第134話 呪縛と解放(16)
おっかない顔をしながら霞は、隣の部屋へと向かう。よほど強力な物の怪でも襲ってこないかぎり大丈夫だとは分かっていながらも、やはり怖いものは怖いのだ。
「えい!」
怖い気持ちを押さえて一気に扉を開けた。
(うーん)
部屋を見渡すと色々な教材や体育用具が置かれている。倉庫として使っていたようだ。
「なあんだ。きっと、何か物が倒れたんだな」
ドキドキと波打つ鼓動を押さえながら歩きまわった。
「わーっ」
霞が窓際に来たとき、ある物が目に入った。それは何かの衣装なのか、それとも制服なのか分からなかったが、丁寧にハンガーにつり下げられていた。
黄色の明るい色の衣装。下半身は袴を思いっきり短く切ったようにな形をしている。ミニスカートとハーフパンツの中間のような感じだ。上半身は、和服のように左右重ねて着込むと
(この衣装・・・・・・そうだ、大正時代のカフェの
衣装の可愛さに気を取られて眺めていると、エプロンのリボンに何か紙が張り付けられていた。
【里子さんの無事を祈っています 1組一同】
「里子さんて。あっ、やっぱり」
霞はメモを取りだし、里子と書かれていた部分を確認した。
(これは、里子さんが着るはずだったのかな?あれ)
霞は衣装のエプロンのポケットにメモがあることに気がついた。
【この村について調べてみることにした。聞き込みをしても、まず大人は話してはくれない。生徒たちから話を聞くしかなかった。あとは、図書室で資料を調べることから始める。ここに来てすぐに気がついたことは、この村には対立のようなものがある。いつからなのか分からない。ただ、生徒たちはといえば、仲がいい。それは救いなのかもしれない。生徒の一人が、過去にプールで女の子が化け物に襲われ亡くなったという話をしてくれた。はたして本当なのだろうか】
(うわっ、なによこれ。さっき見たメモの続きかな。いきなり情報量が多くなったぞ。村人同士が仲が悪くなったってこと?それに最後の言葉。これって、プールに行けって流れだよね)
メモをポケットに入れると、プールへ向かうために部屋を出ていった。校舎を出て、グルリと反対側に向かう途中にプールはあった。この村は裕福なのだろう。人口の少ない村の学校なのに、しっかりとした造りである。一階は更衣室で、二階がプールになっている。プールは階段を上がるとその姿を現した。コンクリートの作りの
25mで8コースある。
「おーっ、これは大きい。私の学校より立派だよ」
ヒラリと柵を越えてプールサイドを歩いていく。赤みを帯びた光が緑色のプールの水を濃く映し出した。スタート台の方を見ると女の子姿が霞の眼に止まった。
(おっ、やっぱりいたよ)
霞の眼には、泣いている低学年の女の子が見えていた。
「どうしたのかな。何かあった?」
霞が女の子に近づいていく。色を使い女の子を見たが、怪しさは感じられなかった。ただ、この子は普通の人には見えない存在だということはすぐに理解できた。
女の子が顔を上げると、霞はしゃがみ込んで笑いかけた。
女の子はプールの方に視線を向けた。見るとカボチャくらいの白いボールがプカプカと浮いていた。
「なるほど。あれを取ってくればいいかな」
女の子は頷いた。
「でも、あそこにはお化けがいて。行けないの」
「そうかあ。でも、大丈夫だよ。わたしが取ってくるね」
霞はプールへと走っていく。ピョンと高く飛んでボールの方に飛んでいくと、宙に浮いたまボールを拾い上げた。
「取ったどー!」
笑ってボールを掲げる霞を見て、女の子も泣き顔から笑顔になった。と次の瞬間、霞は何者かに足を掴まれ、水の中に引きづり込まれそうになった。
女の子の表情は固まった。
「なによ。なによ」
霞の足を掴んだのは大きなハサミだ。
(蟹さん?いけない、このままでは水の中に引き込まれる)
霞は全力で上昇をした。
「ぬぬぬぬぬーっ」
霞の力が勝り、足を掴んだものの正体を暴き出した。
「うわーっ!本当に蟹さんだ」
蟹を釣り上げた状態になった霞は、力いっぱい足を振り回した。
ガツン!
プールサイドに勢いよく巨大な蟹が転がった。泡を吹きながら、霞を見上げる。
「巫女なのか。ばかな。この村には巫女はいないはずだ。風・・・・・・そうか、よそ者か・・・・・・知らせねば。
大蟹はそのまま息絶えて消えた。
(えっ、おおかぎって何様?また情報が増えたよ)
霞は大蟹が消えた跡を見ながら、頭をかかえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます