第7話 スパルタンXと褐色肌の女神様

 早朝に目覚めた俺は藁のベッドから外にでると、身体を前後に伸ばしてほぐす。視界の隅にある時計には4月3日の朝8時47分と刻まれていた。

 グゥーーーーーーーーーーー起きて直ぐに鳴る迷惑な虫、この虫を黙らせる方法は一つしかないのだがアネラスに出来るだろうか? 肉球スキルで壁をよじ登った俺は前足でスイッチを押して倉庫の明かりを点ける。

 続いて藁のベットに近付いた俺は大きく深呼吸。

 (俺はロリコンじゃないぞ!)と誰かに向かって宣言、それから褐色肌の少女に近づいてその顔をだなこう……(ダメだ勇気が足りない、もっと慣れてからにしよう)

「ワンワンワンワン!」

 舐めるのを躊躇った俺はアネラスを起こそうと、耳元でけたたましく吠えるのだが「煩いわねぇーーーー」と彼女の手に払いのけらられてしまう。

「私の仕事は夜からなの。太陽が昇っている間は起こさないで、むにゃむにゃ」

 (それもそうか、腹は減ったが仕方がない。我慢しよう……)

 アネラスの側で丸くなりうつらうつらと眠り掛けたら、首輪に掛けたSペンダントがリンリンとなる。(誰だろう朝から煩いなぁ……)と思いつつ前足でそれを触って通信機能を起動したら、変な量産型ロボットの立体映像が空中に浮かび上がった。

「ショニチカラチコクトハイイドキョウダナ」

 《丸い頭に付いた王冠マーク、アサルトライフルを背負って皮の鞭を持った知らないロボットは、目を赤色に変えていて初対面なのに何故かとても偉そうだ。》

 俺がフワァーって大欠伸をすると、「ヨカロウオマエタチハソクタイガクダ。ジュギョウリョウ+バッキンヲ、フタリブンモッテオレノトコロニコイ」

 (あっ忘れてたーーーーーーーーーーーー)

 【アネラスと2人分で1憶2000万リム也!】(冗談ではない。起きろアネラス、起きるんだーーーーーーーー)

「ワンワンワンワンワン!」と俺は吠えて吠えまくった。

「グンノトリタテハ、ヤミキンヨリオソロシイゾ。ウチュウノハテマデオイカケテ、ハラエナイナラキョウセイロウドウダカラナ」

「ワンワンワンワンワン!」

「煩いわよポチ!」

 しつこく吠えていたらレオタードを着ている少女は、怒鳴りながら体を起こす。

「何だって言うのよ……」

「オメザメカオヒメサマ、ドロボウダッタカナ?」

 俺に向かって怒ったアネラスは、俺が通信している相手を見つけて「誰よお前?」とそのロボットに名前を尋ねる。

「ワタシハ、グンジクンレンノキョウカンロボットSuparutan-X501サマダ、コノミチ230ネンヲコエルベテランダゾ。Xキョウカントヨブガイイ」

「軍事訓練の教官? そう言えば今日からだったわね」

 げんなりして溜息をつくアネラスを睨みながらX教官は話を続ける。

「ワタシハオマエタチヲキタエルタメニ、ワザワザダナ……」

 遠く離れた星からミーティアに呼ばれてやって来ましたと、訓練から逃げるなら出張料とか私の整備費用も払って貰うから覚悟しろだって。(どっちもやだなぁ)

「それでどこに行けばいい訳?」

「クンレンガオワルマデリョウニハイッテモラウ。バショハ……」

 送信されるメールを見ろと言うので、送られてきた地図を確認すると訓練施設は、戦闘の影響を避けるために要塞都市の外へ造られていた。

「現在地から東へ約4㎞、∞の塔の近くにあるのね此れなら分かるわ」

「イマカラ20フンダケマツ、ソレヲスギタラタイガクダゾ」

「30分にしてよ」

「ダメダ。オマエタチハチコクシテイルンダカラ、コレイジョウハマタナイ」

「分かったわ急ぐわよポチ!」

 バタバタと急いでマントや装備を身に着けたら下水道を猛ダッシュ、勢いよく走り出す彼女を俺は追うのだが待ってくれアネラスーーー、置いて行かないでーーーー。

 俺は子犬である人間の足に付いて行ける訳がない。

 アネラスはLV10、EP:4500と少し強め。一般人からパートナーへ変わる時に勇者システムが、今までの実績に相応しい能力を加味した結果で、彼女は魔法をそれなりに使えて泥棒らしく身体能力も高い。

 【因みに俺はただの小動物レベルワン。】

「時間が無いのに、もーーーーーーーーーーー」

 どうするって? これしかない。

 置いて行かれた俺の所へ戻ってきたアネラスは、俺を抱きかかえると「ウィンドステップ」とか言う魔法を使って、風を足に纏わせながら浮き上がる。

 (おーーこれはいいぞ快適だなぁ)

 1歩で3~4m位ずつ、連続で走り幅跳びをする様に走りだしたアネラスは速い。空中を疾走してマンホールの下に来ると、蓋を蹴り飛ばしつつ下水道から飛び出して、あれよあれよという間に要塞都市の外へと駆け抜けて行った。

 都市の東門から外に出ると、南側に俺が歩いた草原地帯とスラム街があって、前の離れた所には森が広がっている。

「分かるポチ? あれが∞の塔よ。私も訓練として偶に使っているわ」

 風切りを音を聞きながらアネラスが指さす方を見ると、天をも貫けと言わんばかりの巨大な石の塔がそこにある。見かけは安造りだがとにかくデカイ塔で、その頂上は雲を突き抜けて高く伸びていて見えなかった。

「∞の塔はここにあるように見えるけど、本体は4次元空間の中でここには無いの。空間を揺らして姿が見える様にしているだけなのよ」

 (へぇーーーー神様って凄いんだなぁ)と俺は感心する。


「はいっ到着ーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 タンッと空を蹴ったアネラスは両足を地面につけると、ザザァーーーと踏ん張りながら急停止して、彼女に抱えられている俺は落ちないようにその腕へしがみついた。

 下水道の倉庫から10分も掛かってない感じかな?

 視界の隅にある時計が示した時間は午前9時5分、世界陸上の選手も驚くハイスピードで∞の塔前に来た俺達は、この辺りにある訓練施設を探して辺りを見渡した。しかしそのような建物はどこにも見つからない……

「受付で聞いてみようかポチ?」

「ワンワンワン」

 塔の回りは草だらけで建物はなく、ここでボーっとしていても仕方がない。アネラスの言う受付とは、石を組んで造った塔の前にポツンと建っている、モンスター対策なのか鋼鉄の壁で囲まれた小屋の事である。

 ∞の塔へ好きに入らせて欲しいと思うがまぁ色々とあるんだろう。

「イラッシャイマセオキャクサマ、ニュウトウキョカハオモチデショウカ?」

 小屋に居るのは量産型ロボットで、開いた窓シャッターの奥から話している。そのロボット奥には木箱が沢山あって何らかの商品がここで買えるようだ。

「登録NO.W358-14314のアネラスよ、今日は塔へ入りに来た訳じゃないの……」

「エインヘリアルノヨウセイガッコウ、デゴザイマスカ? ソレデシタラ」

 塔の南にあるとロボットは言うが茂った草以外は何も見えない。モンスター&怪獣対策として施設は地下に造ってあるそうで、南へ進めば草に隠れている入り口と看板があると言う。

 (なんか量産型ロボットがも1台立ってるな、あれはもしかして……)

「ありがとう。それから……」

 この受付は塔へ入る人ように非常食と水、回復アイテムやら弾薬とか最低限の物を売っている。アネラスはここで朝食を購入して紙袋を持つと、ウィンドステップを発動させて抱えた俺と一緒に南に向けて走り出した。


 ———少しして。

「ヨウヤクゴトウチャクカシンペイドモ。ニゲズニキタダケホメテヤロウ」

「訓練を始める前にちょっといい?」

 額に王冠マークが付いた偉そうなロボットと、手早く挨拶を交わした俺達はまず朝食を食べる所から始める。

 今日の朝ご飯はペットボトル(ただの水)と、四角いなにか。紙に包まれた焼き菓子は水を吸うと数倍に膨れる栄養食で、長さ10㎝の長方形とボリュームがある。

 焼き菓子はパサパサだが仄かに甘くて悪くなく、食べ過ぎて動けなくなると困るからアネラスは1個だけ、俺はその半分を腹に入れてから水を飲んで膨らませた。そして準備が整ったら〘ウルトラMAXスパルタコース〙の開始になる。

「何から始めるの?」

「タイリョクテストカラダ……」

つまり定番のあれ、草刈りと整備がされた地道で前屈みになった美少女の横に、X教官と並んで立った俺はスタートの合図を待つ。

 訓練施設付近から東の森まで約1㎞、そこを体力が続くかぎり往復を走り続けて持久力を見極めようと言う話である。

 なぜX教官まで走るのか?

それは並走しながら目で撮影したデータを頭であれこれ解析して、俺達の正確な身体能力をはじき出すためだ。高級ロボットになるX教官にはなんとジムトレーナーの機能も付いている。


「準備はいいな、位置に付いてよーーーーーーいドンッ」

X教官の合図に合わせて俺達は全力ダッシュを開始する。

 アネラスは軽やかな出だしで美しく、キャタピラでガーーーと走れるX教官は疲れる事は無いだろう。だが俺は……

「ワンワンワワーーーン」(まってくれーーーーーーーーーー)こうである。

 (ふっ俺は所詮、愛玩動物なのさ……)1㎞なんて無理ーーーだし100mでも辛いんだーーーーーが、あっという間に見えなくなるアネラスとX教官を追って、俺は小さな体で短い足をせいいっぱい前後に伸ばしながら懸命に走る。

「頑張ってポチーーー」

 道の半分も進まない間に引き返してきたアネラスは、俺に手を振って笑い掛けながら脇を通り過ぎて行き(よーし頑張るぞーー)って思った。

「アソビジャナインゾダゾ、マジメニハシレ!」(やってるよ!)

 (ダメだよねーーこういう指導は、恨むぞ神様ーーーーーー)って俺は恨んだり喜んだとか忙しい、都合のいい時には嬉しく悪い時には怒るのが生きるという事。

 ゼーハーゼーハーと息を弾ませながらやっとの思いで半分の、1㎞程を走って森の入り口にある木にタッチしたら引き返してまた同じ距離を全力ダッシューーーー

 ———するつもりだった。(もうだめ、もう走れない)

 Uターンして道の1/4辺りに来ると俺の息は上がり切り、地面に座ったらアネラスとX教官の背中を眺めつつちょっと休憩。(俺は既に3回も抜かれている)

 やる気でないなぁってゴロゴロしてたら、「バカモノ! サボルナーーーーーーーーーーーーー」って雷が落ちて来た。鞭を振り上げて迫りくる量産型ロボ、Uターンしたアネラスと一緒にX教官が俺の方へと向いて走っている。

 (逃げようかな? なんか怖いしって子犬の足! あーーだめだ、もーーー無理だこうなったらーーーー。愛らしく尻尾を振ってだな……)

 お座りして息を整えたらつぶらな瞳で教官を見つめつつ、バッシィィィン。

「ギャン!」と俺は泣く。(本当に鞭を振りやがった、イデェーーーーーー)

 《教官の手は白手袋をした五本指、腕は金属チューブでグネグネと良くしなり、皮の鞭をグルンと空中で振ったX教官はビシーバシーと振り降ろす。》1発は命中させたが2発と3発目は脅しだったので痛くない。

「可哀そうじゃない止めなさいよ」

「エインヘリアルニハヤサシクシナイ、センジョウノコワサハコンナモンジャナイゾ」こう話しつつX教官は鞭をアサルトライフルに持ち替えた。(冗談だよな?)

「だから!」

「エインヘリハルハシンデモヘイキダ、シロウトガクチヲダスンジャナイ!」

 (既に1回喰われたしな! オニ教官ーーーーーー)

 丸く纏めた皮の鞭を体の前にある収納場所へ掛けて、背中のアサルトライフルを両手で持ったX教官はダダダダと掃射する。

 地面に空いた無数の穴を見ながら俺は震えて、「イイタイコトハワカルナ?」「ワンワンワン」と納得させられたら、「ヨロシイデハ、チヘドヲハクマデハシレーー」ダダダダダとX教官は銃を撃ってきた。(俺は子犬なんですけどーーーーーー)


 俺の所為でアネラスが立ち止まったので最初からやり直し。

「少しは休ませなさいよ!」

「ワンワンワンワン」

「クチゴタエスルナシンペイドモ! オマエタチニデキルノハ……」

 敬礼とYESだけ逆らったら即退学、1億2000万リムの罰金。軍事訓練って超楽しいなぁーーーーーーーーーーーーーーーーー。

「フザケタドロボウコンジョウト、アマッチョロイヘイワシソウヲ、ブチコワス! シヌキデハシレゾウヒョウドモーーーーーーーーーー」

 わーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 せめて人型か、大型犬だったならもう少し楽だったはず。銃撃音を聞きながら小さな体で走って走り続ける俺、体力の限界が知りたいとか何とかで、アネラスは3週を全力で走らされた所で倒れてしまった。

「ガキニシテハヨクガンバルホウダナ」

「はぁはぁ私にこんな事をして、後で覚えてなさいよ糞ロボット……」

 腰のチンクエディに手を掛けたアアネラスは本気で、今にも斬り掛かかりそうだったが睨まれたX教官は平然としている。

「ゾウヒョウガ、イクラホエテモコワクナイゾ」

「ロボットの分際で生意気よ」

「ハハハハハ、ワタシハナ……」

 X教官はエインヘリアルと同じく何度でも復活できる特別待遇のロボットで、金属の腕を曲げて指さしたステータスバーには【MAXの文字が】光っている。

「MAXってロボット如きが嘘でしょ!」

「ウソデハナイ!」

 《MAXとはつまりLV100の事である。真の英雄はLV100が当たり前、LVを限界まで上げてから更に長期間(100年、200年とか)、も修行を重ねて超絶的に強くなり神様に認められると王冠マークが貰えるらしい。

 そうX教官の額で黄金色に輝いているあのマークの事だ。》

「ワタシトキサラマラノ 、ジツリョクサガリカイデキタカ? チナミニダ……」

 怪獣さんはX教官よりも手強いです。(ふざけるなーーーーーーー)、いま怪獣ハンターをしている3つのクランには全て王冠持ちが在籍しているそうだ。

「チャラチャラシタカンガエハステロ。オマエタチガコレカラスルシゴトハ、センソウヨリオソロシクテカゲキナンダゾ」

 (クラケンさんの住所はどこだったかな? 詳しく聞いておけばよかった……)

「戦争より怖いって嘘でしょ。私達を脅かそうったってそうはいかないんだから」

「ショウメイシテヤロウカ?」

「なんですって」

「ドレホドオソロシイカ、ショウメイシテヤロウトイウノダ」

「やれるもんならやって見なさいよ」

「ヨロシイ。デハフォームチェンジダ……」

 《勇者システムには装備転送システムという便利な物がある。登録できる物には条件があるらしいが個人装備として登録された物は、例え宇宙の果てであっても瞬時に呼び出して使うことが出来るそうだ。》

「ヨクミテオケヨ。コウキュウアンドロイドノ、セントウソウビトイウノハナ」

 メタルゴーレムとの合体だーーーーーーーーーーーー(格好いい)

 《空がグニャグニャって歪むとそこからドーーンと降ってくる巨大な物体、人型をした1t~2t位はありそうな鉄の塊が、幼げな子犬の前に聳え立っている。背中にはロケットエンジンが付いているので空も飛べそうだぞ。

 全高3m近くはある岩のような金ぴかで厳つい機械人形は、X教官の電子頭脳から制御をしているのか独りでに動きだす。前面の装甲を下に開きつつ、ごつい手で教官を持ち上げたゴーレムは彼を中へ格納すると装甲を閉じた。》

「キドウセヨ、キングゴラリオン!」

 凄いなぁ俺も欲しいなぁと尻尾を振って喜ぶ子犬。

「この仕事って……、本業に戻ろうかしら?」とかぶつぶつ言うのは、赤い瞳を丸くして側で見上げるアネラスである。

「フンガーーーー」とX教官はフロントダブルバイセップ。格好いいだろうとか自慢したそうな黄金のゴーレムは、続いて「ハイパーエーテル、バスターホウショウカン!」とか凄そうな事を言い出した。

 少ししてゴトンと空から降ってくるデッカイ筒。

「オマエタチニカイジュウガハクブレスノ、コワサヲオシエテヤロウ」

 長さ数mもあるメカメカしい筒には、支えるための土台が付いている。目標のロックとか調整はX教官自らがやるので、大砲には余計な物が付いてないそうだ。

 文字通りただの筒に見えるHEバスター砲の底、その両側にある持ち手を握って腕から伸びたケーブルを 筒に接続したX教官は武器にEPのチャージ開始する。そしてヴンヴンヴンとエーテルが溜って行くと、砲身は目の眩むような光を放ち始めた。

「ギガブレスノショウヒEPハ、イッパツ20000~30000ホドダ……」

 《怪獣さんの総EPは通常タイプで80万越え、強化型だと倍以上になり王冠持ちのX教官は5万2000と圧倒的な差があるのに、ヘル・ドラゴンに改造された怪獣達はなんと超魔法も使えてしまう。

 【わはははははって笑う所かも知れない。】

 正々堂々戦うと押し潰されてしまう所を、大量のアイテムや罠を使ったりとか金と物量でどうにか互角にしているのが現状なんだと。》

「カイジュウトタタカッテモタノシクナイシ、ブラックダカラワタシハヤラナイ。ケイイハドウアレソレトタタカオウトイウ、オマエラハソンケイニアタイスル」

 自身のEPを半分ほど砲身に注いでチャージをしたX教官は、砲身を空に向けるとトリガーを引いてズドゴォーーーーーーとHEバスター砲を発射した。

 (スゲェこれが異世界の戦いかぁーーー)ガクガクブルブル

 一軒家を消し去れそうな程に太いレーザー光線が、天高くどこまでも登って行く。あんなものを撃たれた日には俺なんて、いや例え軍の要塞であっても一瞬で蒸発してしまうだろう。超魔法が消費するEPはこの数倍とか言うし想像しただけで俺の体は震えが止まらない。

「ゼツボウスルニハマダハヤイゾ、ツギハコレダ」

 HEバスター砲を装備転送システムで、空から異空間へ格納したX教官は続いて両手を高く上げると呪文を発動させた。

「UMFボール!」

 EP8000を使って発動させる直径2mはありそうな大火球、キングゴラリオンの頭上でメラメラ燃えるそれを俺達は唖然として見上げている。

「UMFボールトハ、ウルトラマックスファイヤーボールノコトダ。コノテイドガデキナイナラカイジュウト、タタカウノハアキラメタホウガイイ」

「ぜったい無理よこんなの!」

 うら若き褐色肌の美少女がヒステリー気味に声を上げて、俺も改めて神様へ訴えようかなぁと考え始める。X教官は続けて怪獣はこの大魔法を複数同時かつ頻繁に撃つからよく見て覚えておけとか言うのだが……

「ハァーーハッハッハ。ジンセイアキラメガカンジンダゾ、ドオリャーーーー」

 X教官はUMFボールを離れた所へ放り投げた。

 目算で200~300m位かな? 勢いよく飛んで行った大火球がドーーンとキノコ雲を上げながら炸裂すると、衝撃波でアネラスは尻餅をつき、何も考えずに見ていた俺はゴロゴロと地面を転がってしまう。(痛いよー、怖いよーー、神様なんか嫌いだーーーーーーーー)

「コノマホウハTNTカヤクデ、1tブンホドノハカイリョクガアルノダ」

「冗談じゃないわこんなの」

 状況とか効果にもよるがEPシールドは、相手が消費したEPとほぼ同量を消費して相殺されるとHELPには書いてあった。(怪獣の攻撃を相殺する為には……)

「ヒトリデタタカウワケジャナイカラナ……」

 怪獣ハンターはチーム戦、必要最低レベルは40以上で、∞の塔で真面目に訓練を積んだとしても参加できるのは数年先。(逃げるチャンスは幾らでもありそうだ)X教官の長い話が終わったら本日の訓練はこれにて終了、時刻は昼近くであり続いて俺達が此れから暮らす寮の説明が行われていった。


 寮の入り口は∞の塔から見えた看板の真下にある。地面に閉まったシャッターがあって側にあるスキャナーに、アネラスが手を載せると認証されてガラガラと開いていくのだが……

「私達はいつ指紋とか静脈の登録をしたのかしら?」

「コマカイコトハキニスルナ」

「ワンワワンワンワン」(プライバシーの侵害だーーーー)

「エインヘリアルニプライバシーハナク、シモン、セイモン、ジョウミャク、モウマクナドニイタルマデスベテハアクサレズミダゾ。カミヲシンジヨーーー、シンジルモノハスクワレルーーーーノデアル」

「何て言うかその……」

「クジョウハスベテカミニイエ、ワタシニキイテモワカラナイカラナ」

「それもそうね」

 シャッターが開くとただの坂道があってX教官はキャタピラでキャリキャリと下って行き、俺達は隣に並んだエスカレーターで下に降りて行く。

「結構深くまで潜るのねこれ」

 《「カイジュウヤモンスターノ、コウゲキニタエラレルヨウニダナ……」

 複数の防御層の下に作られた贅沢な造りで、寮は地下20mにある。緊急時は立て籠もって戦えるように1年分の食料とかが準備されているらしい。》

「ツイタゾ。ミレバワカルトオモウガ……」

 スロープで一番下まで降りると左右に広がる廊下があって、『右側に訓練施設、左側に寮・食堂・大浴場』と描かれた看板が前に掛かっている。

 蛍光灯の明かりの元、左を選んでキャリキャリと進むX教官について行くと、大きな音が突然聞こえて俺達はビックリした。パンッパパンッという聞き覚えのある音、目の前で金のくす玉が割れると『入学おめでとう』という垂れ幕が、紙吹雪と一緒に落ちてきてパチパチパチと拍手が起きる。

「ヨウコソミーティアクンレンコウヘ!」

「15ネンブリノセイトガキダ」

「カミハワレワレヲミステテイナカッタ」

「カンゲイスルゾ」

 俺達を出迎えてくれたのは、半円状に並んだ4台の量産型ロボット達。嬉しいような嬉しくないような複雑な気持ちが沸いてきて、「ここにはロボットしか居ないの?」ってアネラスが聞いたら、「ソウダゾ」とX教官は短く答えた。

「マァスワレスワレ」

 どうやらここは食堂らしくて壁際には厨房もある。案内されたテーブルの上にはデコレーションケーキとか、フライドチキンや酒類なんかが乗っていて、俺達はロボットの接待を受けながら歓迎会を楽しんだ。

 これが終わったのは昼の2時ごろで終わったらX教官は帰って行き、俺達は此れから暮らす部屋まで量産型ロボットに案内される。


 ……室内は簡素な作りだがシャワールーム、クローゼットに折り畳みベッドや布団とか最低限の物は一通り揃っていた。

「これからどうしようかポチ?」

「ワンワンワン」

「まず動物言語のスキルが必要ね……」

 ベッドの端に腰掛けたアネラスの首にはSペンダントが掛かっている。ミリィ様から託されたX教官が帰り際に彼女へ渡したもので、HELPに何かないかなと調べてみたらこれを覚えるのは中々大変だと言うのが分かった。

 《習得に必要なのは通常LV15と、英雄LV+3。この英雄LVが実に厄介でアネラスは何とマイナスLV15もある。マイナスLV15とは強盗でひと1人を殺した分ぐらいに値する数字らしい。

「私は人殺しをした覚えは無いんだけど……」

 あれでしょ、これに、これも? とか指折りしながら少女は何やら数え始めた。折っては立てられ立ててはまた折られてと、アネラスの指は動き続けるのだが疲れたのかやがて数えるのを止めてしまう。

「結構盗んだから分からないわ。神様ってよく見てるわね……」

 (言葉が通じないなら何か他の方法を考えなければ、此れではまともに戦闘なんて出来ないがどうすれば……あっそうだ)もしかしてと思った俺はSペンダントを触ると、通信欄からSNS機能を選択して起動する。

 (地図を受信できたから文章もきっと……やっぱりだ)

「何をしてるのポチ? ああなるほど」

 SNSを立ち上げると俺の前にキーボードが表示される。使い方は人間世界のそれと殆ど変わらず、ステータス欄に表示されているIDを登録すると、アネラスに繋げることが出来て後は文章でポンポンとだな……

 扱い易いように表示位置を下げたり、空中に表示される半透明キーボードのサイズを広げたりとか、設定変更であれこれ調整したが犬の前足は2本しかない。打ち込む速度はどうしても遅くなるが

 『こんにちわ俺はポチです』って送信すると、『こんにちは私はアネラスです』って彼女はSNSで打ち返してくれた。

「どうにか最小限の話はできそうね」

 『そうだな』

 日本でオンラインゲームをしていた時みたく、視界の隅へSNS・メールが常に表示される様にしておけば(設定で自分しか見えない様にする)、そんなに邪魔にならず日常生活でも使える。

 文字を打ち込む俺は動けなくなるが通常の会話は此れで十分、しかしこの機能が使えるのはSペンダントを持っている人だけだ。アンドロイドのミリィ様や量産型ロボットとは普通に話せたから、翻訳ソフトが標準インストールされているのだろう。

 (最初はどうなるかと思ったが此れなら生活に困ることは無いな)

「それで此れからどうするのポチ?」

 キーボードから打ち込む俺の横でプラプラと揺れる生足、(綺麗な足だなぁ)とか横目でそれを眺めつつ『疲れたから寝たい』って打ち込むと、「私も疲れたわ、まだ昼だけどシャワーを浴びて今日はもう寝ちゃおうか?」って彼女は言う。

 (美少女と一緒にシャワーーーーー、お腹いっぱいだし逃す手は無いよな?)

「ワンワンワン」って尻尾を振りならそれに応じると、アネラスは部屋に鍵を掛けて服を大胆に脱ぎだした。(グフ、グフフフフフ)

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