第105話 覚悟と想い(1)
まだ日が昇る前の薄暗い空を霞は飛んでいた。シーナの巫女になってから、空を飛んだり、瞬間移動したりと力を使う練習を少しずつしていたのが、いつのまにか朝の散歩として習慣化していた。とはいえ、人に見られては困ったことになるので、人目のつかない山までは瞬間移動をしてから飛ぶ練習をしていた。ここ最近は、草が左右に分かれた山道であろうと思われる部分を背にし、木々の間から朝を迎える空を眺めながら宙に浮いて散歩をするのがお気に入りとなっていた。
仰向けで頭の後ろに手を組み、宙に浮いている霞が山道を登っていく。普通の人であれば、辺りは薄暗く進むこともままならないが、霞は関係なく枝や岩を避けて登っている。
キッキッキー
野鳥が山への侵入者に声を上げている。だが、これは威嚇ではなく、朝の挨拶だ。いまの鳴き声は山鳥のようだ。
「おはよー」
霞が羽をバタつかせて飛び上がっていく鳥に手を振る。
小さな鳥が霞のまわりをピッピと鳴きながら、飛び回っている。歓迎されているのだ。
「いいなあ。以前の私には絶対に見ることができない景色が、この目で見ていられる。夜が明ける前の山の香りってなんで落ち着くんだろう。街中とは違う。ははは、でも、巫女でない自分ならきっと怖くて山には入れないし、鳥さんも近づいて来ないよね。それなら、力を持つことはそんなに悪いものではないかも」
小鳥が自分を囲むように飛んでいるのを眺めていると、心が
ピピピッピピッ
霞のまわりを飛んでいた小鳥が急に騒ぎだし、一羽が目の前で何やら訴えている。
「えっ何!」
ゴツッ!
鈍い音とともに霞は頭に衝撃を受け、目の前がピカリと光った。
「イッタァーイ」
頭を押さえた霞は、痛みのあまり身体を宙で右に左にとクネらせていた。心配している小鳥が頭の周りをクルクル飛んでいる。まさにピヨピヨ状態であった。
痛みのピークが過ぎるて、ようやく状況が理解できた。木に頭をぶつけたのだ。周りの景色に見とれていて。意識が緩んで避けきれなかったのだ。
「あいたたた。『危ない』って教えてくれてたんだね。ありがとう」
笑ってお礼を言うと、小鳥は安心したように声を上げて霞の肩に止まった。
(あーっ、ずいぶん奥まできたな。いままで気がつかなかったけど、ナナガシラは案外近くなんだね。いまは車で近くに行けるけど、この道は昔に使われた道)
霞が地に足を着け、道の奥を見つめていた。
(うん!)
眼を細めて先を見ていると、道の奥に人影があることに気がついた。制服を着た少女。赤い朱色のネクタイにブレザー姿。城北門校の制服だ。
(こんな所に高校生?幽霊、いや、生きてる。物の怪でもない。人だ)
色で霞は少女を見ている。少女は霞に向かって普通では考えられない速さで歩いて近づいてくる。
(あーっ、まずい。宙に浮いていたの見られたかな)
自分以外存在することがないと考えていた場所で遭遇した少女。本当なら、そこを怪しむべきとこなのだが、自分の失態を反省している霞は頭が混乱していた。
気がつくと、少女は目の前に迫っていた。静かで、笑みもなく、どこか冷めている。可愛いというよりかは、整って清楚で美しいという表現が当てはまった。さらに、心の奥底にはなにか強い壁を持っている。霞はそう感じた。
「あなた、巫女ね。それなら、言っておく。二度とここには来るな。次は命はない」
(えっ!?)
強い警告の声に霞の身体は固まった。少女はそのまま霞の横を通り過ぎて行った。
(この声、音色は)
霞が振り返ったときには、少女の姿は消えていた。
周りの木々が風に揺られ、ザワザワと音をたてている。それは霞の胸にも
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます