第54話 神と巫女(9)
実菜穂が龍の神に頭を上げるよう頼んだ。
『これで御霊がもどれば、龍の神は人を助けてくれるであろう。そうなれば儂らが是が非でも御霊を取り戻さねばならぬ。その前に分からぬ事が一つあってな。鉄鎖の神の力を持つ者が現れてお主等を消そうとした。知ってのとおり、鉄鎖の神は地上の世界の見張りと言われる存在じゃ。その力を持つ者がここを狙った。これに心当たりはあるか』
龍の神はしばし考えていた。実菜穂の顔を見つめながら、覚悟を決め口を開いた。
『確かなことは分からない。もしかしたら、この我らの姿に失望したのかもしれんな』
『では、いまなら狙われることはないか』
『定かではないが、もうなかろう。次はその根元を絶つのではないか』
実菜穂の口元が微かに揺るんだ。それを陽向は「またか」という眼で見ている。
『もう一つ聞く。優里という
『知っている。その人は、物の怪を見る力のあった人。ここで我らを見ることができた人だ。何者が連れだしたかは言えぬが、行き先はナナガシラ』
実菜穂の眼が鋭く光った。陽向と霞も同じ反応をする。霞は優里の行き先について詳しく聞こうとしたが、シーナが「やめろ」と止めるので奥歯をかみしめた。
『まあ、この上に行けば少しは先も見えるの。それよりどうじゃ、儂らが御霊を取り戻すまで、ここにおるわけにもいくまい。その間、儂の祠で休んでおれ。これだけの数だとちと狭いがの。安全は保障されるからの』
(ちょっ、みなも、それは・・・・・・良いの?)
実菜穂がギョッとした表情をするよりも早く、陽向が詰め寄ってきた。
『おまえ、何言ってるんだ。なにゆえ、お前の祠にここの柱が入るのだ』
『なんじゃあ、火の神?どうせ儂等は御霊を取り戻しに行くのじゃ。その間は
『よくないわ!なーんで、嫁入り前の女神の祠に男神がゾロゾロ入るのだ。おかしかろう』
『おかしくなかろう。儂はおらぬのじゃ』
『おかしいわい。そのようなこと、アサナミの神にも
『お主はあほうか。お主を参拝に来る者がおるのに、他の神がおったのでは驚くじゃろ』
『お前も同じだろうが』
陽向が実菜穂に食いついていく。このやりとりは、クラスメイトの漫才のごとく周りを巻き込んでいた。霞もポカンと見ていたが、シーナが割って入った。
『それならわたしの社に来たらいいよ。どうせほとんど留守にしているから何様がきても変わりないよ。その代わり、わたしがみなもと一緒の祠に入るう』
『儂が嫌じゃ。お主が側にいては騒がしくて敵わぬ。行くなら火の神の社に行け』
『お前、なんてことを。そんなことになれば、こいつの兄が怒鳴り込んでくるだろうが』
今度は実菜穂が霞に食いつき、再び陽向が実菜穂に絡む。一連のやりとりを見ていた龍の神は、久しく絶えていた笑い声を響かせた。白い影も笑っているように揺らめいている。
『有り難いことだ。だが、気遣いは無用。あてはある。それよりも、どうか無理はしないでくれ。ここにいる者たちはみな、御霊を奪われたもの。すべては呪われた地だ。我は縋るのみだ。願わくば、忌まわしき呪いから救ってくれ。頼む。そのためなら、水面の神の
『有り難いことじゃ。とにかく行くがよい。ここは儂らが抑える』
龍の神は全身を青く光り輝かせると白い影とともに姿を消した。実菜穂にも気配が遠く離れているのが伝わってきた。
(みなも・・・・・・うん、分かった)
「陽向、霞ちゃん、上にいる神様を抑えよう。放浪神が逃げる時間を稼がなきゃ」
三人はフロアを後にして階段を駆けていった。
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