第59話 神と巫女(14)
赤の神の声が陽向の耳を掠めていく。ゆっくりと陽向の周りを囲むように歌声は届いてきた。赤の神の歌声は無邪気な子供の音を持ちながらも、静かで悲しく、どこか残酷な響きを残していた。
歌声を聞きながら陽向は赤の神の位置を探っている。声が後ろから聞こえるときは振り返り背を見せないようにした。それでも時折、赤の神がどこにいるのか分からなくなるときがあった。声は存在するが、気配が消えるのだ。
(声はずっと聞こえている。だけど、一瞬だけど気配が消えるときがある。どこにいるのか全く分からない。私が神を追えていないのか。それとも、意図的に気配を消しているのか)
暗闇のなか陽向は耳だけでなく、全身の感覚をフルに使い赤の神を感じ取ろうとしていた。後ろに付かれたら最後。それが事実なら、一瞬も気が抜けなかった。短い歌が終わる頃には陽向の額には汗が浮き出ていた。
『うしろの正面だあれ』
後方から声が聞こえてきた。言葉が終わる前に陽向はクルリと身体を回転させ大きく飛び跳ねた。深く息をしながら、見えない眼が赤の神にの方に向けられている。
陽向の苦戦する姿に実菜穂と霞は息をのんだ。二人には陽向と赤い神の動きは見えている。赤の神はただ陽向の後ろに立っているだけだ。それなら陽向は身体を反転すればすむこと。だけど陽向は大げさに跳び、距離をとった。
「陽向さん、正面に五歩ほど先にいます」
「霞ちゃん、だめ」
陽向に声をかける霞を実菜穂が止めた。
「霞ちゃん、陽向に声をかけたら余計に混乱させちゃうよ。私たちと陽向が見ている光景は全く違う。陽向は、自分であの距離を選んだんだ。それに二柱が私たちを見ているよ」
実菜穂に言われ、霞は向かいの青と緑の神に目を移した。二柱は「手出し無用」という眼で霞を見つめている。その眼があまりにも強い光を放っているので、霞はウグッと口を押さえた。
居たたまれなくなっている霞に実菜穂が小声で話しかけた。
「霞ちゃん、かごめかごめって、遊んだことある?」
「あーっ、幼稚園で遊びました。たしか輪になって鬼となった一人を囲んで歌いながら回っていく。歌が終わったときに、輪の中にいる鬼が自分の後ろにいる子を当てる。当たれば、鬼を交代する遊びだったような」
「だよね。私もそう思ってる。でもこれ、かごめかごめの遊びかな」
「あっ・・・・・・?一対一はともかく、なんだか逆なような。後ろに付かれたら危険な感じになっている」
二人は陽向と赤い神の遊ぶ姿を再び注目していた。
「さあ、今度は陽向の番です」
赤の神の言葉に陽向は歌い始めた。陽向の柔らかい声を実菜穂と霞が静かに聞いていた。
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