第151話 メモと記憶(7)
「一つ目の理由。サナが野の神の巫女でありながら、次の巫女は同じく野の神のキナだった。野の神にとっては、サナが予測していない運命を選んだ。言い換えれば、巫女としての使命が
「それで、二つ目の理由は」
「二つ目は、私たちが
「私はここを出たことがないから、そのビルとやらの話は知らないな。それにいくつか話には分からないことがある。キナが逃がしたというのであれば、百年以上も前の話。その時の巫女が生きているとは思えないが。だいいち、呪われた土は誰が持ってきたのだ」
状況がつかめないという目で漣が実菜穂を見ている。活発で気の強そうな漣が真剣に考え込む姿は知的で、戦う
「あーっ、漣ちゃん。誰が土を持ってきたのかは、あとから確認したいことなんだ。いったんその疑問は置いといて、三つ目の理由にいくね」
「へへっ」と笑っていた実菜穂が真面目な目になる。こうなったときの実菜穂は、神聖な雰囲気を
「三つ目の理由。私たちが取り戻した土の神の御神体。御神体は三つあった。そのうち二つは、巫女となるはずだった二人を消すために天上神が手を回し、わざわざ人に奪わせた。だけど残りの一つは漣ちゃんが護っていたから、里子さんは消されずにすんだ。これは結果かとして頷ける。だけど、そもそもなぜこの地の天上神は土の神の御神体を手間かけてまで奪わせたのか。人に罪を負わせ、この地に呪いをかけているによ。何もしなくとも時を掛ければ、いずれこの地の人は消える運命。なのになぜ、土の神を責めたのか」
「それは・・・・・・巫女を恐れているから」
霞の口が自然に動き、ハッキリとした声で答えた。消えるような声でなく、耳元を
「なぜそう思った」
詰め寄る漣を霞は寄り添うように受け止めた。漣にとっては、いままでひたすら孤独になっても護ってきた想いを、霞の一言で開けられたのだ。
「それは、学校の先生が残したメモに書いていたよ。この村の地上神は圧倒的な強さを誇った。攻める天上神を押し返すほどの力を持っていた。その力の
「だが、たとえ土の神の巫女がこの村から逃げ出せたとしても、年老い、命が尽き、もはや存在しない」
漣が声を震わせた。霞には漣の気持ちが分かっていた。里子を逃がしたのは、漣だ。キナが土の神の巫女を逃がしたように、漣は優の願いを聞き、里子を逃がしたのだ。烏天狗の一族は、里子を逃がすために盾になり犠牲になった。ただ一人になった漣は、土の神の御神体を護り、待っていた。だが、巫女がこの村に戻ることはないかもしれないという絶望が、自分を覆っていたことにいまになって気がついた。
「巫女はいるよ。土の神の巫女はいる。だから、天上神は恐れているのよ」
実菜穂が写真拾い上げて見つめていた。
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