第5話 いらない職業と親切な神様、死亡1回目

 ———夜の草原を歩くのは危ない気がするので、途中にあった木によじ登るとそこに生っていた木の実で空腹を満たしつつ枝の上で眠りにつく。

 そして夜が明けると陽気だなぁ楽しいなぁランランと、俺は春先の暖かい日の光を浴びながら草原を歩き始めた。ここから目的地まで一体なん㎞あるのか、子犬の足で2時間は掛かるであろう長いお散歩である。

 日本では中々お目に掛かれない広大な草原地帯、自然が一杯で道路とか人工物がなく美味しい空気を胸一杯に吸い込みながら進んで行くと……

 【突然だがスライムが現れた!】

 うん、そうなんだ。異世界転生のお約束、草原を進んで行くと何かカサカサと近くの草が揺れるので振り向いてみたら、そこにスライムさんが一匹這っていた。

 (スライムと言うかナメクジ? かな……)

 〘初モンスター〙が進んできた道には一本の草も無く、ゼリー状をした体内には消化前の草とか虫が幾つか浮いている、こいつは何でも食うらしい。(どうしよう)

 スライムは俺と同じぐらいのサイズで、地面を這いながら俺の方に寄って来る。自慢じゃないが俺は【攻撃スキルを一つも持ってないぞ!】、異世界転生にあるべきユニークスキルとか伝説の武器も貰えなかった。(神様が悪いんだ)

 スライムは最弱のモンスターなので子犬でも楽に倒せる筈。(頑張ろう)

 俺が行動に迷っているその間に、スライムは目と鼻の先にまでやって来る。どうやら俺を餌と判断したらしく、半球状の青く澄んだ体からウネウネと触手を伸ばして、戦闘態勢を整えつつあった。

「ワンワンワンワン」(俺は強いんだぞ! 怖いんだからな!)

 毛を逆立てつつ牙を剥いたら相手をギット睨みつける俺、可愛い子犬が吠えている様に見えるかも知れないがこっちは必死なんだ、うん。じっと相手の隙を窺うように俺はスライムと睨み合い、(先制攻撃だ!)と駆け出したらその横に回り込んでガブリ。

 【ハッキリ言って物凄く不味い!】

 【スライムは生暖かい腐りかけのゼリー味だった!】(オエーーーーー)

 噛んでいるスライムから口を離すと、直ぐに後ろへ飛んで俺はモンスターから距離を取った。不味い上に伸びてきた触手攻撃を躱す必要があった訳で、俺が全力で噛みついたのにスライムは平気なのかプルプルしている。

 (早くも詰んだかな? 逃げようかなぁ神様のアホーーーーー)

 最弱のスライム、それもたった一匹から逃げると言うこの屈辱。いちゲーマーとしてあり得ない判断であるが、俺はただの子犬、可愛い可愛いワンちゃんである。

 (ふざけろよおい!!)

 ウネウネーズリズリッとスライムが這い寄って来る、走れば簡単に逃げられるだろうがプライドが許さない。(何かいい方法は無いかな?)と辺りを見回してみるが、視界に入るのは草、草、小石、棒きれ、刃こぼれして捨てられた剣。

 (子犬の俺には何も使えねぇーーーーーあっそうだ!)

 神様から貰った物があるのを思い出した俺は、首輪に付いている【七星ペンダント】に前足を当てながら「ワンワンワーーーン」と吠えてみた。

 (ゴッドチェーーーーーーーンジ)しーーーーーん、反応が無くて恥ずかしい。

「ワンワンワーーーン」(なんで変身できないんだよーーーーー)

 (ああそう言えば、魔王か怪獣クラス以外には反応しないんだっけこれ。どうしよう逃げる? もう逃げるしかないな、うん。よーしそうと決まれば)

「ワンワンワーーーン」(子犬の逃げ足を見せてやるぞーーーーーーーー)


 ふははははは(やけくそだ)、走って走ってスライムを振り切ったら【野犬レッドが現れましたーー!】って感じ。

 《(わーーーーーん泣きたいよほんと)

 野犬はシェパードの様に厳つい顔で筋肉質な体つき、俺より数倍大きいオス犬にはあれが付いていて毛のない茶色い肌、剥いた牙のある口からは涎が垂れている。

 (群れで狩りをしたりするのかなこいつ? それは止めて欲しいなぁ)

 モンスターの頭上にはLVとEP欄があって、それぞれLV5、EP600と表示されている。能力は知らないがEPがあるという事は、最初のスライムと違って野犬は魔法が使えてしまうという事だ。(そんな殺生な)》

「グルルルゥ」(美味そうだなお前……)と野犬が喉を鳴らして牙を剥く。

 (おおっ犬の言葉が分かるぞ俺!)

「ワンワンワンワン」(可愛いだろ俺、見逃して貰えないでしょうか?)

 お座りをして尻尾を振り振りと野犬レッドにアピールをしたら、「ガウォウ!」と大きく吠えられて俺はビックリする。(心臓が止まるかと思った)

「ワンワンキャンキャン」(見逃してくれたら都市から御飯を貰って来てあげるのでどうか食べないでくれませんか?)

「ガウガウガウッ」(ゴチャゴチャうるさい)

 子犬が睨み返しても迫力はなく、背を向けて逃げても100%追い付かれる(ちくしょーーーーーーならこれでどうだ!)

「ワンワンキューンキューン」(俺は不味いですよ、体が小さくて喰い応えが無いですからね、子犬を虐めて恥ずかしいと思わないんですか?)

 犬と言えばこれ、ひっくり返って服従のポーズ。

「キューンキューン」と子犬らしく泣いていたら、「ガルルルルル」(そのまま動くなよ美味しく食ってやるかなら)と野犬は側に寄って来た。開いた口にギラリと鋭くて痛そうな歯が並んでいる、口臭が酷いから磨いた方がいいぞと思いつつ死にたくない死にたくないと考えていたらある事を思いついた。

「ワンワンワン」(此れでも喰らえマーキング!)

 ひっくり返りながらジョーっとおしっこをする俺、失禁した訳ではなく此れはスキルである。死ぬほど恥ずかしくて液体が身体に掛かるが気にしていられない。

「ガウガウガウッ」(何だこいつ臭ーーーーーーーーーーー)

 (お前に言われたくねぇよ!)

 どうやらスキルにはちゃんと効果があったらしい。

 【マーキング:聖水効果でモンスターが一定時間近付きません。】こうなのだ。

EPを50消費しつつ黄色い液体を辺りに撒いたら、野犬レッドは俺から10m位離れつつ恐ろしい目で睨みつけてきた。

 マーキングは撒いた所にしか効果がなく、ここから離れると俺は襲われるので一歩も動けなくなってしまった。(どうしよう……)

 撒き散らしながら進むなんて無理だし、モンスターと睨み合いながら考えてある事を閃いた俺は、もう一度マーキングして湿らせた所へ寝転がるとゴロゴロしながら体へ聖水を擦りつけていく。


 すると視界の隅へ突然『システムアナウンス:スキル、マーキングバリアーが解除されました。』と、表示されて俺は使えるスキルが一つ増えた。

「ワンワンワンワン」(これなら喰えないだろ、諦めたらどうなんだ)

「ウーーーーーーーー」

 低い声で唸ってきた野犬は簡単には諦めてくれそうにない。このスキルだけでは不安だがこのまま立ち止まっててもしょうがないので、聖水の効果を信じて要塞都市にまで進む事にする。(都市に入ればモンスターは追って来れない筈だ)


 ——————。

 長い長ーーーーーーーーーい逃避行。

 野犬レッドは本当にしつこかった。時々マーキングバリヤーを掛け直しながら草原を歩いている俺の後ろを、付かず離れずと一定の距離を保ちながら付いて来る。

 長々と歩いていると1匹が2匹に、3匹が4匹にと増えて行き、群れとなって追い掛けて来るのだがどうしたものか。(俺はそんなに美味そうに見えるのか?)

 チラチラと後ろを警戒しながらテクテクと、何故だか棍棒を持ったスケルトンさんも引き連れて、長時間(大体6〜8㎞ぐらい?)を歩くと要塞都市が見えてくる。(あーーあれがスラム街なのか)と俺は直ぐに理解した。

 水堀に囲われた要塞都市の前には鉄柵に囲われた広い土地がある。

 布テントが敷き詰められていて安っぽい服を着た人達が、ウロ~ウロ~と徘徊しているちょっと近づきたくないこの一帯。ここを守るように兵隊さんも居るので治安は意外といいのかも知れなかった。

 スラム街の入り口には鉄門があり、鎧を着てライフルを持った兵隊さんと側にある監視所がここを守っている。その人達の所へトコトコ近づいて行くと、

「モンスターの襲撃だーーーーーーーーーーー」と兵士の一人が大声を上げる。

 ハーフメイルの背中に、ベルトで掛けてある長くて痛そうな鉄の筒。叫んだ兵士さんはそれを素早く前に回すと右手で銃身を支えつつ、左手でトリガーを引いてダダダダダと警告せずに撃ちまくっていく。

 (なんか悪い事をしたような気分になるが、兵士はこれが仕事だよな?)火薬の炸裂音で耳が少し痛くて、よく訓練された兵士が掃射する姿を(銃を撃つのって初めて見るなぁ~~)と俺は下から見上げている。

「数が多いぞ応援を呼んで来い!」

 そうなのだ何故こうなったのかこっちが聞きたい位だが、俺に付いて来たモンスターは何と12匹も居るのである。しかもだ

 (兵士は格好いいなぁ、モンスターなんてイチコロだ……)等と思いつつ振り返って見ると、先頭にいる野犬レッドはライフル弾の攻撃に耐えているではないか。

 (えーーーーーーーーーーーーーー)と俺は驚きを隠せない。

 口を開いて目も開きつつよくよく観察して見ると、茶色い肌をした筋肉質な犬の前方になんか透明な幕の様なものが発生している。(あれがEシールドか凄いな、さすが異世界転生だ燃える展開ーーーーー)等と冗談をやってる場合ではない。

 ダダダダと撃たれる銃弾(5.45㎜弾かな?)を透明な盾で防ぎつつ、口を開いた野犬レッドは小さな炎の塊を俺達の方へと撃ち返して来たのだ。

 (たったLV5のザコモンスターが装甲車並みに凶悪だ……)

 野犬レッドのEPが少し減りヒュルヒュルーと、俺達を目指して飛んで来る野球ボール位の火の玉。(わーーーい初めて魔法を見たーーーー)等と尻尾を振って喜んではいけないぞ。

「フレイムボールSなんか俺に効くかよ!」

 俺の側で銃を撃っている勇ましい兵士さんは、野犬レッドと同じように右手を前に伸ばしつつ「Eシールド!」と盾を展開する。

 なんか攻撃魔法がそのシールドに触れると、ドカーンと爆発が起きて(手榴弾1発分ぐらい)その音にビックリした俺は、兵士さんの後ろに回ると尻尾を丸めてガタガタガタと震えだす。

 (過激すぎだろ神様! モンスターハンターだ? 怪獣の相手とか絶対に無理だっての! 異世界転生なんかしたくなかったーーーー)

 監視所から飛び出した兵士は応援を呼びに行き、門を守っていたもう1人が最初の1人と協力し合いつつダダダダダとアサルトライフルを撃つ。

 モンスター軍団も負けてないぞ! なんせ数が多いのだ。

 野犬レッド×6、俺達の前で横一列に並んだこいつ等は銃弾を防ぎつつ口からフレイムボールSを次々に吐いて来る。

 ドガンドガンってここは戦場か! 

 (ヒエーーーーーーーーー)と俺は兵士の足元で震えている訳だが、その後ろに陣取る棍棒を持ったスケルトン4匹は、左手を前に付き出すと「〇×◇」とか髑髏を動かして何かしゃべりつつ、氷の塊のような物を俺達の方に向けて撃ちだし始めた。

「氷耐性は持ってねぇーーーーーーー」

「耐えるんだジム! 俺達が逃げたら門を抜かれるんだぞ」

 氷魔法はアイスボールSとか言うらしく、スケルトンのLVはたったの8で戦っている一般兵士にLVとかステータスバーは無い。

 《LVで強化できるのは、王族・エインヘリアル・エリート軍人の特権》であり、一般人は神族であっても魔力は高くないとHELPに書いてあった。魔力が弱くてもそこそこの魔法が使えるのは地球人には羨ましい所。

「直ぐに応援が来るからそれまで耐えるんだ! うぉぉぉぉ」

 (モンスターと戦わなくてよかったぁ)+(大量に引き連れて来てごめんなさい)と言う2つの思いが俺の中でクロスする。序でに(俺は勇者候補なのに……)とか神様を恨んだりしたりもして、混乱した頭は(兵士に任せて逃げよう)と結論付けた。

 【可愛いワンちゃんなんか戦場に居ても邪魔になるだけ】。(うんうん)

12ー10=残りは2体、こいつ等はもっと強そうだ。(LV15だし)

 厳つくて立派な鳥、美味しそうだなぁとか思えたりもする軍鶏タイプだが、熊並みに大きくて迫力がある相手。そいつらはスケルトンの後ろに並んでいる訳だけど、嘴を開くと目を光らせつつピカッと何かを撃ってきた。

「鳥レーザーだ!」

「シールド弱では耐えられない、貫通がーーーーーーーーー」

 (なんですと! わーーーーーーーー)

 気付いた時にはもう走りだしていた俺、(御免なさい、御免なさい)と兵士さんに心の中で謝りつつ前にあるスラム街に向けて猛ダッシュ。

 逃げて行くその道すがらで俺は、「今夜は焼き鳥パーティだーー」等と叫びつつ全力で走る複数の兵士とすれ違う。(此れなら門にいる2人も安心だ)と、安堵した俺は迷わずスラム街へ逃げ込んで行くのだった。


 さて……

 非日常的なバックミュージックを聞きつつ(ここまで来ればもう安心だよな?)と足を止めた俺は、戦いの音を聞いてザワザワしている通りから少し外れた所に移動して辺りをグルリと見回してみる。

 正門から直進して来たここはどうやら商店街になるらしく、スラム街の中心になるこの奥には要塞へ通じる橋があった。商店街と言っても建物は無くて代わりに使い古された布テントが並び、その下には日用品とか中古の銃火器等を売る人達がいる。

「加勢に行った方がいいんじゃないか?」

「警報が出て無いし大した事ないだろ。それより……」

  《ステータスバーがあって人じゃないから、この2人はエインヘリアルだ。》

 門の様子を気にして席から立ったおじさんは、座り直すとテーブルの上に置かれたチェス盤のナイトを持って移動させる。

 俺は今どこに居るか?

 人の流れの邪魔にならないように寄った道の端にある、木のテーブルの側でお座りをしながら2人の話を聞いているのだ。

 《向かい合ってチェスをしているのは、青くて手足が8本あるタコ星人と顔がバッタの様な昆虫人間らしき人。EPとレベルが表示されている頭上のステータスバーにはエインヘリアルの証である首輪が表示されている。》

「なぁ本当にほっといていいのかあれ?」

「気にすんなって、相手は怪獣じゃないし兵士だけで十分だろ」

「そうだな、じゃあこれで……」

 吸盤の手と三本爪がチェスをするのを斜め上に伺いつつ、通りを眺めていると沢山の種族が行き交っていく。ワニや蝙蝠に昆虫とか子ライオン、パートナー頭上に乗った鳩とかゴブリン(モンスター枠)に幽霊とか色々だ。

 (適当過ぎるだろ神様……)↑彼らは皆エインヘリアルである。

 いい加減な転生システムと違って統一されている物もあり、それは彼らが着ている安い麻布で作ったぼろっちい服。LVが高かったり低かったり、なんでスラム街に居るんだと首を傾げる様な人もチラホラと居たりした。

「若しかしてお前は新人か?」

 (通りを眺めているだけで楽しいなぁ……)

「お前だよお前、机の下にいるただの子犬」

「ワンワンワンワン?」(何か用ですかって? 通じる訳無いか)

 黒い鼻先を持ち上げながら相手に聞くと、黄色い複眼をした昆虫人間は下を見ながら同じ質問を繰り返してきた。

「ワンワンワンワン」

 話は通じないだろうなと思いつつ、昨日空から落ちて来たばかりですって言うと昆虫人間は頷きながら「そうか俺はカマキリンって言うんだ、宜しくなただの子犬」って何と話が通じてしまう。

「ワンワンワン?」(どうして言葉が分かるんですか?)

「動物言語の翻訳スキルを持っているからだ。友達になろうぜ」

 いきなり信用するのもどうかと思うが、俺は一応快諾しておく。

「これからお前はどうするつもりだ?」

「ワンワン」(それはえーーーーーと)

 ……アネラスの居場所を2人に聞いても知らず、頑張ってレベルを上げて……とか目標らしきものを言ってみると彼らは揃って

「止めとけ止めとけそんなの苦しいだけだ」「神の言いなりにならずにスラムでのんびり暮らした方が楽しいぞ」と手を左右に振りながら主張してくる。

 (スラム街にいる人だしなぁ、それでもいいかも知れない)


 この2人のLVはそれぞれ70を超えているが〘強そうなのにやる気0〙、弛んでブヨブヨしているタコ人間とか歩くのも辛そうだ。(太り気味)

「怪獣ハンターは超ブラックの仕事なんだ」

「ここに転生するとか運が無いなお前……」

 怪獣さんは神様が話していた通りに魔王より強くて、倒すために必要な装備とか宇宙戦艦の維持費にめちゃくちゃ金が掛かる、ハイ々リスクでローリターンな仕事らしいとかこの2人は俺に教えてくれた。

「それでもさぁ……」

 誰かに褒めて貰えればまだ頑張れるが、魔王と戦う勇者と違ってこっちは底辺。無くても困らない仕事、怪獣さんのお肉は嗜好品だからそういう風に扱われ、能無しはいらないとか【体育会系がーーー幅を利かせているーーーーー真っ黒な職場】。

「俺達はエインヘリアルなんだよなぁ」

 【何があっても死ねません、病気になったら首を吊って即復活、過酷な怪獣さんとの戦いに容赦なく放り込まれてひたすら戦うバラ色の人生】。

 (聞きたくない聞きたくない々……)

「はぁーーーーーーー、それでも昔はさぁ」

 長い溜息を一つ吐き澱んだ眼をするタコ人間は過去を振りながら、机に載っているケースから葉巻を一本取りだして口に咥える。クラケンとか言う名前の人は、葉巻に火を付けると大きく吸って身体に悪そうな緑色の煙を吐き出しつつ、

「昔はみんなやる気に溢れて頑張っていたんだよ」と遠くを見ながら呟いた。

「もう160年も前の話だろそれ」

「そうなんだけどさぁ」(長生きなんだなみんな)

「ワンワンワンワン」(160年前に何かあったんですか?)

「詳しくは自分で調べなこのミーティアにはな……」

 《昔は惑星全体に5つの要塞都市と1つの宇宙要塞があって、何千万人という人とかエインヘリアルが頑張って働いてました。

 【魔神機械竜ヘルカイザードラゴン(略してヘル・ドラゴン)が現れるまでは】》

「あれは魔神族がやったに決まってる」

「証拠はねぇけどな……」

 《怪獣さんのお肉はめっちゃ美味い!(と2人は断言する)で、その肉を寄越せーーーと魔神族達は頻繁にここへ盗みに来て、昔は神族とよく喧嘩やギャンブルをしていたんだそうだ。

 で何かあったのか知らないがある日突然、惑星ミーティアの環境をコントロールするシステム(聖機竜マザードラゴン)が大暴走し、怪獣達やロボットと組んでクーデターを起こす。怪獣達は狂暴だが脳に埋め込まれたチップの所為で、マザードラゴンの命令には逆らえず怪獣ハンターは今ほど大変では無かったらしい。

 【クーデターを起こした怪獣軍団は恐ろしく強かった。】(数千頭もいる!)

 怪獣は個々が魔王クラスで、そこに暴走したマザーが操る防衛兵器群が加わると聖神族と大戦争になって此れに、今がチャンスだーーミーティアを乗っ取るぞーーーと魔神族が参戦して惑星全土・周辺宇宙を巻きこむ宇宙戦争になった。》

「あの戦争こそ本物の地獄だった」

「毎日万単位が死んでいったな……」

 戦争は2年半以上も続いて複数あった要塞都市はここホワイトスティグマだけになってしまい、この惑星はヘル・ドラゴンに支配される。そして怪獣ハンターは条約で決められた少数の怪獣を狩って細々と商売をするだけの、〘すごく情けのない集団になってしまった〙そうだ。

「昔は神様の計画通りに宇宙中へ毎年、千数百万tの怪獣肉を供給してたんだぜ」

「それがどうだ今や40万tと激減してしかも……」

「怪獣達は昔より遥かに強くなりやがった」

「ヘル・ドラゴンが改造してるからなんだが、やってられねぇぜったく」

「怪獣1匹は約2〜3万tだから毎年10~20頭程しか倒してない計算だ、だが怪獣肉は供給不足になる事はなくてだな……」

「ヘルドラゴンの率いるメカ軍団が怪獣の生産から討伐・販売に至るまで、全過程を粗独占してやがるんだ。俺達のような【怪獣ハンターは効率が悪い! 人権屋・勢力争いが面倒だしいらない職業だね!】って宇宙中から言われてる」

 (ひでぇーーーーーーーーーーーーー)と俺は思った。

「しかもこの星の反対側には魔神族の要塞があるんだ」

「伝説の勇者様にヘル・ドラゴンを倒して欲しいなぁーー、さぼり過ぎだろ彼奴ら」

「ヘルドラゴンを倒しても状況が良くなるとは思えんがな」

「くそ~~~面白くない」

 チェス盤が載せられたテーブルには酒瓶とコップも載っている。コップに酒を注ぐのが面倒になったのかカマキリンさんは瓶を持って、尖った口に当てるとグビーーーーっと一気飲みをしていった。

「仕事が無いから人が集まらないっ!」と酒を飲みほしたカマキリンさんは、ドンッと瓶をテーブルに突きつつ文句を言う。

「集まらないから廃れていく」

 緑色の煙を吐き出して空を見上げるクラケンさんは何だか虚しそうだ。


「昔は30以上あったハンターギルドはなぁ」

「今やたったの3つで風前の灯火なんだぞ。余りにも儲からねぇから魔神族も手を出してこない忘れられた惑星つまりだな」

「「ここで真面目に働くのはただのアホだ!」」

 (そんなに迫られても困るんですが……)

「ワンワンワン」(皆さんはどうやって生活をしているですか?)

「俺達は草原のモンスターを狩って加工したり、密かな商品を売って細々と生活をしているんだが、悪い事は言わねぇここで一緒に遊んで暮らさないかただの子犬?」

「戦わず働かずに一生遊んでここで暮らすんだ。悪くない話だと思うんだが……」

 (そんな事を言われてもなぁ)話を聞いているとクラケンさんの青い触手が横から近づいて来たので、俺は慌てて後ろにジャンプしながら回避する。

「ワンワンワン!」(何をするんだ!)

「逃げなくてもいいじゃないか」

「お前には勿体ないってそれ。俺達の仲間になろうぜいいだろ?」

 (勿体ない? もしかして七星ペンダントの事かな、ええいこの……)

 前の2人がじっと見つめてくる物に気が付いた俺は、「わんわんわーーーん」(お断りしますーーーーーー)と逃走を開始した。

「どこに行く」

「まちやがれーーーーーーーーーーーーー」


 逃げて逃げて逃げまくりーーーー楽しい異世界転生だなぁ。

 逃げ切れたのは奇跡か、それともあの2人の体が鈍っていたおかげなのか、よく分からないが兎に角あいつ等から逃げ切った俺は、スラム街の西端の方までやって来た。特に考えてないが自然と足がこっちの方へ向くのである、その理由とは……

 〘グゥーーーーーーーーーーーーーーー(腹減った)〙

 お金は持ってないし、中央通りに行くとあの2人に見つかります。朝に果物を幾つか食べてからずっと走ったり歩き通しで、体力の余りない子犬の体は悲鳴を上げており何かお腹に入れないと倒れてしまいそうだ。

 で、こっちから何だかいい匂いがするなぁと俺は西に進んでいる。

 (おおこれは!)ここはエインヘリアルではなく、本物の鳥、ブロイラーがケージに居れられて沢山飼われている所だった。その隣にはアヒル小屋もあって美味しそうに丸々と太った鳥達が……って俺には無理。

 生を食うなんて冗談じゃない(犬としては正しいのか?)し、小屋の前には怖そうな番犬が陣取っていて近づけなかった。肉は無理だが諦めるのもまだ早く、小屋の隣には畑が広がっていて色んな野菜が植えてある。

 俺は右を見てから左を見た(誰も居ないよな)、耳をピンと立てて周囲の音をよく聞きながら、匂いを嗅いで辺りを警戒し慎重に畑へ入って行く。

 まず近くにあったキャベツを一囓り。(美味しくない)

 (果物が食いたいこんなんじゃなぁ……)と辺りを見回しつつ畑の畝をトコトコ進んだ俺は、やがて地面に棒を立てて野菜を育てている所にやって来た。

 棒に巻き付いた蔓から生えているのはキュウリとかトマト。「今日の昼御飯はこれにしよーーーーーー」っと、ぶら下がっているそれらに噛みついた俺は、枝から引き千切って地面へ落すとガツガツ食べて行く。

 ……野菜ばかりで不満だが夢中になって食べている俺は、自分が何をしているのかを忘れていた。思い出したのは「ワウォン!」と何かに吠えられてからで、周囲の警戒を疎かにしていた俺はいつの間にか、黒と茶色2色の毛がある大型犬に睨めつけられてピンチになっている。

 (どうすればいいんだこれ……)

 牙を剥いて体を低くし戦闘態勢へ、恐ろしい番犬に今にも襲われそうな俺は尻尾をを巻いて怯えながら、「キューンキューン」(許して下さいーー)と鳴いてみる。

「ガルルルル」(俺の畑を荒らすとはいい度胸だな)

「キューン、キューン」(お腹が空いていたんです、御免なさい許して下さい)

「ガウガウガウッ!」(俺も丁度腹が減っていた所なんだ)

「ワンワンワーーーーン」(ちくしょうマーキングバリアーーーー)

 俺が取れる対抗策はこれしか無く、スキルを発動させて空から黄色い液体を浴びるもモンスター以外には通じないのか、相手は無視して一歩ずつ近付いて来る。

 (このままではたかが犬に人間様が……、俺はエインヘリアルなんですけど!)足は震えているが立ち止まっていても喰われるだけ。

「ワンワンワンワンワン!」

 心を鼓舞して尻尾と毛を逆立て子犬なりに相手を睨んで、牙を剥いた俺は吠えるのだがその健気な反骨精神は、「ワウォン!」と大声で吠えたシェパードのような犬に容易く吹き飛ばされてしまう。

 (これは駄目だーーーーーーーーーーー)

 背を向けた俺は全力で猛ダッシュ。

「ワンワンキャンキャン」(誰か助けてくれーーー、喰われるーーーーー)

「ガウガウワウォン!」(逃げるな黙って喰われろ!)

「ワンワンワンワン」(喰われて堪るかぁ)

 直線で走ると直ぐに追い付かれるので俺は、キュウリやトマトが生っている棒の隙間をを潜り抜けながら、ジグザグに走って走って走り続ける。

 シェパードは体が大きいので茂っているツタの間を通り抜けられない。これなら逃げられると俺は思ったが、一匹では難しいと踏んだシェパードは「ワウォーーーーーン!」と遠吠を発して味方を呼びつける。

 すると騒ぎを聞きつけた2匹目の犬がやって来たり、麻布の服を着ている農夫までが参加して俺を追い始めた。

「ワンワンワーーーーーーーーン」(神様お助けーーーーーー)

 困った時の神頼み、俺にはもうこれしか残ってない。だがあの神達が俺を助けてくれる事はなく、走り回って疲れる頃には囲まれてどうにもならなくなっている。

「どこの犬だこいつ?」

「飼い主や親犬が見当たらないし野良じゃないのかこいつ?」

「違うだろこいつは……」

「キューン、キューン」(許して下さい、見逃して下さいーー)

 前門のシェパードに後門のブルドッグ、人間に囲まれておろおろする俺。少しして首筋を捕まれてひょいっと持ち上げられた俺は、人間の顔と向き合う事になった。

「見た事のない犬種だな」(ここに柴犬はいないのかな?)

 俺を捕まえたのは鍬を持ったガタイのいいおっさんで、(人間ってこんなに大きいんだなぁ)と思いながら吊された状態から尻尾を振って媚びてみる。

「どうするのそれ?」

「此奴らの餌にする」(ふざけるな!)

「キューン、クーーン」(許してくれーー、助けてくれーー)

「そんなの可哀想だよ、まだ子犬だし許してあげてよパパ」

 (そうだその通りだぞ!)

 抗議してくれるのは農夫を手伝っていたらしい女の子。頼みの綱はこの子しかいないと悲壮感を込めつつ、子犬らしい可愛い瞳で俺は彼女をじっと見つめていく。

「子犬って此奴はエインヘリアルなんだぞ」

「ほんとだステータスバーがある」

 (なんだ? なんか急に女の子の態度が変わったぞ……)

「エインヘリアルならしようがない」

「そうだねハパパ。もう悪い事をしちゃだめだよただの子犬、神様の所に行ったらそこでしっかり反省してきなさい」(そんな冷たい!)

「じゃあなただの子犬」ポイッ

 (うぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーー)


「こいつ使えねぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

「ただの子犬じゃしな」

「パートナーに逃げられてますし、ちょっと酷すぎますね」

 正面の石像から聞こえる不愉快な神様達の声。気が付くと俺は転生の儀式とは違うらしいだだっ広い石畳の上に青白い魂として浮いていた。

「◎♪○×△□☆〒!!!!!」

「ただの子犬じゃ戦えない何とかしろだと?」

「それも運命です」

「その話はもう済んだ筈だ、話しをする前に復活せよRPGの醍醐味であるぞ」

「△□★☆〒?」

「前回と同じように水晶玉へ触れれば良いのだ」

 人魂なのに話が通じるこの不思議感。黄金の台に載せられた水晶玉があちこちに置いてあってその一つに体を重ねると、どんなカラクリなのか瞬時に元の子犬へ戻ることが出来るのだった。

「ワンワンワンワン! ワンワンワワンワンワワン! ワンワン……」

「煩いぞ犬ーーーー」

「分かった、分かったから」

「少し落ち着いて話しなさい」

 俺の前には前回と同じくドラゴン、三角帽子を被ったおじいさん、女神像と3体の石像が並んでいて頭に来ている俺は吠えて吠えて吠えまくってやった。

《「まず復活システムについて説明しておく」

「エインヘリアルの復活には制限がねぇから、何回でも好きなだけ死んでくれ。首つりに切腹や焼死体とか普通は出来ない貴重な体験をやりたい放題だぜ」

「悪ふざけは止めなさい! 死に戻りには4時間+αが掛かります。頭上でカウントしてるタイマーがそれですよ」

 黄金の台の側には全身鏡も置いてあって、それに子犬の体を映してみると確かにタイママーが時間をカウントしていた。

「死に戻り先として選べるのは、死んだ各惑星の教会・セーブポイント・∞の塔の外・訓練所だけです。復活時間を縮めたいのなら金や魔宝石などを捧げて神に祈りなさい分かりましたね?」》

「ワンワンワンワン」(神は見返りを求めない筈では?)

「エヘン! コホン! 何か言いましたかただの子犬?」

「そうやって都合の悪い話しを誤魔化すのは神としてよくねぇなぁーーーーーーーーーーーーーーーと俺は思ったりするんだが、キララちゃんはどう思うよ?」

「向こうで話しましょうかゴーチャン」

 ゴズウィル様の挑発をアテナイ様が受けるとドゴーーン、バリバリ、ドッカンドッカンとか派手な音が聞こえて部屋が震え始めた。

 【神様がこうやって喧嘩をするのは良くないと俺は思う】。

「あの2人は無視して我の話を聞くがいい」

「ワンワンワン」

 思う所はあるが3人目の神様に言われたので静かにお話を聞く事にする。

「この話は知っておるかの?」

 《エインヘリアルと同じく契約したパートナーも不死身になるが、パートナーの復活はエインヘリアルとは少し違った特殊な形になるそうだ。俺は何度死んでもいいがパートナーが死ぬと【英雄ランク】が下がって色々と困るらしい。

「パートナーを守れん、犠牲にするようなエインヘリアルは儂らには必要ない。分かるかただの子犬? 死者であるお主よりパートナーつまり神族の住人が優先されなければならないのだ」

「ワンワンワンワン」(分かりました)

 (何だか面倒だなぁ、パートナーに後方支援をして貰えばいいのかな?)とアネラスとの関係についてあれこれ悩み始めると

「心配しなくてもいいぜTPS(チェンジプレイヤーシステム)があるからな」とドラゴンの石像が言う。》

「秘技! 惑星落としーーーーー」

「惑星を投げるとかどんだけ怪力なんだよババァ! ブラックホールシールド」

 (ただの言葉遊びだろ? 本当にやってる訳無いよな……)

 ズゴーーン、バゴーーン気にしない気にしない、部屋がガタガタ揺れたけど気にしたら負け。天井とか壁には窓があって外が光ってるけど、どこで何をしているのか神様の姿は見えないので考えても疲れるだけなのだ。

「ワンワンワン」(TPSって何ですか?」

「詳しくはHELPを読めばよいのだが……」

《「エインヘリアルがTPSって唱えるとな、パートナーとエインヘリアルの立っている位置が入れ替わるんだぜ」

「パートナーが攻撃を受けそうになったら、エインヘリアルが盾になって代わりに攻撃を受けてあげなさい。これを【ヒーロー道】と言います」

「戦闘以外でもTPSは謎解きとか使い道が多いんだ、泥棒したアネラスと入れ替わればハッピーになれると思うぞ」》

「彼方という神はーーーーーーーーーーーーーー」

 ドンガラピッシャーーン、天井が突如光ったと思ったら雷の轟音が鳴り響いた。

「TPSはモンスター等と戦う前に訓練をして予め使い慣れておくがよい」


「ワンワワンワンワンワワンワ」

「いやだからその件についてはだな。まぁ少しぐらいなら……」

「特別なスキルとか伝説の武器を支給するなんて、チート行為は大禁止です!」

 オーディナル様が何か言い掛けると、何かはぁはぁ言ってる女神像が割って入る。

「ただの子犬じゃスライムにも負けちまうぞ」(なんか凄い音がしてたがどうやら平気だったらしい、さすが神様)

「何か1つ位は渡してもよいと思うのだが」

「能力を持たない普通の人間が、努力に努力を重ねて強くなる事に意味があります。ただの子犬には七星ペンダントを授けましたしいいですか……」

 【私は俺ツエーとか、ただの凡人が異世界に転生した瞬間に、超絶的な力を手に入れたとか言うチート能力が大嫌いです。あ言うのを見ているとムカムカしてフザケタ神や作家に説教してやりたくなるんですよ!】 だって。

 (気持ちは分からなくも無いが対象にされる側はなぁ)

「聞いていますかただの子犬! ああ言う小説やアニメばかりを見たり読み続けたりするから勘違いして人間が歪むんです」(その通りだな)

「剣を握った事さえないど素人をじゃな、身勝手な理由で召喚して凶暴なモンスターと戦わせようと言うんじゃぞ。あの者達には特別なものを貰う権利が……」

「あ・り・ま・せ・ん! エインヘリアルとして魔法が使えるだけでも特別ですし、そう言うのは格好良くないんです。神が特別な力を授けるのなら死者ではなく、今襲われている現地の誰かへその力をばら撒いてあげるべきでしょ」(正論だ)

「ぬぅーーーーーーーーーーー」

「それだと退屈凌ぎにならないじゃねぇか。エンターテイメントってのはな……」

「人が強くなるには時間が掛かるのが普通です。本当に強くなりたいのなら10年でも20年でも、【修業に修業を重ねて強くなるのが美学!】と言うもの。ちょっと偶然に力を手にして英雄になりましたーーーとか、世間を舐めてるとしか思えません」

「理想と現実は違うものじゃ。お主が望むような下から多大な努力で上ってきたイケメンクールで優しく、歌って踊れる都合のいい正義の勇者など、滅多に現れるものではないと言うかあり得ん。現れないのならそれらしい者を儂らの手で作り出さねばならぬそうでないと面白うない」

「そんな紛い物が何の役に立つって言うんですか!」

「現実に戻って来いよババァ」

「なんですってーーーーーーーーーーーーーーー」

 いつの間にか止まっていた戦闘が、また再開されそうな雰囲気になってくる。(要するに俺はだだの子犬として逃げ回るしかないのかな? 嫌だなぁ……)

「まぁ余り気にせず気楽にやるがよい、魔王と戦っておる他と違ってミーティアでは別に頑張らなくても良いのじゃ。最弱のスライムから始めてコツコツ10年、いや30年もあれば幾らお主でもそれなりに戦えるようになるであろう」

「ワオーーーーン」(えーーーーーそんなぁーーーーーーーーーーー)

「アネラスにどうにかして貰いなさい」

「あーーーーーー思い出した事があるぞ」

 《LVアップに必要な経験値を手に入れるには、戦闘に参加しなければならないが攻撃スキルのない俺は【戦闘に参加できない】のだ。》

「つまり経験値を得られるのはパートナーだけになるのじゃな」

「そんなのはただの子犬だけじゃないでしょ。他のエインヘリアル達は……」

「たしか以前、問題になったことがあったぜ……」

 ゴズウィル様曰く戦闘経験値を得られない運の悪いエインヘリアルが、世界に絶望して悪落ちから魔王になったレアケースが存在するらしい。

「そう言えばあったのう」

「その後どうなりましたっけ?」

「いっとき大議論になったが、他のエインヘリアル全部を調べるとか無理。彼奴は運が悪かったんだ俺らは困らないしほっとこうとか何とか……」

「確か対応出来ないエインヘリアルが悪いという結論になったのじゃ」

 (なんと言う無責任……)

「ただの子犬は七星ペンダントを持ってるよな」

「悪落ちされると困るのう」

「だからどうしたと言うのですか!」

「ちょっとこっちへ来るのじゃアテナイ……」

 1時間が経ち、2時間が過ぎ、俺が復活する前に話を纏めて欲しいなぁとか床に丸くなってうつらうつらしつつ、沈黙する神像達が再び話し始めるのを待っていると3時間目を過ぎた頃にようやく語り始める。

「起きておるかただの子犬? 儂らの話をよく聞くがよい」

「神に感謝しろよ、ほんと運のいい奴だなぁお前は」

「いいですかただの子犬、此れからはですね……」

 なんか神様の方針が変わったらしくて、今後は攻撃スキルが全くない場合には何か一つだけ攻撃スキルが貰えるようになるそうだ。

「ただの子犬に与える攻撃スキルは何がいいかしら? そうですねぇああこれにしましょうえーーーーい」

 女神像がこう言って光りだすと、何だか俺の体も光って新しいスキルが手に入る。

「あなたにミニブレスのスキルを授けました。このスキルはですね……」

 前方50㎝位の範囲に炎とか雷、冷たい息を吐いたり出来る弱いスキル。種族特性によって吐けるブレスは変化するそうで、俺は口から炎を吐ける様になってしまう。

 (こう言うスキルって……)

「吐いてる奴が一番危ないよな」

「彼方が言いますかそれ? 火傷とか凍傷は無視しなさい魔法ですからね」

「此れならスライムも怖くないのじゃ」

「番犬に喰われることも無くなりました、神に感謝するんですよただの子犬」

「儂からはこれを授けよう」

「ちょっと!」

「口止め料じゃよ、そら」

 魔導士の像が光るとカランと俺の前に空から何かが振って来る。パット見た時はなんか気持ち悪かったがよく見るとそれは、鋼色をした犬用の入れ歯だった。

「それは鋼の牙だ、前足で触れると装備できるから試すがよい」

 (大丈夫かなこれ?)と思いつつ前足で触ると、『勇者システムが鋼の牙を装備するかアイテムBOXに入れるか』と視界の隅にアナウンスを入れてくる。人間なら普通に出来る事だが動物族とかには難しい事なので親切な設定だ。

 装備するボタンを押すと鋼の牙が口に装着されて、全身鏡の前でアーーンって口を開くとギラリと光る金属の歯を見ることが出来る。Sペンダントを触って装備欄から解除を選ぶと、俺から外れた鋼の牙はカランと口から地面に落ちた。

「装備の仕方は分かったかの? もう文句は無いじゃろうな」

 鋼の牙を付け直しながら「ワンワンワンワン」と俺はお礼を言う。

「うむ、では復活時間が過ぎるまで暫くここで待つがよい」

 4時間まであと少し、特にする事もない俺は床でゴロゴロしながら時間が過ぎるのを待ってホワイトスティグマに復活した。

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