第108話 覚悟と想い(4)

 霞の前に一人の少女が姿を現した。城北門校じょうほくもんこうの制服姿。肩口まで伸びた髪を左右に分けて縛っている。


(間違いない。この子だよ)


 霞が実菜穂と陽向に目配せをして合図を送った。二人は微かに頷いて応えた。


 実菜穂にも見覚えがある顔だった。放浪神を襲った少女である。当然、少女も実菜穂の顔を知っていた。


(あの子、私に矢を放った者。あれだけ距離をとっていたのに、的確にしかも勢いが衰えることなく矢を打ち込んできた。人の成せる技ではない。それに、もう一人の女、三人のなかで一番手慣れた者か。凄まじい警戒心。下手に動けば反撃されるか。やはり三人とも巫女。だが、いくら数を揃えようと、この鉄鎖てっさの神の力の前では問題ではない)


「警告を無視したこと、その命をもって償え」


 少女が言い放った瞬間、右手から鎖が伸び、手錠のように陽向の両手首をからめ取った。


(こいつは押さえた)


「陽向さん、大丈夫ですか?アッ」

「陽向、霞ちゃん。なに?」


 霞と実菜穂が声をかけるのと同時に、陽向の手首に巻かれた鎖が伸び、同じように手錠となり霞と実菜穂も手の自由を奪われた。鎖は実菜穂の腕から伸びていくと少女の左手へと返ってきた。少女から放たれた鎖は、グルリと一周して三人を1mほどの間隔で繋ぎとめてしまった。


連還れんかん!これで、おまえ達の命も尽きた。あとはここに来たことを後悔しながら、無様ぶざまに散っていくだけだ」


 少女が左手をグイッっとたぐり寄せると実菜穂の右手が引っ張られ、体制が崩れた。


「お前もこの状態では満足に弓は引けまい。あのときは遅れをとったが、今度はそうはいかない」


(この巫女の弓の力は確かに秀でている。だが、こうなっては何もできまい。残りの二人にどんな力があるか分からないが、鉄鎖に繋がれては同じこと)


 陽向が紅雷こうらいを左手に掴み、引き抜こうとした。


 ガチ!


 刀を引き抜こうとする腕が止まった。


 繋がれた両手は30cmほどの間隔しかないため、さやから刀を抜くだけの間合いが取れずにいた。結果、紅雷は鞘からわずかに刃を見せて、光をさすだけに終わった。


(そうか。この手馴れ、刀を使うのか。ならばなおのこと鉄鎖の前では自由が利くまい)


 霞が腕を広げて鎖を引き千切ろうと頑張るが、全く歯が立たなかった。


 ガチッ、ガチャ、ギギギーッ


 鎖を破壊しようと、霞は何度も勢いをつけて腕を伸ばしてもがいている。



 ・・・・・・!?


 両隣にいる実菜穂と陽向が違和感に表情をゆがめた。 


(二人は連還の力に気がついたか。でも、お前たちが本当に苦しむのはこれからだ)


 実菜穂と陽向を見る少女の顔は、奥底しれない含みある笑みを浮かべていた。

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