第2話「幽霊トンネル」


 暗い。

 闇はさらに濃くなっている。

 微かな風に、蝋燭の火が揺らめいた。

「次は俺でいいか?」

「うん」と二人の声。

「それなら話すぞ。知り合いに聞いた話なんだが――」


『幽霊トンネル』

 B太は少しやんちゃな大学生で、よく悪友たちと馬鹿をやっていた。その夜も友人に声を掛け、肝試しに有名な幽霊トンネルへとやって来た。

 深夜で、周囲に車の影はない。

 トンネルの手前で、B太は車を停めた。

「本当に出るのかな? 意外と明るいけど」

 後部座席から、C美がそう声を掛ける。

「ばっかお前、あの先輩もこの先輩も『見た』って言ってんだ。絶対やべえぞぉ」

 B太はそう言いながら、ふざけて手足をバタバタさせる。

「D郎は寝ちゃったわね」

 助手席で、D郎がぐっすりと眠っていた。

「なんか飲み会で二徹したって言ってたな。寝かせておこう」

 とりあえず何も起きそうにないので、B太は車をトンネル内へと進める。

 中ほどでハザードを焚いて停まった。そのまましばらく様子を見る。

「何も起きねえな」

「そうね」

「退屈だ。いい眠気覚ましになったし、帰るか?」

 B太が車のサイドブレーキを下げたとき、C美が「あっ」と声を上げた。

「何だ、どうした?」

 C美は目を見開いて前方を見ている。

 B太もフロントガラスへと目を向けるが、何もいない。

「おい、どうしたんだよ?」

 振り返ると、そこではC美が異様なほど口角を吊り上げて、にたにたと笑っていた。

「ツイていくかラ」

 B太は悲鳴を上げて車を急発進させた。後部座席からはゲラゲラとC美の笑い声が聞こえてくる。

 D郎が跳び起きた。

「びっくりした。B太、急にどうしたんだよ」

「C美が……C美がおかしくなっちまった」

 B太の言葉に、D郎が怪訝な顔をする。

「おいお前、大丈夫か? C美って誰だよ」

 B太は震える声で「はあ?」と切り返す。

「C美だよ。一緒に来ただろう? 後ろにいる――」

「今日は野郎二人だけの肝試しって話じゃねえか」

 B太は青ざめて後部座席を振り返った。そこには誰もいなかった。

 後日、B太は大学に姿を見せなくなった。聞くところでは、家にずっと引きこもっているという。

 連絡をとった仲間に、彼は「毎晩C美がこっちを見てくるんだ」と語ったらしい。


「怖いね」

 最初に話をした一人が言う。

「これって、いるはずのないC美が現れたってことなのかな。それとも、いたはずのC美が消えちゃったのかな」

「俺は前者だと思っていたけどな。後者だと、どうしてC美がB太を狙うんだよ」

「それもそうか」

 蝋燭の火が微かに揺らめく。

 少し空気も冷えてきた。

 まだ話していない一人が、「じゃあ、最後は僕かな」と言った。

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