第195話 秋人と隼斗(9)

 秋人あきと隼斗はやとが石段を上っていく。幅は思いのほか広く、二人が並んで上がるには十分な幅であった。だが、石段の段差は急であり、間違って踏み外せば二人して身体を打ちつけながら、下まで落ちるという洗礼せんれいを受けることになる。目の前のれんはヒョイヒョイと何事もないように飛び跳ねながら上っていった。


(確かに、こいつは人じゃねぇよ)


 隼斗が鳥居とりいを見上げると、秋人の方に声を掛けた。


「あと少しだ。もう少し頑張ってくれ。絶対に後ろに倒れるなよ」

「分かってますよ」


 なんとか二人で鳥居までたどり着くと、出迎えるように漣が待っていた。驚いたことに、山伏やまぶしの姿になっている。


 改めて言うまでもないが、これが本来の漣の姿である。秋人たちが見ていたのは、紗雪さゆきが授けた神衣かむいを纏った姿だ。しかもこの神衣、漣も知らなかったが二形態にけいたいになる。通常は先ほどのミニスカートと黒いベストにネクタイ姿。これは、漣が街中でも普通の女の子で過ごせるような衣装である。だが、短刀を抜くと、第二形態の超ミニスカートとガーターベルト、ショートブーツの小悪魔姿となり、神衣の力を真に発揮したのが街での戦いだった。


(なんだこいつ。仮装かそうしてるのか。ハロウィンてわけでもないだろう)


 山伏姿の漣を、眉をよせながら隼斗は見ていた。秋人が隣で息を整えている。


「ここが鉄鎖てっさの神のやしろですか」


 秋人が息を詰まらせながら漣に聞いた。


「そうだ。地上の番と言われる神の社だ」

「なんだそれ?」


 息があがっている秋人より先に、隼斗が話に入ってきた。


 漣が隼斗から鳥居に視線を向けた。


「門からはナナガシラに入れなかったろう。二人も経験したんじゃないか。そうなっているのは、村全体を鎖で封印しているからだ。その封印する力をもつ神がいるのがこの神社さ」

「なぜそんなことを?」

「それを調べるために秋人は、ここを目指してたんだろ。まあ、私には別の目的があるけどね」


 漣が息を整えた秋人の背中を撫でている。おかげで秋人は、まともに口を開くことができるようになった。


「そうです。あの岩に巻かれた鎖から村全体を囲んでいた。それをやったのは鉄鎖の神の巫女。神様じゃない。人がやったんだ。しかも実菜穂みなほが村に入ったあとに封印した。僕にはその理由が分からない」

「それって人がいることを知っていて、わざとに閉じ込めたってことか」

「そういうことです」


 秋人の答えを聞いたとたん、隼斗が目を吊り上げながら鳥居の中に駆け込んでいった。


「でゅあっ……」

 

 ズザァー


 駆け出した隼斗が二歩目を踏み出す前に見事に転んだ。鎖で繋がれた秋人も足を取られて倒れた。


「なあ、お前たちバカだろ」


 漣が呆れた顔で隼斗を覗き込んでいる。


騒々そうぞうしいのう。鳥居から先は鉄鎖の神の神聖な場所。荒らすことは許されぬ」


 隼斗が顔を上げると、そこには果てしなく白に近い銀色のはかまを身に着けた女が立っていた。

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