第4話 また捨てられる……

                  ※4

 この都市は観光に向かないなぁと俺は思った。中世にビル群を足して割ったような変な作りをしていて、その所為か生活風景も色んな物が混ざりあっているが、基本的に戦闘色が強くて余所者を寄せ付けない感じがした。

 戦闘を繰り返しているような都市は、全体的にボロボロで天井が無かったりとか人が住めそうにない所も点在している。

 中でも目を引くのが都市の中央にある巨大ビルだ。

 下から数階は5角形で各角の屋上には砲台が載っており、行政の中心になるらしい数十階建てのビルはハリネズミの様に武装されてて勇ましい。

 兵士達に捕まった俺は宙に浮かせた車体に、小型ロケットエンジンを付けた【フライングカー】とか言うトラックみたいなのに載せられている。

 町の西側から首都庁らしい建物の前を通って東側へ。

 フライングカーは宙に浮いていてガタガタせず乗り心地は快適。信号で止まったりしながら進むがこの都市は水が豊富で、途中なんどか水路に掛かる橋を渡る。上空から見たこの要塞都市は、幅の広い水堀に囲まれていたのを俺は思い出した。

 ———さてだ。

 〘子犬になり、高々度から落とされて、美少女に激突したら兵士に捕まるわと、いきなり色々あった俺は神達に文句が言いたい!!!!!〙

 言いたいけど我慢するしかなく暫く進んだフライングカーはある場所で停止した。

 首都庁から少し東に進んだ水路沿いにある鋼鉄の壁で作られた平屋。その前に車が止まると車から降りた兵士達は、2人掛かりでまだ気絶しているアネラスを檻から出して平屋の中へと運び込んで行く。

「この子犬はどうしますか?」

「鉄籠に入れたままアネラスと一緒の牢屋へ放り込んどけ。俺はアネラスを捕まえた報告を検察に伝えてくる」

 どうやら近くに検察庁か何かがあるらしく、隊長が居なくなると俺が入っている鉄籠を持った兵士は、アネラスを運んだ兵士と同じように平屋へ入って行く。

 中に入って直ぐの壁沿いには受付・監視室があり、この部屋を分断する鉄柵の前には強そうな兵士が立っている。アネラスに続いて鉄柵に付いたの扉を通り抜けると、地下に続く階段があって俺はその先に運ばれて行った。

 左右に続くコンクリート壁や鉄格子を見ながら、目的の牢屋までやって来ると兵士はアネラスの手枷を外してその中に放り込む。

「後で餌をやりに来るから大人しくしているんだぞ」

 そう言いながら兵士が鉄籠を置いたのは古びて汚いベットの上、犬になった所為か汗臭さが人の時より感じられてちょっと気分が悪い。ガチャリと鉄格子の鍵を掛けて去って行く兵士を見送りながら俺は色々と考えた。

 〘悩んでいるとグゥーーと腹が鳴る、(何よりまず飯!)死活問題である。〙

 俺が兵士から貰える餌はどんな物になんだろう?(犬が食べる物と言えば残飯にドックフードとか、何かの骨に生肉……そんな物喰いたくねーーーーー)

 あの三姉妹とか神様に対する怒りは多いが何だかとても眠い。色々あって疲れたしアネラスはまだ起きないので、欠伸をして丸くなった俺はスヤスヤと眠りに落ちた。


 ———数時間後、目が覚めた俺は鉄籠の中でお座りをしている。

 最初は我慢をしていたがする事が無く、少しして苦痛を感じるようになって来た。牢屋より狭いこんな場所にずっと居たら、俺はおかしくなってしまうかも知れず(動物はよく平気だよなぁ……)とか思ったりする。

 窓が無いベッドが置かれただけの狭い牢屋。

 暗い中を照らすのは牢屋の外にある天上に設置された蛍光灯。

 風の通りが悪くて淀んだ空気や、牢屋の隅にある汚れた便器から立ち上る異臭が敏感になった俺の鼻を虐めてくる。

 これから何をするにせよアネラスが起きてくれないと、俺は動けないのでまだ床で気絶している少女を起こす事にした。

「ワンワンワンワンワン」

「煩いぞ犬ーーーーーーー」

「だまりやがれ!」

 アネラスに起きて欲しいなぁと吠えていたら、前の牢屋にいる麻の囚人服を着ている無精髭の怖そうな人に怒られてビクッとしたが、思う所があってまた吠え始める。

「ワンワンワンワンワンワン……」

「うるせぇって言ってるだろうが!」

 ガチャガチャと前の人が鉄格子を揺すり、「お前も煩いぞ!」と別の所から声が上がって騒いでいたらアネラスの目が開きだす。(よし作戦成功だ)

「煩いわねぇ誰よいったい」

 目を擦りながら起き始めた少女は兵士に装備を取り上げられたので、黒のレオタード姿になっている。レオタードの腰から薄赤色の尻尾が伸びて、同色の猫耳が頭に付いたツインテールで小柄な体型だ。

 褐色肌なのは少し残念だが美少女である事に変わりはない。(しかも猫耳だぞ!)

「ワンワンワンワン、はっはっはっ……」(これで合ってるよな?)

 お座りした子犬の俺は、尻尾を振りながら愛らしい目で少女を見つめる。少女趣味が入って面倒くさいあの三女と長く付き合い、結婚まで漕ぎつけた俺はこうやって女性に媚びるのに慣れているのだ。

「……」

 俺がしているようにアネラスも見つめ返してくる。意識がはっきりしないのか最初は優しそうな顔だったが、段々眉が吊り上がり険しい顔つきになって……

「よくもやってくれたわね! この糞犬ーーーーーーーー」と大声で吠えた。

 当然と言えば当然なのだが、声を牢屋中へ響かせた【ゲオ・アネラスと言う10代の美少女】は、メチャクチャに怒りながら無意識に腰の左右へ手を伸ばす。(アネラスは二刀流なのか? そう言えば武器を2つ取られていたな)

「何で武器がないの! ローブや防具も無いじゃない!」

 武器が無い事に慌てた少女はまず殺気を込めた目で俺を睨みつけて、それからツインテールを振りつつ辺りをグルリと見回した。

「気絶した後に兵士に捕まって牢屋に入れられたのね私」

 どうやらアネラスは状況を理解したらしい、頭の回転が速いのはさすが泥棒だ。

 ———そして

「どうしてくれるのよこれーーーーーーーーーー」

 俺を睨みながら鉄籠を持ち上げた彼女は、前後左右へ激しく揺さぶりながら「あんたの所為でしょ何とか言いなさいよ!」と怒鳴ってきた。

 しかし異世界に転生させられたばかりの俺は、訳も分からないまま捕まってここに居るのであり、どうにかしろと言われても大変に困ってしまう。

「ワンワンワン」

「ふざけてるの?」(いや俺は子犬だし)

 ワンが気に入られなかったので「クーンクーーン」と鼻を鳴らしてみる。

「もーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 鉄籠を振りかぶったアネラスが牢屋の壁に投げつけるので、ぶつかった俺はとても痛かった。(怒って吠えるべきか? いやここはだな……)尻尾を丸めて股の下に入れながら腰を引いたら、耳を垂らし頭を下げて「キューンキューーン」と俺は鳴く。

 女と言うのは適度に持ち上げて媚びておけば、後はどうにでもなる生き物だ。


「そんなに怯える事無いでしょ」(ほらな、直ぐに怒りが消えてくれる)

「キューンキューーーン」(だめ押しを忘れてはいけない)

「悪かったわよ」

 引っ繰り返っていた鉄籠を持ち上げて、ベッドに置き直した彼女は俺に謝るのだがここでもう一押しておこう。つぶらな瞳で見つめながら、鉄籠を持った彼女の手を甘えるように舐めておく。(これで完璧だ)

「お前はなんなの?」

「ワン?」(人の言葉が話せたらなぁ)

 鉄籠を床に置いて話し掛けてきたアネラスに、俺は首を傾げながら吠えてみる。

「何で空から振ってきた訳? 犬に答えられないと思うけど」

 答えられるが俺は人の言葉を話せない。

 ならばこうだとは俺は鉄籠の中で仰向けになったり、立って神様の振りをしたりとか子犬の体を使ったジェスチャーを試みるも全く通じなかった。

「犬の癖に知能があるなんて変だわ、あなたゾンビじゃないでしょうね?」

「ワンワンワン!」慌てて吠えた俺は、首を左右に振って全力で否定する。

「ゾンビなら体が腐ってるからそれはないわね、モンスターなの?」

 (ちっがーーーう)と否定した俺は、あれこれ頑張るけどやっぱり通じなかった。

「それがどうかしたの? 全く意味が分からないんだけど……」

 (ステータスバーを見ても分からないし、彼女はエインヘリアルを知らないのか。あーーーダメだこれ……)

 話が通じなくて落ち込んでいる俺の前で、彼女は「なんだって言うのよ全く」とかぶつぶつ言いつつ、右手を頭の後ろにある髪の毛の中に入れてゴソゴソし始めた。

 少ししてアネラスが髪の中から取り出したのは、変な形にグニャグニャ曲がった2本の鉄棒でそれらを使って牢屋の鍵を開け始める。その様子を(さすがプロだなぁ)と俺は眺めていたが、ネコ耳少女は扉を開けると自分だけ外に出て行こうとした。

 (なんでだよーーーーーーーーーーーーーーーーーー)

 一緒に連れて行って貰えると当然のように思っていた俺は「ワンワンワワンワンワンワン」と鉄籠の中から、けたたまましく吠えてアネラスに猛アピール。

「私は動物愛護なんて興味ないの、誰か他の人に飼って貰いなさい」

「ワンワンワンワン」(俺はエインヘリアルなんだぞ!)

「煩くしたらばれちゃうでしょ、静かにしてよ」と彼女はしーーっと口に指を当てながら小声で牢屋の外から言うも、俺は構わずに吠える音量を上げていった。

「ワンワンワン……」(牢屋に残されるのは嫌だ、俺も連れて行け、連れて行け)

「どれだけ煩くしてもダメなのはダメ。どこかで元気に暮らすのよ」

 泥棒らしくアネラスは薄情な少女で、幼気な子犬がこれだけ頼んでいるのに後ろを向くとさっさと走り去ってしまう。

「こっちの扉も開けてくれよ!」「俺を助けてくれーーーーーーーーー」等と、脱走するアネラスを見た囚人達はあちこちで声を上げるも完全無視。

 パートナーが居なくなって静かになった牢の中、一匹でポツンと残された俺は行き場のない怒りと共に唖然とお座りをしている。(クソーーーーこうなったら、ふて寝してやるからな!)と俺は大欠伸。

 他に出来る事が無いし、(いま何時だろうなぁ)とか(お腹空いたなぁ……)と考えながら、鉄籠の中で丸くなった俺は目を閉じてスヤスヤと眠り始める。


 それから数時間後……

「おいっ貴様ぁアネラスはどこに行ったんだ!」

 暫くして大声に反応した俺は目が覚めた。どれ位眠っていたのか分からないが、鎧を着た兵士が上から俺を見下ろしつつ叫んでいる。

「子犬に聞いても答えられないだろ」

「どうやって逃げたんだあのクソ女」

兵士は2人いてその内1人は鍵束と長い棒を持っていた。もう1人の方は夕食らしいパンやスープ皿にカップとか、残飯を詰め合わせたようなボールを載せた、食器プレートを持って怒鳴った人の隣に立っている。

「ワンワンワンワンワン」(腹減ったぞーー、水もくれーーー)

「分かったからそんなに吠えるなよ」

 プレートを持っている兵士は屈むとそれを床に置いて、鉄籠に付いた錠前に手を掛けた所で俺を見つめながらどうしようかと考える。

「鍵を外して籠から出しても大丈夫だよな?」

「ワンワンワンワン」お座りしながら尻尾をフリフリ。外しても大丈夫だ俺は可愛いだろうと兵士に訴えたら、「暴れるんじゃないぞ」と言いながら籠の鍵を外して、俺を鉄籠の外へと出してくれた。

「これがお前の晩ご飯だしっかり味わって喰うんだぞ」

「そんな子犬に構うな! アネラスを探しに行くぞ」

 1人が俺の相手をしている間、牢屋の中を調べていたもう1人の兵士は叫ぶと牢の外へ飛び出していき、彼に続いてもう一人も飛び出して行く。

 (あの人たち減俸かな? 大変だなぁどうでもいいけど)

 牢屋に1匹で残された俺に出来ること。逃げることを考えてもいいけどお腹を満たす方を優先したいので、床に置かれたボールに近付いてまず匂いを嗅いでみる。

 黒い鼻を近づけながらクンクンと、匂いは悪くないようだ。

 ボールの中身はご飯に野菜屑やら肉の切れ端を混ぜた物で、犬ならこれだろうと動物の骨がセットになっていた。(こんな物を食べる羽目になろうとは……)本心は嫌なのだが食欲には勝てないので俺は我慢して食べることにする。


「ワンワンワン」(頂きます)

 行儀良くお座りして言った俺はボールに頭を突っ込んで食べ始めた。(全部食ってやるぞーーー)味付けしてないのが不満であるも、こっちは悪くはない。アネラスの分らしいパンは安物のパサパサで、スープも具材が少なく今一美味しくなかった。

 【さて……食ったら出す、これ生命体の基本なり】

 夕食を平らげてお腹を膨らませた俺は、トイレに行きたくなって来た。

 本能に従って部屋の角へと引き寄せられて行き犬らしくそこで片足を上げた俺は用を足そうと構えるも、(体は子犬でも心は人間、人間たるものやはり正しくトイレを使うべきだろう)と思ったので我慢する。

 部屋の角にある水洗トイレに近付いた俺は人間サイズの便器に苦労しながらよじ登って用を足すと、壁に設置されたタンクの横にある紐にエイヤッとジャンプしながら噛みついてのトイレの栓を回すとジャーーと出した物を流していく。

 【満腹になったら眠くなるのも、生命体の基本なり】

 トイレを済ませた俺は、おやつに残しておいた何かの骨をガリガリと齧りつつ、このまま寝てしまおうかと考えるも、その前にステータスを認をしておく事にした。

 (どうやるんだったかな? えーーと……)

 骨を平らげた俺はお座りすると前足で首に掛けたSペンダントに触る、するとステータス画面が顔前に現れるので内容を確認していった。

 《半透明な画面の左上にある『身体能力』の欄に触ると、俺が今使えるスキルとか能力値が評議された画面に切り合わる。能力画面は上から順に、LV・名前と職業・EP・魔力適性とか書かれていた。

 『LVワン 名前無し 種族:動物類・イヌ科 職業:ただの子犬

  EP:1000 魔力適性:B±0%』(身体能力値は此だけ、すくなっ!)

 魔力適正はSSS~Dの7段階あって、-10%~20%まで5%位ずつ魔法の攻撃の威力が上がるそうだ。

      得意属性:炎  吸収属性:無し 弱点属性:無し

     Eシールド:弱(削減補正±0)、耐性無し

 Eシールド魔法耐性:無し

 Eシールド貫通耐性:C(防げない)

 Eシールド近接耐性:C(防げない)

    マーキング:聖水効果、モンスターが一定時間近付きません。

     肉球・弱:壁やモンスターに貼り付けます。

     嗅覚・弱:嗅いだ匂いを登録・追跡できます。』

     あとあるスキルは吠えたり、噛みついたりとか……

 (……えっこれだけ? 攻撃スキルが無いんですけど!!!!!)

 子犬の体で噛みつけばいいのかな? 体当たりすればモンスターをやっつけられたりするのかな?(そんなわけ無いよね……俺は可愛い子犬ちゃん、人間に媚びて甘えて飼ってもらう愛玩動物ってアホかーーーーーーーーーーーーーー)》


 (こんなのはサブキャラの仕事だろ! マ・ジ・でふざけんな!)

 どうにかしてくれと悩んだ俺はヘルプがあるのを思い出し、『身体能力』の画面から一度出ると先頭画面にあるヘルプのボタンを押した。

 (歴史なんかどうでもいい、戦闘だ戦闘……)

 ヘルプの一覧を前足でスクロールさせつつ探すと、初心者アドバイスを発見する。

 『【攻撃技がない! 戦えない!】と嘆いているエインヘリアルの皆様へ。

  動物族の方は素直に諦めて下さい。(チーーーーーーーーーーン)

  モンスターに転生したかったですか?

  動物族の方はサブが仕事なのでメインで戦えると思ってはいけません。サブ職業を極めるもよし、愛玩動物として飼われる人生はそう悪いものでありませんよ。

 【勇者候補はあくまでも候補です】そこんとこ宜しく』

 (本気で怒るぞ! 神様なんか呪ってやるーーーーー)と、怒りMAXでヘルプ画面を弄ったらまだ続きがあるのを発見した。

 『なーーーんちゃって』(はぁ?)

 なぜだかスクロール出来るので、原稿用紙10枚分位ある空白をダラダラと上げていったら、『他の種族と同じように運の悪い動物族の皆さんも、神殿やペットショップ等でスキルを授けて貰いましょう』と終わりの方に書いてある。

 (なんだ戦えるじゃないかって、あーーーーーーーーーーー)

 『戦えないのでLVが上がらず、スキルを授けて貰うのに必要なアイテムやお金が貯まらないかも知れませんが、パートナーにどうにかして貰いなさい』

 (そうだよなくそ……)

 ほかに必要な情報と言えば……

 子犬の手であれこれと操作画面を弄りながら俺は調べて行く。

  《『【1:HPはこの世界に存在しない】

 攻撃を受けたら普通に痛いし剣で斬られたら一撃で死ぬ。

 【2:LV・EPとは魂の力である】

  EPとは魔法力みたいな物でHPの代わりに盾のように発生させ、シールドが敵の攻撃を防いで代わりにEPが減っていく。シールドは一方向しか防げないので、後ろとか側面の攻撃には注意しなければなならないと。

  猛毒や病気など呼吸・接触で感染するのはシールドで防げず、気温の変化に耐えられるスキルとかもあり、LVUPや何らかのイベントでEPの総量を上げられる。

 【3:運動能力は現実仕様】

 攻撃力・防御力などといった値は存在せず、修行・筋トレをして自分で鍛えるのだがEPを消費した身体強化や、強化ドラッグ・人体改造等は可能であると。

 (なんかヤバくないかこれ? 法律で禁止されたれたりしないんだろうか……)

 【4:スキルの習得には3通りの方法がある】(スキルポイントは無いようだ)

  1.LVや条件を整えた後に神様へ貢物を捧げて授けて貰う。【通常スキル】

  2.ペットショップやどこそこの達人に教えて貰える。   【全般スキル】

 通常スキルは戦闘で使うやつで、全般スキルは主に生産系とか探索スキルらしい。

 これ等とは別に〘英雄LV〙もある。

 英雄LVとは善行や悪行を積んだり戦場で活躍したりすると、最大LV±30まで増減して超必殺技の使用条件、クエストの受注に影響、商店で割引など色々とあるそうだ。神族は上がりにくくて下がり易く魔神族はその逆だ。

 【5:試練の祠】

 これをクリアするとクラスチェンジしたり、普通の変身アイテムが貰えたりする。

 【6:∞の塔について】

 兵士・エインヘリアルが訓練するために神様がお造りなられた塔です。

 無限にモンスターが沸いてLV上げに最適な場所、トラップも沢山あって一撃死が多発する素晴らしい訓練施設。死に過ぎたり戦場が怖くなったりと、PTSDに掛かった場合は病院に駆け込んで記憶を消して貰いましょう。

 (わーいわーい楽しみだなぁ、逃げちゃおうかなぁーーーーーーーーーっと)

 怪獣と戦う前の実戦トレーニングとして最大限にご活用下さい。

 【7:伝説系の装備について】

 なんか神様はエインヘリアルが楽しめるように、伝説の装備をあちこちに撒いたとか何とか書いてあった。これ等は数が少ないので奪い合いになるが、惑星ミーティアの外には持ち出せないので探せば手に入れるチャンスがあるらしい。

 優れたエインヘリアルは神様に重用され、高待遇が約束されているから頑張って戦いましょうと終わりに書いてある。』》


 (大体こんなもんか……)大まかな事が分かった所で、ステータス画面を閉じた俺は次にする事を考え始めた。

「フワ~~~ア」(俺は眠い、もう睡魔には逆らえないぞ。しかしだ……)

 欠伸をしながら俺は悩んでしまう、このまま牢屋に止まっていて良いのかと。

 (このまま牢屋にいると俺はペットショップに売られたり、保健所へ送られたりするかも知れないなどうしよう……)

 よほど慌てたのか兵士達は鍵を掛けた様子がなかったので、もしやと思いながら牢屋の扉へ近付きつつ鼻先で押してみると、ギィーーと金属音を立てながら扉が開いて行く。そして俺はここから逃げようと決めるのだが、まだ問題はある。

 (アネラスはどこに行ったんだ?)俺の可愛い美少女パートナー。1度組んだら解消するのが大変らしいので、俺は何としても彼女を捜し出さなければならない。

 (犬なら嗅覚で探せるのかな? そんなスキルがあったような……)

 試してみようと彼女が寝ていたベッドに近付いた俺は、フンフンと少女の匂いを嗅いでみる。ちょっと汗臭いが女の子の匂いがして、少しすると視界の端に『この匂いを追跡しますか? YES/NO』と選択肢が現れた。

 こうやって話すのとか転生システム等を全て纏めて【勇者システム】と言う。勿論だが俺は『YES』ボタンを前足で押し、そうしたら匂いが紫色で視覚化されてアネラスが走って行った方向へ流れ始める。

 (この匂いを追って行けばアネラスの所へ行ける訳だな)

 俺が居るのはコンクリート壁に囲まれた地下1階で、見回りの兵士が来ないことを祈りつつ進んだ俺は階段の前までやって来る。

 コンクリートの階段が上下にあって、俺が追ってきたアネラスの匂いは地上へ続く階段ではなく、地下2階へ下りる階段の方へと続いている。(上には兵士が居るから下へ行くんだろうが、アネラスはどこから逃げるつもりなんだ……)

 匂いの流れに従いながら2階に降りて更に進もうとすると、前方から俺の方へと歩いて来る兵士を見つけてしまう。(どうしたものか……)

 天井の蛍光灯は光が弱くて、廊下の先にいる兵士はまだ俺に気付いていない。犬は夜目が効くので遠くから見えたが、このままでは捕まってまた鉄籠に入れらてしまうだろう。どうしようかと考えて俺はあのスキルを発動させた。

「ワンワン」(肉球発動)

 スキルはスキル覧からだけでなく、このように音声認識でも使える。壁やモンスターに張り付けるという事はこうペタッとな……

 右前足で石壁へ触れると引っ付いて離れなくなった。(これは良いスキルだ)次は左前足だとペタッとくっ付けて二足立ちになった俺は、床を歩くように右後ろ足、左後ろ足も続けて壁を登ると天井で上下逆さまになる。

「他の奴らがアネラスに続いて脱走を考えないように、暫く警備を強化する。気を抜くんじゃないぞお前達……」

 歩いて来た兵士達が階段に消えるのを、天上から見送った俺は【肉球スキル】を解除して天井から床に落ちる。それから地下2階を進んで地下3階に下りた俺は、更に進んで一番下にある鉄扉を、兵士達の出入りに上手く合わせながら通り抜けた。

 

 (人間用の扉ってこんなに大きかったんだなぁ……)等と、感慨に耽っている場合ではなく扉の先は部屋でも通路でもない水路だった。

 奥には上で枝分かれした所から勢いよく流れ落ちてくる滝がある。壁際に空いた穴から汚水が流れ出ているここは下水道になるらしくて、扉の側にはなぜか棺桶も積んであるがとにかく進もうとコンクリートの道を歩き出した。

アネラスの匂いを追いながら水路に沿って進むとまた扉がある。下水路を分断するように作った鉄柵に鍵付きの扉があるけど、どうしたものか?

 誰かが開けてくれるのを待とうかと思ったが、他にも道がありそうなので俺は下水路の端へと近寄って覗き込む。側道にある鉄柵は間隔が狭いので抜けられないが、水路の方は若干広めなので子犬の体なら隙間から抜けられそうなのだ。

 【しかし下水である、そう下水なのである! しかも水量が多い。】

 端から覗き込んだ水路は深そうだ(子犬的に)、流れもそこそこあって泳ぐのは大変そうな気がする。こんな所で溺れ死んだら神様に笑われそうだぞ、(犬の姿で泳ぐのは始めてだけど、ええいままよ!)と俺は下水路へドボンと飛び込んだ。

 (やっぱり流される! 誰か助けてくれーーーーーー)

 犬掻きで抵抗するも無駄な努力。

水流で押しつけられた鉄柵は楽に抜けられたのだが、そこから先は溺れるような格好で俺はガボガボと足掻きつつ流されて行く。抵抗を止めると顔が沈んで苦しくてゲホゲホキャンキャンと流されていたら。水路が曲がって方向が変わる所が先の方に見えて来た。(ここしかない!)

「ワンワン」(肉球発動)と俺はスキルを発動させる。

 曲がる所で壁に当たるように頑張って泳いだ俺は、壁に体が接触すると同時に肉球をそこへ貼り付けてピンチから脱出。水路の壁をよじ登って側道に上がった俺は、全身をブルブル振って体から水を飛ばしつつ一息ついた。

 (体が臭くて鼻が曲がりそうだ……)犬の嗅覚を少し恨み、こんな体にしてくれた神様に怒ったりしつつこの場で少し休憩をする。

 ———少しして。

 休憩を終えて側道をテクテクと進んで行く俺は、道標である紫の煙が何だかぼやけてきたように感じて来ている。アネラスの匂いは下水道を奥へと進むが、複数の臭いが混ざったり時間が経過したりすると【嗅覚・弱】では能力不足になるようだ。

 頼りない匂いを追って俺は側道を進むが辺りは薄暗い。

 ひと1人がやっと通れる程に狭い道を、下水へ落ちないように気を付けながら俺は歩いて行く。どこまで続くのか下水道は結構長いようで、暫く進むと別の場所から流れてきたのと合流して更に勢いを増しながら下水は流れて行った。

 下水にこれだけ使えるのだから飲料水はもっとある、水が豊かなのはいい事だと思うがこの臭いは堪らない。(量が増えるんだから我慢するしかないよな)

 (手頃な所で外に出てくれればいいのに……)アネラスの匂いは支流ではなく本流の方を選んで進むからかなりの距離を歩くことになり、彼女はどうやらこのまま要塞都市の外へと出て行くつもりのようだ。


 ———そんなこんなで長々と下水路を進んだ俺は出口までやって来た。

 【こことても凄い所、色んな意味で。】(下水処理場は無いのかよ!)

 【魔法科学力は高いのになぜ作らないんだ!!!】と俺は叫びたい。

 辺りに漂う匂いは子犬の嗅覚を殺しに来るレベル。(こんな所にいたら病気になるーーーーー)と駆け出した俺は大急ぎで近くの土手を登ると道路に出た。

 兵士に捕まってから結構寝たしアネラスを追って長い時間を歩いたので、この世界に来た時は昼だった空には月が昇っていた。月がある外は下水路より明るい位で、明るいが故に土手から見下ろす風景はこの世のものとは思えない絶景である。

 (あれは地面かな? それとも黒いあれなのかな?)

 想像できる? しない方がいいかも知れない。

 〘土手から見えるのは大河でその河原一帯には、何十年、何百年分ものあれとかが広がっている様に見えるのだ。雄大な大河と満月に照らされて白く輝く人生が凝縮された大地とのコラボレーション! 俺はこの風景を一生忘れる事は無いだろう〙。

 【月明り、大河を眺めて、人を思う】。(字余り)

 (最悪だーーーーーーーーーーーーーーーーーーー)うん。

 そしてその河原には何かウネウネする液体の塊が這いずり回っている。

 最初はあれが何だか分からなかったが、(若しかしてスライムか?)と思った瞬間にここがどうなっているのか理解できた。人間は細菌と機械を使って処理するがこっちは魔法らしくスライムで処理をしているのだろう。

「なぁアネラスは見つかると思うか?」

「脱走してから結構経ってるらしいしもう無理だろ」

 〘俺の人生観を変えそうな絶景〙を眺めていると、誰かが近づいて来たから慌てて近くの草原に飛び込んで身を伏せた。

 土手の上に明かりが2つ、ユラユラと揺られながら進んで来る。手に持った懐中電灯で下水の出口付近や河原を照らしているのは、アネラスの捜索に来ている兵士達で剣と銃が両立するのは魔法が使える世界らしい装備品。

「早く都市に帰りたいよなぁ」

「全くだ、こんな所に長く居たら病気になるぞ」

「アネラスは要塞の側にあるスラム街へ逃げたと思うな、探しようなんて無いだろ」

「だよな早く捜索を諦めて欲しいもんだ」

 (下水道の出口から出た辺りでアネラスの匂いが消えて、先へ進むには何らかの情報が必要だったが丁度いい。聞いた通りにスラム街へ行ってみよう。)

 ステータス画面でオプション設定を、変更した俺は日付と方位磁石を視界の隅に表示させてある。下水路の本流は都市から南西方向へ直進していたので、兵士達の話を聞いた俺は草原から立ち上がると要塞都市がある北東に向かって歩き出す。

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