分かるのよポチーーーーーーーーーー」

 (ごめんなさいーーーーーー)ザーザーゴシゴシガシガシガシガシ、「ワンワンキャンキャン」(痛い痛いって! もっと優しく洗ってくれぇーーーーー)

 約1時間後……

 八つ当たり気味に洗濯されてマーキングシャワーの汚れを落とした俺は、スッキリした気分でアネラスと一緒に地下食堂へ戻って来る。

「待たせてごめんなさい、彼方達はあの臭いに気が付かなかったの?」

「気に掛ける暇がなかったと言うか」

「ウキキィウキ」(そういう雰囲気ではなかったと言うか)

 フィリアさんは問題ないがウッキーは問題なので、ポチポチポチっとな。

 『アネラスは動物の言葉が分からないので、ウッキーさんはSNSを使って話をするようにして下さい』『了解した』

 女性達の隣へ小型動物用の高い椅子を並べてお座りし、Sペンダントを起動した俺達は半透明なエアボードで打ち込みながら、向かい合って座る美少女達と話をする。

「どこからお話すればいいですか?」

「まず自己紹介からね……」

 綺麗なお姉さんに見とれていると、横から強烈な視線を感じたので俺はウッキー寄りへ見る方向を修正した。かくかくしかじかと俺達4人の自己紹介が進んで行き、先程にもまして不機嫌になったアネラスはお断りから始めていく。

「初めに言っておくわ、私はブルジョワとエヴィン教が大っ嫌いだから」

「泥棒だから仕方ないですよね。ですがアネラスさん、太陽神エヴィン様は彼方のように心にゆとりのない方にこそ必要なのです」

 (神様を無視して頭から突っ込む勇気のあるフィリアさん。布教活動だよな此れ? 舌の根も乾かないうちから堂々と……)

「神なんて糞喰らえだわ」(大丈夫かなこの発言?)

「女の子が汚い言葉を使ってはいけません。いいですか? 彼方は悪い大人たちの所為で泥棒などと言う酷い仕事をする事になったのです。その上あの三柱神の元で戦わされるとはなんと可哀そうな事でしょうか」

「私を子ども扱いしないで! もう17歳なんだから」(17歳はまだ子供である)

 なんか2人は喧嘩になりそうな雰囲気だけど困ったもんだ。

「学校には通いましたか?」

「スラム育ちの私に学校なんていらないわ」

「ああ何という不幸でしょう。ミリィ様の治世はあまり良くないようですね」

 【ここがどこだか分るだろうか?】

 地下食堂には量産型ロボット達が働いていて、その全機がフィリアさんの話に耳を傾けているのである。じーーーーーーーーーと何かを期待するように周囲から冷たい視線を注がれた俺は困ってしまう。

「今からでも遅くありませんよアネラスさん」

「何が遅くないって言うのよ」

「エヴィン教の支援を受けて学校に通いましょう、彼方は勉強をするべきです」

「フィリアはこう言うんだけど私が居なくなってもいいのポチ?」

 (どうするってまぁ子供は学校に通うべきだが、俺はどうなる? 元一般人でひも男かつ愛玩動物な俺、ブラックな仕事より優雅な学園生活がいいし、2人で通うのはもちろん女子校で〜ぐへへへよーーーーーし)

「どうなのよポチ?」

「ワンワンワワンワンワン」(アネラスが通う学校でどんな所なんだ、俺も一緒に学校へ連れて行ってくれるんだよな?)

 アネラスに聞かれたくない話を俺は直接フィリアさんへ聞いてみた。

「えっポチさんも学校に通うんですか?」

「新しい生活でも仲良くしましょうね」

「ウキキウキ」(ちょろいなポチ)

「キサマラタイホスルゾーーーーーー、マジメニタタカエーーーーーーーーー」

 俺達がフィリアさんの話に応じようとすると、食堂へ駆け込んで大声で割入ってくれる援軍が現れた〘額に王冠マークのあるX教官〙である。

「彼方は子供を戦わせても恥ずかしくないんですか?」

「ウッ……」(スゴイゾフィリア、X教官を瞬殺だ!)


「フィリアーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 何処かで聞いた事のある綺麗な声だなぁと俺は思った。

「誰ですか彼方は?」

「私よ私!!!!!」

 役に立たないX教官が後退すると、代わりに給仕係ロボが俺達に近づいて来た。そしてその丸い瞳がグルンと回って映写機に変更されると、そこから俺達が座っているテーブルの上に高そうな黒革の椅子に座った白づくめの永久大統領様が表示される。

「何か御用でしょうかミリィ様?」(血を見そうな気配がするぞ)

「何かじゃないわよ何かじゃ! よくも私をバカにしてくれたわねぇーーーーーーーーーーーー本当に逮捕するわよ彼方達!」(まぁ怒るわな)

 怒っているのだろうが表示されるミリィ様はフィギアサイズなので、可愛いなぁとか俺は思ってしまったりするのだった。

 さてこの後は……

「ミリィ様には全く関係のない話です、これは私とアネラスさん達の問題なので関わらないで頂きたいのですが?」

「関係あるわ! 聖神族のエインヘリアルを奪うなんて許さないんだから!」

 (そんなに思って貰えるなんて感激だなぁ……)とか、2人の言い争いを聞いて考えてしまう俺は変なのだろうか?

「子供を学校に通わせないミリィ様が悪いんですよ」

「ちゃんと教育してるわよ! 学校に通うだけが全てじゃないんだからね」

「スラムに学校は無いけど量産型ロボが文字や数学とか、基本的な知識を子供達に教えて回っているわよ」

「ほら見なさい!」

「じゃぁどうしてアネラスさんは泥棒なんですか? 勉強を教えるだけが学校では無い筈ですよね、きちんとした教育をしないからこうなるんですよ」

「私がどこでどんな生活をしてても私の勝手だと思うんだけど……」

「そういう訳にはいきません!」

「アネラス!」

「ポチ~~~~ってあれ?」

 2人に批難され猫耳を垂れて困り顔になったアネラスは、助けて欲しいなと横の席を見たがそこに柴犬の子供は座って居なかった。

「ちょっとどこに行ったのよポチ!」

 周りを見て見つからないと少女はテーブルの下を覗くのだが、そこで床の上に丸くなりつつ両手で耳を塞いでいるポチを発見する。

「あんたって子はーーーーーーーー」(面倒ごと嫌いーーーーーーーー)

 【俺は三姉妹の言い争いに巻き込まれた日の事を思い出す】。

 ひたすら面倒! 関わりたくない! 俺の意見なんか誰も聞いてくれないし、高い声でキャーキャーと聞かされ続けた日にはもう、社長(お父さん)と一緒に居酒屋に逃げて朝までよく飲み明かしたものである。

「ちゃんと話に参加しなさいポチ!」

「キューンキューーン」(えーーー、嫌だなぁーーーー)

 テーブルの下から引きずり出されて少女の太ももに載せられた俺は、ウッキーに話を振ろうとするが彼もどこにも居なかった。(あいつーーーーーー)

 【俺が三姉妹の喧嘩に巻き込まれた時の対策とはズバリ!】

 話を大半を聞き流しつつ、適度に3女へ相槌をして判断を任せること。此れが長年振り回されてきた俺の導き出した最適解なのである。

 【聖神族のミリィ様 VS エヴィン教のフィリア VS アネラス】。

 〘俺が媚を売るべき相手は勿論フィリアさん!〙ではなく……

 ここはやはりアネラスの指示に従うべきだろう。テーブルの下に居ると怒られてその上へに載せられた俺は、アネラスの前で丸くなると先程と同じように耳を塞ぐ。

「ポチ〜〜〜〜」

「情けないと思わないの?」

「そのまま大人しくしていて下さいね」

 ……そして女達の論争が長く続くのであった。

「ふわぁーーーー」

 欠伸をしつつ横目で彼女達を眺めて話が終わるのを待つと、厨房の陰からウッキーが俺にしている手招きに気が付いた。何の用があるのか知らないが、テーブルから飛び降りてそこへ向かうと床にワインボトルが並べてある。

 その側には小猿に合わせた小さいコップで、チーズを摘まみながら赤い顔をさらに赤くしつつワインを飲むウッキーさんが座っていた。

「ワンワンワンワン……」(こんな所で飲んでいて、フィリアさんに怒られないんですかかウッキーさん?)

「ウキキウキヒック」(こんな体だし呼び捨て出ていいぞポチ。それよりさ……」

 俺にも付き合えと彼はコップを差し出すが、子犬の体はアルコール禁止。つまらねぇ奴だなぁとか言われつつコックロボに俺は夜食を注文して、それを女性達にも提供しながらあの話の決着がつくまで俺はウッキーと雑談をする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る