五話 神出鬼没
私はゼミで同じだった女の子達と暇を潰していた。と言っても学食を食べに行こうと盛り上がっていただけだった。
「どこ行く?」
「本当。どこにする?」
「あみちゃんオススメとかある?」
私に託されたようだ。
私は結構学食の食べ物が好きだ。その為、私はキャンパス内でグルメレポーターのような事をさせられた事がある。今流行りのリモートで何人かの生徒と繋がって中継するという遊びだった。
それから学食について私に聞く人が沢山居るのだ。
「うーん。みんなどんなのが食べたい気分?」
「ウチ、カツ丼!」
「私はカレーとか?」
「OK!わかった。じゃあ今定食やってる時間のところあるからそこ行こっか。そこなら牛丼、カツ丼、もちろんカレーとかも食べられるよ」
「おっ、流石じゃん!あみ」
「じゃあそこ行こっ!」
友達二人が賛同してくれた。
そして辿り着いた定食屋。そこはもうお昼前であるというのに沢山の生徒達で賑わっており、ほぼ席が埋められていた。
「あちゃー。多すぎて座るとこないやぁ」
「どうする?他あたる?」
「あみ、他になんかいい所ある?」
「カツ丼とかカレーとかじゃないけど、蕎麦、うどん屋とかもあるけど…」
「あっ、そこにしようよ」
「そこはいつも人多い?」
「ここよりか少ないと思うよ。なんせ開くのがお昼13時からだったから、13時って三限が始まる30分前でしょ?だからみんな、次の講義の為にみんな昼食済ませちゃう人が多いからさ」
「あー、なるほど!だから開く時間には人が少ないと」
「そう。だから今から行ってもちょうどいいと思う」
私達は三限がないのは同じだ。だからゆっくりと昼食を済ます事ができる。
私達はその蕎麦・うどん屋に向かうことにした。
なんだかんだ13時を過ぎていた。だから今から行っても丁度いいタイミングだった。
別に慌てる事などない。ゆっくりと会話でもしながら行けばいいのだ。
そして学食に向かう際たわいも無い会話で盛り上がっていた。
蕎麦屋・うどん屋の学食に無事着いた。
券売機で注文するのだが、まず自分から注文した。ざる蕎麦にした。なんとなくだ。
次に友達二人が、迷いながら食べたいメニューを券売機で購入。
どうやら二人ともここの蕎麦・うどん屋が初めてのようで、注文方法がわかっていなかった。
「じゃあ入ろ」
入り口は赤色の暖簾が私の顔にギリギリ当たる程の高さに設置してあった。扉などは無い。
私達三人が入ろうと入り口に向かう時だった。
暖簾に当たらないようにやや屈んで出てきた生徒がいた。
真っ黒のロングデニムに、革製と思わせる高級そうなブーツ、鮮やかなベージュ色のスリムなカラーコートに見た事のあるウルフヘアー。
『あっ、明日奈ちゃん』
心の中でそう思った。
なんだかやや離れてみると、一瞬私達よりも歳上の大人な女性に見えた。そして何より普段のスタイルの良さから来る格好良さと、何より私が今までに見た事のない完璧なまでに決まったコーデ。
やはり同じ大学生とは思えないのだ。
しかも珍しい所にいた。蕎麦・うどん屋なんて。
「どうした?あみ?」
「おーい、あみちゃん。入らないの?」
「え?あっ、ごめんごめん。入ろうか」
つい見惚れてしまった私はボーッと立ち尽くしてしまったようだ。
よく私が、明日奈ちゃんをボーッと見惚れてしまい、固まっている際声を掛けられるのがまた起きたようだ。
午後17:30。友達と解散をした後、私は自分の家に帰ることに。
1号館、2号館と施設がある中、私が出たのは3号館である。
外はいつも通り広い憩いの場となっており、真ん中に大きな木が立っている。その木を囲うかのように長い木製の椅子が設置されている。
何か音楽でも聞こうと、私はアルバイトで貯めた貯金で購入したワイヤレスイヤホンを取り出す。
購入してもう2ヶ月が経っている。白色である為か、やや汚れが目立つ。
と言っても別に高額のやつではない。レンタルDVD屋で購入した6千円もいかない値段のやつだ。
プレイリストを開き、ワイヤレスマイクの電源を入れると同時に、Bluetooth接続を確認した。
しばらくローディングが続き、やっと繋がったようだ。
何を聴こうか選んでいた。
と言っても、聴く曲なんて限られている。
アニソン、k-pop、ボカロpくらいだ。
趣味が偏っている事は分かりきっている。よく、友達に音楽の話をすると分からないや独特と返事をされる。
そしてプレイリストから今の気分からボカロp曲のカテゴリーを探る事にした。
「何にしよっか……」
スマホに夢中だった為、前に誰もいないかを確認した。
誰もいない。もう一度スマホを見る。
「よし!」
曲が決まった。
古い曲ではあるが、今の気分でこれが聴きたいと思った曲を選択した。
そして堂々と前を向いた。
爽やかに吹く風に揺られ静かに靡く緑の葉。
私はその景色を数秒見つめた。
そしていざ帰ろうとその場を離れようとした。その時だった。
『…あれ?……明日奈ちゃん?』
長い木製の椅子のうちの一つに、本日蕎麦・うどん屋で見たその姿の女性は、間違いなく明日奈ちゃんだった。
しかもまた読書をしている。
木の葉がゆっくりと羽毛の羽が舞い落ちる動きで明日奈ちゃんの頭へと降っていた。
日の当たらないその場所で、一人静かに読書に更けている姿がなんとも一枚の絵になっていそうである。
その細い一つ一つ風に揺られる銀髪からキラキラな雫が溢れ出てきそうだった。
さらに哀愁が漂う大人な雰囲気と、格好いい女性らしさがまたその風景に映える。
結論『綺麗』の一言に尽きる。
「明日なち…」
私が話しかけようとした時だった。
「明日奈さん!」
明日奈ちゃんの前に現れたのは、恐らく講義やゼミナールでお世話になっている教授だろう。
何やら大事な話をしている。
邪魔になると感じた私は、黙ってその場を去った。
自分は学生専用アパートに住ませてもらっている。しかも大学まで徒歩10分程度だ。いくら午前の講義が早くても、ゆっくり支度できる距離なのだ。
今から帰ってもやる事はない。だったら近くのスーパーまで行くとするか。
本日の夕食が何も決まってない。だから適当に材料を手に入れる為に、取り敢えずスーパーに向かった。
人生で一人暮らしは初めてだった。最初は新聞やら宗教、訳のわからない営業でしつこかった。
初めの頃の一人自立する自分は怖い事ばかりだった。
一人でずっと悩んで、分からないことばっかりで……
そういえば今日、一人で行動していた明日奈ちゃんを思い出した。
私は彼女がどこに住んでいるのか全く知らない。
勝手に頭の中で、一人暮らしを優雅に過ごしていそうだと考えている。果たしてどうなんだろうか。
そんな事を考えながらスーパーに辿り着いた。そして私は店内に入ろうとした時だった。
「あっ、明日奈ちゃん」
「あっ、あみじゃん!」
ちょうど自動ドアの前でバッタリと彼女に出会ったのだ。
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