四話 知ってる事、知らない事

 結局どこにでもあるコーヒーチェーン店に行く事になる。

 私が何も思いつかなかった為、そこに行く事になった。知っていると言っておきながらそこかい!と心のの内で自分にツッコミを入れる。


 「へぇ〜。あみってここに行くんだ。アタシ初めて」


 「そうなの?逆に明日奈ちゃんがよく行ってそうなイメージなんだけど」


 そう、私よりいかにも大人びた彼女なら行くであろうと思ったそのコーヒーチェーン店は、相変わらずビジネスマン達の憩いの場となっている。透明ガラスから見える風景は、本日も大勢のサラリーマンや自営業者に見える大人達で満席のようだ。


 「行こう!明日奈ちゃん」


 「OK!なんかあみのオススメとか教えてよ」


 「私のオススメかぁ…」


 店内に入り、心地よい店内サウンドが流れる中、店員さんが忙しそうにお客様の接客に取り掛かっていた。


 いらっしゃいませ!とレジから掛けられた声に明日奈ちゃんは振り向く。


 「注文ってレジでやるの?」


 「そうだよ。今日やけに多い気がするなぁ」


 「本当。ビジネスマンばっかりだね」


 「私達みたいな大学生もここによく訪れている事あるからね。でも今の時間帯だとサラリーマンばっかりになる事が多いよ」


 そう、スマホで時間を確認すると、今17時ぴったりだ。


 「まぁもうすぐでこの店しまっちゃうから、多分みんなそのうち帰るよ。席空いてるかな?」


 「満席みたいだよ。あみ。どうする?」


 「最悪持ち帰り出来るんだけど。どうする?」


 レジの横に立て看板で、メニューと営業時間がチョークで書かれている。

 取り敢えず看板を観に行く事にした。

 値段は相変わらず少々リーズナブルだが、ビジネスマンや大学生達がこの店にコーヒーを飲みに行くのは、やはり落ち着いた雰囲気に、休憩にはもってこいと言わんばかりの広さ。そしてコーヒーの種類に惹かれて来る。

 私も初めは物凄く入る際に『私なんかが入って大丈夫かな?』と緊張したが、他の友達と一緒に足を運んだ際、その経験により何の抵抗もなく今は入れている。

 そんな中、明日奈ちゃんは初めての店内に当たりをじっくり見回していた。


 「凄く大人な世界って感じるなぁ」


 明日奈ちゃんにそんな事言われると、何だか店の趣が変わって見えた。


 「でしょ?ちょっと一人じゃ入りにくいよね」


 「うん。あみは凄いな。ここによく一人で来たりするの?」


 「ううん。誰かと一緒じゃないと、私もこんなところには入れないよ」


 軽く微笑みながら明日奈ちゃんに返答する。

 明日奈ちゃんが普通こういうところが似合いそうなのに知らなかったと思うと、何だか不思議に自分が背伸びしている感覚だった。


 「私、もう注文決まったよ」 


 「アタシも決まったよ」


 お互いに頼みたいコーヒーが決まった所で、レジに並んだ。

 後一人注文が終わったら次の番私達となっている。


 「あみって本当に詳しいね」


 「そう?私はよく大学の外を色んな所寄ったりするから」


 「じゃあここも一度や二度ではないって事ね」


 「うん。ここは誰かと一緒にいないと今でも入れないよ。なんか私みたいなのが入ったら場違いに見えちゃうから」


  「誰かとねぇ……」


 そして私達の番になった。

 店内は難しいから、持ち帰りという形になった。


 「ご注文お伺いします」


 私はキャラメル風味の甘さが特徴のコーヒーを注文する。ここに来たらいつも頼むものだ。もし顔パスとか出来たら、真っ先に知ってる店員さんだと、この人はきっとこれだ!っとわかる筈。

 と言っても何年も通っていたらの話だが。


 「お客様はどうなさいますか?」


 そして明日奈ちゃんの番になった。

 一体何を注文するんだろう。


 「アタシ、ブラックコーヒーのミルクとシロップなしで」


 ブラック!?しかもまさかのストレートなブラックで!?

 色んな種類が存在する中それを選ぶとは。


 「はいかしこまりました。お会計はご一緒になさいますか?」


 「え?あっ、別で」


 そして私からお会計を済ませる事に。

 私が財布からお金を取り出して、自動計算レジ機に入れる。

 ピッタリの値段だった。

 私の番が終わって、次に明日奈ちゃんの番になると、持参のスマホを取り出した。


 「電子決済ってここ可能ですか?」


 『うわぁ!出た!電子マネーってやつ!なんか明日奈ちゃんがそれ使うとかっこいい!』


 私は電子決済なんてやった事がない。それどころかクレジットカードなんてものも作っていない。昔からの現金のみで、電子マネーのやり方など知らないのだ。

 私は会計方法に興味が湧いた。

 私もそのうちやってみよ。


 「あっ、チャージしとかないと。すいませんちょっと待ってくださいね」


 え?チャージ?お金をアプリ内に振り込むってやつなのか?それとも別の意味なのか?

 ますます興味が湧いた。


 「よしっと」


 ガラス張りの赤外線センサーにスマホを近づけた瞬間、ベルのような音が明日奈ちゃんスマホから流れる。


 「すげぇ」


 思わず驚きの声が漏れた。


 「ありがとうございます。しばらくお待ち下さい」


 明日奈ちゃんはレシートを手に取り、レジ右横の『お並びください』と書かれたレーンにいる私のところに向かった。


 「ごめん。チャージしてなかったから」


 「電子決済…」


 「あみ?どうした?」


 私のボソッと放った『電子決済』が聞こえたに違いない。


 「あっ、いや!凄いなぁって」


 「電子マネーのこと?」


 「うん!それ!」


 「意外と便利だよ」


 最新の情報を難なくキャッチ出来る所が、より大人に見えた。

 何だかずるいというか、羨ましいというか。

 やっぱり明日奈ちゃんは、改めて凄い遠くにいる人間のように見えてしまった。


 「お待たせしました」


 その声に反応した私達はそれぞれのコーヒーを取りに向かう。

 私の注文したコーヒーの方がやや大きい。

 それに対して明日奈ちゃんの頼んだブラックコーヒーは、明日奈ちゃんの見た目のスタイルのように、スマートな形になっている。


 「意外と早く持ってきてくれたね」


 「そうだね。この店って何でか知らないけど、注文したらすぐ出来上がるんだよね。だから忙しいビジネスマンとかにも人気なんじゃない?」


 「そうかもね。やっぱりあみは何でも知ってるね」


 そういうと、明日奈ちゃんはコーヒーのカップ蓋の飲み口部分を開ける。

 私は、明日奈ちゃんの頼んだコーヒーを口に含む姿が視界に入ると、その姿が似合っていると感じた。


 「そんな事ないよ。明日奈ちゃんも、私の知らない事沢山知ってるし」


 そして私達は店を出た。

 


 


 

 

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