第63話 神と巫女(18)
「陽向なんじゃが」
みなもがビルを見上げて硬い表情をしている。
「陽向がどうした」
意味ありげなみなもの
「卯の神の呪いに気がついたの」
「それで、どうするのだ」
「卯の神の一番目の姉は、光を失っておる。陽向は、卯の神に光を見せるつもりじゃ。火と光の神の巫女。その巫女が怒りを覚えたとき、御霊に留められていた熱情はこの世界をも焼き尽くす。誰も陽向を止められまい」
みなもの言葉に火の神は、全てを承知した。火と光の神の巫女である陽向が何をしようとするのか。火の神には、ハッキリと見えていた。
◇◇◇ ◇◇◇
陽向が歌い始めた。赤い神を中心にしてゆっくりと回っていく。きっちりと五歩の距離をあけている。
(陽向、もう私の動きは見切っているはず。次に私がどう動くかも承知している。だけど、本当に捕まえるつもりなのか分からない。私に光を見せない限り陽向の眼は開かない。それができるとは、思えない)
一言、一言、陽向は気を込めて歌っていく。その歌がフロアの中に響いていく。青と緑の柱の眼からは涙が溢れていた。実菜穂が二柱の御霊が震えるているのを感じ取っていると、霞もまた悲しげな夕暮れとも明け方ともとれぬ光の色を見つめていた。
「霞ちゃん、やっぱりこの歌には何か意味があるよ。都市伝説とは違う。ここだけに存在する正解があるんだよ」
「はい。私もそう思います。陽向さんは、もしかしたら」
「うん、陽向はもう見えているかもしれない・・・・・・霞ちゃん、見る覚悟はできている?」
「はいっ?」
実菜穂が瞳を光らせて霞に問いかけた。聞いた瞬間、覚悟という意味が分からなかったが、自分の見ている色が実菜穂の言葉を物語っていることは理解できた。
「こうなれば。逃げられないですよね」
霞は二柱から目を離さないまま答えると、実菜穂は頷いていた。
陽向が歌う。
「夜明けの晩に。鶴と亀が滑った。後ろの・・・・・・」
歌が終わる寸前に赤の神は陽向のオーラを避けるように跳び跳ねようとした。陽向が歌う番で赤の神が動いたのは初めてである。陽向から離れるために跳び跳ねようと床を蹴ろうとしたとき、陽向を中心に円形に炎が沸き立った。それはまさに炎の壁と化し、赤の神の行く手を遮った。業火とでも言うのか、いや、それ以上に紅く激しい炎であった。
赤の神はとっさに陽向の方に向きを変え、炎から逃れるために跳んだ。
(見えないけど感じる。凄まじい炎)
赤の神が陽向の方に炎を避け跳んできている。炎の円は陽向を中心にして、赤の神を追うように一気に小さくなっていく。
陽向が歌い終わる。
「正面だあれ」
陽向が赤の神の背に付いた。陽向と赤の神は炎に囲まれていた。
「捕まえました。いまから私は光を見せます」
(神に光を見せるために私に残された手段。御霊を懸けるしかない)
陽向はすぐさま背を向けた。お互いが背を向けあっている格好となっていた。陽向の手には紅雷が握られており、次の瞬間、陽向の行動に実菜穂、霞、そして二柱は
陽向が紅雷を自分の胸から赤の神の左胸へと貫通させたのだ。
ドクッ、ドクッ。
陽向の頭の中に鼓動を打つ音が二つ聞こえてくる。一つは陽向自身、そしてもう一つ赤の神のものだ。不揃いであった鼓動がやがて一つに合わさっていく。陽向の脳裏には薄暗い世界に描かれた光景が映し出されていた。
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