第8話 初心者講習と壊れた世界 死亡2回目
異世界に転生して4日目、4月4日の早朝。
日の出共に部屋へ乗り込んできたX教官に、叩き起こされた俺達は大欠伸をしながら洗面台で顔を洗うと部屋の外に出る。
「マズジゴクマラソンダ! トイキタイトコロダガ………」
煩く訴えるお腹を黙らせながら食堂を通り過ぎ、そのまま直進した俺とアネラスは分かれ道を直進して訓練ルーム前までやって来る。
「ヒトオリセツメイシテオクゾ」
自動ドアを抜けるとルームランナー、ベンチプレス、懸垂棒とか沢山のトレーニングマシンが並んだ部屋があった。
「コッチハ……」 200m×5ルートの陸上トラック!
「ココガナ……」 50m×4本プール!!
他にも人工スキー場とか!!!
重力や気温を操作できる部屋がここにはある!!!!
(どんだけ広いんだここ? スポーツジムで同じのを使うと幾ら掛かるのやら)
「エインヘリアルの訓練校ってみんなこうなの?」
「ソウダコレグライハドコニデモアル。ダガカナシイコトニ……」
いま訓練校に居るのは俺達だけなのでどの施設も使いたい放題と。
「イイカオマエタチ……」
《【X教官の授業スケジュール】
1、早朝から昼までは基礎訓練と座学、X教官のマンツーマン指導だ。
2、昼からは∞の塔へ挑戦してまずLV15以上を目指して貰う。
「LV15ヲコエルトダナ……」
1回目のクラスチェンジをするために試練の祠へ挑戦して、クリアできれば子犬から別の職業へ変更できる。無事クラスチェンジが出来たらご褒美が貰えるらしい。》
「ハナシハワカッタナ?」
「ワンワンワン」(よく分かりました)
(怪獣はひとまず忘れてLV15まで頑張ろう、X教官のスパルタに耐えながら)
X教官の話を聞きつつ地下施設から地上へ上がった俺達は、東の森から昇る朝日を浴びながら柔軟体操と筋トレを開始する。
(人間はできるが子犬はどうやるんだ?)
腕立てや腹筋を始めたアネラスの横で、身体を前後に伸ばしたりしてほぐした俺は「コイヌニハコレシカデキナイナ……」と辺りを走り回るように指示された。
「ワンワンワンワン」
言われた通りに「ワンワンワン」と走り回る俺だったが、目標も無しにやっても直ぐに飽きてしまう。
「モウアキタノカポチ? ナライイモノガアルゾ」
何かやる気が沸かなくてダラダラゴロゴロしてると、Sペンダントに触ったX教官は4次元倉庫からフリスビーを取り出した。(俺は愛玩動物だもんな)
「マズコノニオイヲオボエルンダ」
そう言って差し出される玩具の匂いをフンフンと嗅いで、準備が整ったらX教官はしなるチューブ状の腕を目一杯後ろに引き「ソーラトッテクルンダゾ、ポチーーーーーーー」とフリスビーを全力で投げる。
(凄いパワーだなぁボーーー)っと空高く飛んで行く物体を俺は茫然と見送った。
「ナゼウゴカナインダポチ?」
X教官が投げたフリスビーは飛び過ぎて、東の森の奥(1㎞越え)まで飛んで行くから俺は追い掛けることが出来ない。
「ワンワンワンワン」(投げた距離が遠過ぎると思います)
「ポチハオレニサカラウツモリナンダナ」(そんな事ありません!)
X教官は俺の話なんて聞くつもりがなく、丸い頭についたガラスの目に睨まれたら昨日の事を思い出して俺はビシィッとお座りをする。
「オレガハシレトイッタラダナ……」
スチャッと背負ったアサルトライフルを、前に回して構えるX教官。
「クチゴタエセズニハシレーーーー」
ダダダダダ制限時間は30分、朝食前に戻ってこないと朝ごはん抜きとかアサルトライフルを撃ってくるX教官に、命じられた俺は猛然と走りだした。
「ワンワンワーーーン」(ウォォォォフリスビーはどこだーーーーー)
《森、ここはただの森である。
あれだぞ緑がこんもりワサワサして、太い幹がドーンと生え並んでいる植物が集まっただけの空間。木の茂みで太陽光が余り入らず、薄暗くても恐れる必要のない優しい自然の揺り籠なのである。(地球の場合はな)》
長い舌を出しながらハァハァと、俺はここに来るだけで俺は息が上がってしまった。ここまでかなり時間を使ったし、残り時間が気になる俺は早く奥へ行きたいのだが、足が竦んで思うように動かない。(困ったもんだ)
【森の奴らが草原のより強いのはゲームの定番!】
一昨日おれを追い掛けてきたモンスター軍団が頭から離れず、(困ったなぁ、どうしようかなぁ)と森を見ながら、俺はその手前でウロウロと悩んでいるのだ。
(モンスターよりX教官の方が怖いかな? よーーーし決めたぞ!)
覚悟を決めて深呼吸をすると、勇気を出して森の中へと入って行く俺。葉っぱが沢山落ちていて全く整備されてない道を、カサッカサカサッと音を立てつつ、フリスビーから漂ってくる紫色の煙を頼りに一歩ずつ進んで行く。
何か音がする度にビクッビクッ
地面に落ちていた木の実を齧ったり(不味かった、勉強してからにしよう)
心の底から(どうかモンスターが出て来ませんように)と祈りつつ、恐る恐る進んで行くとはい出てきましたーーーーー(やってられないなほんと)
えーっと何々、木の陰から飛び出してきた相手は……
【角ウサギLV6、EP800】とか俺より強い訳ですね。
野犬より強いウサギってありなんだろうか?(幾ら子犬とはいえ流石にウサギには勝てるだろう、直ぐ逃げずに少し様子を見ようかな)
体格は俺と同じくらいで白い毛に赤くなった瞳、ウサギの頭には角ドリルが付いていて突かれたら痛そうだなぁとか俺は考える。(先手必勝、新スキルの出番だーーーーでも使っていいのかなこれ???)
口から火を吐いて攻撃するスキル【ミニブレス。】
これの何を躊躇うのかって決まってるじゃないですか【山火事ですよ山火事。】最近雨が降って無いのか地面は乾いており、木の葉が沢山落ちてる場所で火を噴いたらこうゴォーーーーーっと一気にだな。
(自然環境を考えながら戦う俺は偉くて賢い! かも知れない、うん)
となれば次はこれだな。
ウサギの癖して肉食のような彼奴に、口を開いて鋼の牙を見せつけながら「ワンワンワンワン」(俺に近付いたら噛みつくぞ)と警告をする。
ニッと笑ったような気がするウサギの顔。
ウサギの顔は笑えないと思うが、何かそんな気がした俺は(このやろーーーー)って思うも平和主義なので躊躇してしまう。鋼の牙に噛まれたら大出血なんだぞ、剣で斬るのも嫌なのに噛みつくって言うのはだな……
(うーーーーー俺は異世界転生に向いてない。心の底からそう思う)
頭を下げて角を突き付けるウサギに、鋼の牙を向けて睨み合って悩む俺。あのウサギと俺は戦うべきか? それとも戦わざるべきかなのか?
(あんなに可愛いのに……)とか悩んでいると、ウサギの角がなんか光りだして攻撃技が来そうだから俺は身構える。そして地面を蹴った角うさぎは、「キーーーー」って声を上げつつ頭から突っ込んできた。
(ロケット頭突きだ! んなアホな……)
過激なウサギは足から光を噴き出しつつ。ズドーーと勢いよく俺に迫り来る。間一髪でこれを避けると角うさぎは、背後の大木に穴を開けつつどこかへ飛んで行く。
(危なかったななぁほんと、このまま進むのは良くない気がするぞ)
いつまたモンスターに襲われるか分からず、アネラスに怒られそうだけど命を優先した俺はスキルを発動させた。
「ワンワンワン」(マーキングシャワーーーーー)
空から降ってくる黄金の雨、臭いがちょっと気になるのだが贅沢は言えず、聖水の効果に頼りながら俺は紫色の煙を追って歩き出す。
———(もう嫌だぁこんな世界ーーーーーーーーー)
ここは森、ただの森なのである、森だよな!!!
(異世界転生はこれが普通? それとも俺の運が悪いだけなのか)
この世界の人はどうやって生活しているんだろう? モンスターがうじゃうじゃいる所で畑を耕したり隣町に行ったりとか、一般人は普通に全滅するだろ! ってTVゲームをしていた時の俺はよく考えたものである。
抽象的過ぎてわからんとな。
木漏れ日が差し込んでくる森の中、苔生した倒木の前でって(どんだけ遠くに投げたんだX教官は……)、基その木の下にある隙間が安全そうなので休憩しようと少し潜って身体を丸めた所で俺は頭を振った。
(寝るんじゃない俺! ここで寝たら朝ごはん抜きだぞ)
【そう俺は睡魔と戦って勝ったのだ!】ってちっがーーう、ゴツン
持ち上げた頭を倒木にぶつけて涙目になりながら、樹の下から這い出すとブーンと音を立てながら大きな昆虫が飛んで来たのである。
見かけはカブトムシだが子犬程に大きくて、開いた口には尖った歯が並んで角は剣のように細く鋭い、銀色の身体をした怖そうなモンスター。此奴のLVは鳥レーザーを撃ってきた軍鶏タイプよりちょっと弱い【LV12のシルバービートル。】
(聖水の効果が切れたのかな?)と思って掛け直してみるも、こいつには効果が無くてブンブンと羽音を立てながら周囲を旋回し始める。
やる気だなお前、なら相手をしてやるぞ!(って———)
(噛みついてやるーーー)届かない
(火炎放射で丸焼きだーーーー)だから届かないんだよ!
空中にいる昆虫を見上げながらオロオロしていると、あいつはEPを消費しつつ汚いものを吐きかけて来た。なんか危なそうなので深緑色をした液体を避けると、それは後ろの倒木に当たってジュゥーと溶かす。
「ワンワンワンワン」(飛び道具なんて卑怯だぞ! 地面に降りてこいーーー)
モンスターに怒っても意味はなく、有利なポジションを捨てるアホは居ない訳で(これはだめだーーーーーー)と、俺は背を向けて逃げだした。
X教官とアネラスがいる西を目指して森の中を駆け抜ける俺、その後ろからシルバービートルは追って来るがまたしても数が増えて行く。
(どうなってるんだこの世界は! 俺は美味しくないぞーーーーーーー)
「ワンワンワン」(誰か助けてくれーーーーー)
子犬の足は遅いし呼吸がしんどいしでもうあれだね! 森を出る前にシルバービートル×3と角うさぎ2体等に囲まれた俺は、もうあれつまり諦めの境地ってやつ。
「ワンワンワワンワンワワーーン」(お前ら絶対に復讐してやるからなぁーーーーーーーー)
———死んだ後に行く場所と言えばここ【復活の間】。
「ポチってさぁ」
「とことん使えん奴じゃな」
「所詮は愛玩動物ですね」
「Φ〇=~&#%+*!!!!!!!」(子犬の姿じゃ戦えないぞーーーーーーー)
「聞き飽きたっての」
「いい加減にしなさい」
「昨日の怪獣ステーキは美味かったのう」
ひと一人が死んだって言うのにこのやる気なさ。行き場のない怒りを抱えながら黄金の台座に載せられた水晶に、青白い魂を触れさせた俺は子犬の姿に戻ると復活するまでの4時間をふて寝して待つことにした。
(グレるぞ俺、怪獣ハンターなんか止めちゃうからな)
スゥーーーーーーーーー空いたお腹を我慢しつつ、丸まって目を閉じた俺は睡魔に襲われて寝てしまう。なんかSペンダントがリンリン鳴るけど知った事ではない。
空中に表示される復活する際に選択できる場所から、訓練所を前足でポチっと押した俺はアネラスの近くにある机の上へポテンと落される。
「連絡ぐらい応じなさいよポチ、心配したんだからねほんと」
「ゴゼンノジュギョウヲサボリヤガッテ」
アネラスとX教官は地下食堂でジュースとか電気ドリンクを飲みつつ、復活する俺を長く待っていてくれたらしい。心配してくれたのか或いは俺が可愛いからなのか? アネラスは俺を抱こうと手を伸ばすけど、直ぐに引っ込めて小鼻を摘まむ。
「なんか臭うわよポチ。あなたまさか……」
「ナニヲシタトイウンダ」
「ワンワンワンワン」
Sペンダントを触ってキーボードを起動したらSNSでポチポチポチ。2人の声を聴きながらあれこれ説明していくと、「ソコマデツカエナイヤツダッタノカ」とX教官は呆れ返ってしまう。
『しょうがないだろ! だって俺は……』
「ちょっと来なさい!」
汚い物を摘まむように、俺の首筋を摘まみ上げて部屋に連れて行くアネラス。そしてシャワールームに放り込まれたらザーッとお湯を掛けて来て、全身が濡れたら俺に石鹸を塗りたくりワシャワシャワシャ。
「臭いが体に染みついたらどうするのよポチ。中々取れないんだからね此れ」
(成程それで力を籠めて洗うのか、ごめんなさい)
洗い終わったらザァーーーーっと石鹸を洗い流して、アネラスに身体を拭いて貰いながらX教官の話を聞いていく。
「ゴゴハナニモシナイツモリダッタガ、ヘンコウダ……」
戦闘の初歩中の初歩から全て教えてくれるとX教官は言う。アネラスと一緒に∞の塔へ上るのは今日は中止になって、地下から地上に出たらEPシールドの使い方からSペンダントの機能とか色々とX教官に教えて貰う。
しかし【モンスターへの噛みつき訓練だけは嫌だった】。
「ニンゲンハケンデキレバイイガ、オマエハイヌダカラナ」
X教官やアネラスが倒して連れて来た、野犬レッドに角うさぎとかシルバービートルにスケルトンの骨。それらの死体を相手にここが急所だぞ、こうやって噛むんだぞガブガブガブと俺は訓練をするんだけど血の味が……(復讐するってこういう意味じゃない)
「フダンオマエハナニヲタベテイル?」
肉とか魚、誰かが捌いてくれた物ですはい。噛みついても、料理したのを食べても基本的に変わらない訳で御座いますが、気分は良くないだなこれが。(慣れの問題だとは思うんだが人間に転生したかったなぁーーーー神様)
「体に毒があるモンスターも居るから噛みつく時は注意するのよポチ」
「オマエモナアネラス。ポチニチャントオシエテヤルンダゾ」
「分かったわ。ちゃんと勉強しないとね」
本日の訓練はこれにて終了。
夜までX教官に指導して貰った俺達は、教官と別れると夕食を食べてアネラスと一緒にシャワーを浴びたら、2人仲良く寄り添いつつぐっすりと寝る。
そして夜が明けた4月5日。
Sペンダントの目覚まし機能で朝早くに起きた俺とアネラスは、地下施設から地上に出るとまずストレッチ。噛みつき訓練の後は鬼マラソンでX教官が撃ちまくる銃に追われながら走り、網の下を潜り抜ける匍匐前進(子犬は楽だ)とかもやらされた。
それらが終わったら……
「トンデケーーーー」
「ワンワンワーーーーン!」
スロープで地下に降りた突き当りを右に進んだ俺は、着替えずにその先にある水溜りへドボンと飛び込む。身体へ5㎏の重りを括り付けてきたX教官に、俺はプールの真ん中辺りへ放り込まれたのだ。(溺れるっての!)
アネラスは革鎧を着たまま飛び込んで平泳ぎ、(次はビキニを着て欲しいなぁ)とか死に掛けで考えられる俺自身にびっくりだ。
息を吸おうとプールの底から犬搔きで、必死に水面を目指す俺だったが(無駄な努力だよなぁ)と諦めて座り直す。そして暫くするとアネラスが近付いて来るのでユラユラ揺れるその姿に期待しながら俺は数十秒間待った。
(まだかなぁ、まだかなぁ)と尻尾を振りながら俺は待つのだが、目前にいる彼女は中々助けてくれない。そして限界が来て死にたくない、死にたくないって藻掻き始めた頃に漸くアネラスは水中から引き上げてくれる。
ゲホッゲホゲホゲヘゲヘ……
「大丈夫ポチ?」
「アノテイドデオヨゲナクナルトハ、ナサケノナイヤツダナ」
プールサイドに上がった俺は、身体に括り付けた重りを外して貰うと深呼吸をしながらじっとしている。
暫くして回復したらX教官に抗議しつつ、Sペンダントを触ってSNSN機能を呼び出たした俺は、空中に表示されたキーボード、エアボードと呼ばれるらしいのをポチポチと前足で叩き始めた。
『もっと早く助けて欲しかったよアネラス』
「水の中で尻尾を振ってるから平気そうに見えたのよ。てっきり訓練をしているものだとばかり思っていたわ」
「ジブンノタイジュウブングライハ、セオッテオヨゲタホウガイイゾ。ナニカノヤクニタツコトガアルカモシレナイカラナ」
『子犬の力では無理ですが頑張ります』という訳で、俺は1㎏から練習開始。アネラスも同じように鎧を着たまま重りを背負って泳ぎだす。そんなこんなで早朝訓練が終わったら俺達は食堂に移動して朝食を食べる。
地下食堂のテーブルに移動して座り(俺は床にいる)、料理が運ばれて来るのを待っていると量産型ロボットがお盆に載せて持って来た。
アネラスの食事は、【フルーツ盛りにオムライス+ヨーグルト。】(美味そうだ)
戦闘職だから食事はなーーーーーーって思う俺のご飯は、床に置かれた皿に盛られている茶色くて小さい粒々と何かの骨。
「ワンワンワン」(ワーイゴハンダーーーー)って
「ワンワンワーーーーン」(こんなもん喰えるかーーーーーーーー)
食事中は静かにしてとか言うアネラスを無視して、食堂に走って行った俺はコック帽を被ったロボットを見上げて「ワンワンワンワン」。
「コイヌガニンゲントオナジモノヲ、タベルノハムリダトオモイマス」
昨日は犬らしく粒々ので我慢したがもう嫌なので抗議する。
「ワンワンワン……」(一昨日の晩はフライドチキンやケーキがあったじゃないか)
「アレハトクベツデス、アンナモノヲマイニチタベテイタラ」
丸々と太ったりバランスが狂って身体が壊れる。
子犬の体は人間よりずっと繊細だから食べちゃダメ、チョコレート禁止、甲殻類禁止とか肉も種類によってはダメなんだと。
「ドックフードハ、カンゼンエイヨウショクナノデスヨ……」
ポチ様に出したのは高級品なので贅沢を言わないで下さい。(高級だろうがそうでなかろうが俺はこんなご飯は嫌だ)
「ワンワンワンワン」
「コレハコマリマシタ、デハコチラニナサイマスカ?」
そう言って動き出したロボットが奥の棚から取り出すのは、茹でた豚肉に野菜を混ぜた犬用の味無し缶詰。(クソーー今日はこれで我慢してやる)
「ワンワンワン」(一緒にビールもくれ)
「コイヌニアルコールハムリデスヨ」
(がーーーーーーーーーん大ショック! そうだよな俺は子犬だもんね……)
ドックフードとビールの代わりに缶詰と牛乳、これ等をお皿に載せて運んでくれるロボットと一緒に項垂れながら、アネラスの側へ戻った俺は静かに食べ始める。
(何とかしなければ、こんなのが毎日なんて俺は耐えられないぞ)
腹ごしらえが済んだら次は座学の時間だぞと。
「マズハコレダナ……」
HELPを読めば分かるらしいが歴史の授業から始まる。
食堂から出て直ぐにある飾り気のない授業部屋、そこの教室机に並んで座った俺とアネラスは、ホワイトボードの前に立っているX教官から話を聞いていた。
「ムカシハコノヨウニ、ミーティアもサカエテイタノダガ……」
こういう時は便利なロボットである。
教卓に付いた差込口に腕から伸びたケーブルを差しつつ、隅に寄ったX教官が電気を消すと天井に設置された映写機から、ホワイトボードに映像が映し出された。
「昔はこんな風だったのね綺麗な所だわ」
映像に流れるのは白色で統一された城壁と街の景色だった。
空中撮影された城壁の回りには済んだ水で満たされる水堀があって、イルカ?みたいな動物がその中を泳ぎ回っている。太陽に照らされて白く輝き神々しさを感じられる、首都の様子は現在の要塞都市とは比べようもない。
この映像は今から162年前に起きた【ミーティア大戦】より3年ほど前、SS(神西暦)3億2547万6429年頃に撮影されたもの。今のホワイトスティグマはボロボロの城壁に、損傷が酷い建物が乱立している酷い所だ。
「ジュンヲオッテセツメイスル。アレハナ……」
城の水堀で泳いでいる一角獣、イルカのような形に黄金の角が付いたあれは、聖神族の守り神として崇められる【ラゴーン】という動物。自然発生したものではなく、ドラゴンのように合成魔獣(キメラ)技術で生み出されたモンスターらしい。
「ゼンチョウ3mホドトチイサメダガ、ツヨインダゾアレ……」
1体では無理だが数体揃うと怪獣を撃退できる程の強さを発揮する。今の要塞都市に居ないのは製造費用と維持費が高いからで、大戦争の余波でラゴーンが全滅した後の水堀にはモンスターが住み着いた。
「水堀のモンスターはスラム街とか都市を襲うからみんな困ってるのよね」
「ムカシハナ……」
休日になるとみんな水堀でよく遊んでいたが今は禁止、戦闘訓練として兵士が利用する位に危ない場所なんだって。(覚えておこう)
城の回りには草原とか∞の塔があって……
「飛行船の数がすごく多いわね」
「ソコラジュウヲトビマワッテイルダロウ」
X教官は演算能力が高いのか表示されている映像を加工して、説明を加えたり別の所から映像を引っ張って来たりと器用なことが出来るようだ。
「コレハジュンヨウカン、コッチハ……」
ホワイトスティグマを守るために常に2隻の戦闘艦が飛んでいる。その周りとかでガラス張りになってる船は観光船、軽トラみたいな宅配業者に自家用車とか、空が混雑して目が回りそうな要塞都市がホワイトボードに映し出されていた。
「今からは想像できない繁栄ぶりね」
「ホワイトスティグマハダナ……」
宇宙要塞と他に4つあった各要塞都市の中継地点にして首都。惑星ミーティアは元々宇宙中から怪獣肉とか観光を求めて、毎日何万人もの人がやって来た聖神族が誇る一大レジャー惑星であり、それはもう大変な賑わいであったらしい。
「トシンブヲミセルマエニ、コレヲミテクレ」
表示されている映像が止まると縮んで隅に移動し、代わりの物が表示される。
「砂が沢山ある大きな川だわ」
「ワンワ……」(通じないんだった、こっちこっちと)ポチポチポチ……
「海ってなに?」
エアーボードから入力すると、アネラスの視界に表示されて話が出来る。要塞都市の外に出たことが無いアネラスは海を知らなくて、俺とX教官は2人掛で説明した。
「一度行ってみたいわね、次の休日に一緒に行くポチ?」
「ワンワンワン」(アネラスの水着だーー)は心の声であり……
「キカナカッタコトニシテヤル」
行きたい行きたい俺はエアーボードから打ち込んだ。俺が打ち込んだ内容はX教官とアネラスの双方へ同時に表示されている。
「ヤメテオケ、イマノウミハダナ……」
要塞から大草原を超えて南へ12㎞弱程と、歩いて行ける距離にあるがヘル・ドラゴンに占領されていて、モンスターやロボット兵器がうじゃうじゃ居るそうだ。
「こんなに楽しそうな所なのに残念だわ」
海岸でバカンス(この辺りは南国だ)、露店に並んだ無数の魚や怪獣肉、異世界らしく人魚が舞い踊るビーチリゾート……、(あれ?)ポチポチポチっとな。
「マーメイドハ、ミナアタラシイトコロヘヒッコシタ。ウミハリクヨリキケンデモンスターノLVモタカイノダ」
「マーメイドにはもう会えないのね」
「ソンナコトハナイ……」
少数のエリートが聖神族とヘル・ドラゴンの許可を得て、惑星ミーティアの環境を調べるために専従調査員として働いているから、どこかで会う事もあるだろうと。
「ウミハコレグライニシテ、ハナシヲモドスゾ……」
飛行船とか海岸の映像は凄かったが、都心部にはもっと刺激的な娯楽が一杯あって城壁に沿って走るジェットコースターも造られていた。
「ワカッテイルトオモウガ……」
激化する戦闘に合わせて娯楽施設は全て解体されました。家の屋根が砲台だらけになったり住人が武器を持ち歩くようになったりとか、戦闘色が強い所へと長い時間を掛けて造り変えて来たのである。
「ムカシヲシッテイルヒトホドナ……」
やる気が無くなって性格も悪くなる。多くの人はこの惑星から出て行ったが行き場のない人や諦めてしまった人、崩壊した各地の要塞都市から逃げて来た人達が集まって造られたのがスラム街であると。
「昔のミーティアはあんなに楽しそうなのに、なぜ大戦争なんか起きたの?」
「ソレワダナ……」
怪獣さんに人権を知性のある動物を殺すな、各犯罪とか魔神族の攻撃があったり人権屋による責任者への抗議活動。無駄に高いエインヘリアルの戦闘力、AIは信用できないーーーーとか政府は嘘をついている軍を解体しろーーーーー(総司令官かつ永久大統領のミリィ様はよく耐えていられるな)
【治安組織と戦う俺達カッコいいーーーーーーーーーーーーーーー】。
「バカハシンデモナオラナイ」
神々がミーティアを創造なされてから450年弱、人間に酷使されるAI達は頑張って支えていたのだがある日プッツンした。
【カクメイダーーーーーーヒヲハナテーーーーーーーー】。
ホワイトスティグマを除く4つの要塞都市の、将軍+地方長官&財務課長+料理副番長+警察あれこれな4体のExecution-964〇シリーズは、聖機竜マザードラゴンを説得すると共にエインヘリアルや神族を追い出そうと行動を起こしたのである。
「此れだから表の世界は嫌いなのよ」
「ドロボウラシイハツゲンダガ、オマエタチガヌスムタメニハ……」
「表世界の人達が稼いでくれないと駄目。矛盾よねぇ……」
『神様は助けてくれないんですか??』
「デモニスト、カクメイ、センソウトカハダナ……」
生命体の成長に必要だから神様は干渉しなかった。しかし魔神族が攻めて来るとそうも言っていられず、神様が参戦するとそれはもう凄まじい戦いに……
「アトハシッテノトオリダ。コマカクハHELPヲヨムトシテ、レキシノベンキョウハコレグライデイイダロウ。ツギニオシエルノハ……」
サバイバル技術、法律にギルドとの付き合い方とか覚える事はいっぱいで、教官が卒業証書をくれないと俺達はギルドの仕事が受けられないんだと。
そして(めんどくせーーーーーーーーーー)と俺は思うのだった。
【異世界転生ってさぁーーーーーーーーーーー】
特別スキルや超魔法でオレツエーーーーーとか、回復魔法でヴァーッと大怪我を治しちゃたり、超有能なサポートAIが雑務を全てこなすとかってもっと簡単かつ気楽で楽しいもんじゃないのか?
(現実って辛いなぁ誰だよ俺を転生させた奴は……)
壊れそうな世界、恐ろしい怪獣、軟弱を通り過ぎて役立たずな子犬の体、あーいやだいやだとか思いつつ昼になると俺は∞の塔へ挑戦を開始する。
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