第175話  巫女と鬼(1)

 れんを送りだしたみなもが、ジッと行き先を見つめていた。


「どうやら、東門仙とうもんせんの所に着いたようじゃ」


 腰を下ろしていたみなもが、ゆっくりと立ち上がる。立ち上がる姿でさえ、神であることをうかがわせる美しさがあった。あたりの空気はそれだけで潤いに満たされていく。


「儂らもノンビリとはしておれぬ。これから六つの地の鬼門きもんふうじねばならぬのでな。しかも、表と裏、両方じゃ」

「あー、それね。表はいいけど、裏は手を焼きそうね。あちらは六と六で十二。こちらは三なのよね」


 シーナがフワリとみなもの横に着いた。


「数では圧倒的に不利なんだね。シーナ、表は簡単そうに言ってるけど、大丈夫なの?」


 霞が不安な表情をすると、シーナは「当然だ」と言わんばかりに胸を張った。


表鬼門おもてきもんなんて護っているのは、所詮しょせんは鬼だからね。それより、厄介やっかいなのは裏鬼門うらきもん。こっちは神が護っている。この地に降りたった六柱の龍神。これを叩かないと、本命にはたどり着けないのよ」

「なるほど~。わたし、相手になるのかな?」


 かすみがフルフルと不安な顔色になり、笑った。シーナが上から霞を見下ろしている。その眼は、かーなーり、不満に満ちた色をしていた。自分がついていながら不安になるのが、シーナにとっては、おもしろくなかった。


「あのねー、霞。何度も言うけど・・・・・・」


 シーナが言いかけて、フッとため息をついた。みなもがポカンと見上げていたのだ。みなもの視線に惹かれて、シーナはスッと隣に降りた。あのような眼で見つめられたら、さすがのシーナも気をしずめざるえなかった。


「風が申したとおり、儂らは表と裏、十二の鬼門を封印する。数から申せば、分は悪い。じゃが、三ではない。ここには、神と人がおる。三と三で六。そしてその力を合わせたら倍以上になる。これで十二じゃ」

「力を合わせるって、それは神霊同体のこと?」


 実菜穂みなほが左右の人差し指を合わせながら、人の字を作って眺めている。


「そうじゃ。これが、儂らの力じゃ。この地を牛耳っておる天上神は、人に罪を負わせ、己が力を得るために、この地の神の御霊を奪った。何を考えておるのか分からぬが、六つの地を平定すればその真意も見えてくるであろう」


 みなもが沼の地の方角をジッと眺めると、実菜穂たちの方に視線を移した。


「うん。とにかく、まずは表の鬼門を封じに行こう。私とみなもは、川の地の鬼門を封じる。いいよね」


 実菜穂が確認すると、みなもは頷いた。


「それなら私は、田の地に行きます。よろしいですね」

「ああ、行こう」


 陽向ひなたが火の神に視線を向けると、光を受けて瞳を輝かせていた。


「シーナ、わたしは山の地に行くよ。あそこにはまだ何か秘密がありそうだし」


 霞がワッと食らいつくような表情をして、シーナの手を握って振り回している。不安そうな顔からの急変化にシーナの方が戸惑とまどっていた。


「分かった、分かったから。私を振り回すなア。まずは胡散臭うさんくさい山の地を平定しましょう」

 

 シーナが振り回されて乱れた髪を整えながら、霞を落ち着かせた。


「決まったのう。まずは、この三つの地を鎮めよう。事が終われば、山の地に儂らは向かう。霞の申す秘密とやらが気になるでな。火の神、それでよいか」


 火の神と陽向が大きく頷いた。


「みなも、この土の地の門はひとまず放っておくつもり?」

「そこはすでに巫女が入っておる」


 シーナが鬼門を指さしていると、みなもは、チラリと見ながらそのまま通り過ぎた。


「あー。オスマシか。いま頃おでましかあ。うん? これで四か」

 

 土の地の鬼門に向けて舌を出すと、シーナはフワリと飛んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る