第106話 覚悟と想い(2)
実菜穂と陽向、それに霞がバーガーショップのテーブル席に集まっていた。ちょうど昼食を食べようとしているところだ。
三人が集まったのには理由がある。動画を見たその日、空に霧雨が虹を作り、風が輝きを散りばめていた。これはみなもたちの伝言である。「三日後に帰る」とのことだった。
その翌朝、霞は動画の声の主と会ったのだ。情報共有ということで三人が集まって、ついでに昼食タイムとなっていた。
アーン
実菜穂が大きく口を開けて、満面の笑顔でフィッシュバーガーを頬張っている。
「ハンバーガーよりお魚の方が好きなんだよねー。このタルタルがたまらないよ」
女の子が豪快に食べている姿は、ともすれば格好悪く感じる人もいるだろう。だが、元気可愛く食べる実菜穂の姿は、見る人を引きつけた。実菜穂が食べている姿は注目を浴び、見ていた人はアンと口を軽く開け、喉を鳴らすと次の瞬間にはフィッシュバーガーを注文しにカウンターにむかう始末である。どうやらこれは、みなもの幸せそうに食べる姿が実菜穂にも伝染したせいである。
陽向は、スティック状のチョコレートパイを片手に実菜穂を見ていた。片方の手元にはサツマイモのパイが控えている。
霞はタマゴとハンバーグが重ねられたお月様バーガーを持ったまま、実菜穂に見とれていた。
(実菜穂さん、普段は綺麗で気さくな姉さんのイメージだけど、可愛くて年下にも思えちゃうよ)
「実菜穂の食べてる姿って、みなもそっくりになってきたね。ほんとうに幸せそう」
陽向がパイを
「あー、そうかも。小さい頃から見てきたもんね。それにあれだな。巫女になってから、特にだね。
実菜穂が笑顔でフライドポテトをパクっと齧った。その笑顔につられて霞がバーガーを頬張った。
(美味しい。いままでこんなに美味しく感じたことないかも)
幸せな笑顔でバーガーを楽しんでいた。
幸せ気分に浸った後、陽向が声をかけた。手元のパイはきれいに片づいていた。
「霞ちゃん。今朝、動画のメッセージの人に会ったというのは本当なの?」
「はい、陽向さん。最近、お気に入りの散歩コースがありまして」
「さんぽ・・・・・・ですか?」
「あーっ、いや。まあ、わたし、陽向さん、実菜穂さんに追いつこうと・・・・・・あっ、それはちょっと隅っこにどけてください。とにかく、ナナガシラに通じる道にたまたま入りました。そこで、城北門校の制服姿の女の子に会いました」
「早朝の山の中で城北門校の女子生徒に会ったの?」
「はい。あり得ないでしょ。わたしも驚きました」
「事情はさておき、どうしてその子が動画のメッセージの人だと分かったの?」
「はい。まず、わたしを一目で巫女だと見抜きました。そして『二度と来るな、次は命はない』と警告を受けました。その声と色は間違いなく動画のメッセージと同じでした」
霞はうまく説明できたのかと心配顔であったが、陽向はコクリと頷いた。
「霞ちゃんが断言するのなら、間違いない」
陽向の熱く力強い言葉に、霞は自分が認められているのだと感動して目が潤んでいた。
「城北門校の生徒・・・・・・か」
実菜穂がオレンジジュースを飲んでいるストローから、口を離すと呟いた。
「実菜穂さんどうしたのですか?」
「うん。あの建物で放浪神様を襲った女の子がいたの。しかも、ものすごく離れた場所から的確に鎖で襲っていた」
(・・・・・・!?)
霞の肩がピクリと動いた。
「実菜穂、鎖を使う女の子って巫女?」
「みなもは、
「巫女じゃない・・・・・もしかしたら、正当な巫女が他にいるのかもしれない。巫女見習いの状態でも力を使うことはできるって、聞いたことがある」
実菜穂と陽向の会話に霞は、肩をプルプルと奮わせていた。
「あのう。実菜穂さんが見た鎖を使う女の子はどんな姿でしたか?」
「ああ、夏服の城北門校の制服姿。髪型はね、私と同じくらいでこう左右を縛って」
実菜穂が自分の後ろ髪を左右の手で分けて握った。肩口まで伸びた実菜穂の髪では、ツインテールと呼ぶには短すぎた。
「あーっ、それです。わたしが山で見た女の子だ。その人、鎖を使うのですか!」
「うん。あれ、霞ちゃん、鉄鎖の神様のこと知ってるの?」
「わたし、さっきまですっかり忘れていたことがあるんです。シーナと出会うまでは、毎日同じ夢を見ていました。城北門高校の制服姿の女の子が、火の鳥や龍と戦うんです。でも、その人はすごく髪が長くて、ツインテールの髪型。優しく強く綺麗な人で、鎖を自由自在に使って舞うように戦うんです。そして最後は悲しそうな目で『あの子を間違った道に行かせないで。闇に落とさないで』ってそう言ってました」
霞の訴えるような言葉を聞きながら、実菜穂と陽向は考え込んでいる。
「陽向、鎖を使う女の子が二人いるってことかな?でも、一人は霞ちゃんの夢の中。一人は現実にこの世界にいる・・・・・・これはどういうこと」
実菜穂が首を傾げながらストローを咥えた。
「分からない。だけどこれは、もう確かめるしかないよね」
一瞬の沈黙が三人の中心に渦巻いた。
「じゃあ、そこに行くしかない!」
実菜穂と陽向が口を揃えて霞を見ると、霞はドキドキしながら二人を交互に見ていた。
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