第43話 巫女と物の怪(17)

 陽向がドアに向かい逃げる邪鬼を一体掴むと壁に投げつけた。邪鬼であれば死ぬことはないが、それでも勢いはかなりのものである。邪鬼が壁にぶつかる寸前に霞が受け止め、ストンと着地させた。


(いけない。陽向さんを押さえないと)


 瞬時に移動する。陽向は次の邪鬼を掴んでいたが、そこに霞が割って入る。邪鬼を陽向から引き離すと同時に、右足を思いっきり回して蹴りあげた。霞は無我夢中、我武者羅がむしゃらに足を振り上げていく。右足を切り落とされるかもしれないという恐れを振り払った渾身の蹴りであった。必死で覚悟を込めた蹴り。その蹴りを入れる右足は緑のオーラが渦を巻き、風の鎧を纏っていた。


 右足が陽向に襲いかかる。素早く猛烈な威力ある蹴りに陽向は紅雷を振ることができず、右腕に光りを纏わせ、受け流していく。陽向の身体は反対側の壁まで吹き飛ばされ、肩から激突した。大きなダメージはないが、右腕が痺れて陽向の顔は強ばった。


(凄いよ、霞ちゃん。かすっただけでこの威力だもん。防御していなければ、手が使いものにならないくらいダメージを受けたはず。まともに受けたていたら・・・・・・あまり想像したくないなあ)


 二人の凄まじいぶつかり合いに邪鬼は動けないでいた。この隙に逃げ出せばいいのだが、動こうとしても陽向からの威圧するオーラに縛りつけられていた。


 霞が陽向の背中に回り、右膝で蹴りを加えた。陽向は紅雷を背に当てて光りで蹴りを受け止めた。陽向の身体は押し出されて前に吹き飛ばされるが、壁に激突する前に足で壁を蹴り上げ、一回転して着地した。衝撃で壁は崩れ、直撃は免れたが厚手のシャツが背から肩にかけて破れていた。


 豪快ながらも華麗に受け流す陽向の姿を、霞は息を整えながら見ていた。


(訳も分からずに挑んだけど、私がしてるなんて到底思えない。押さえることができない。陽向さんはまだ余裕がある。邪鬼を睨みながら私を相手している。だけど、何だろう。どうして、私の脚はこんなに痛いの。心が苦しいんだろう)


 陽向が間合いをとり、紅雷を霞に向けて構える。激しく肩を上下させて息をする霞に対して、陽向はピタリと切っ先を止め、まっすぐ視線を向けている。


(やっぱり凄い。一度目は受け流したけど、二度目は逃げきれなかった。直撃を避けられたのは有り難い。霞ちゃんは、優しいな。それにしてもあの威力は侮れない。破壊の神は伊達じゃない。生半可に切り込めば、はじき返されて自滅するだけか。そろそろ私も限界なんだけどなあ)


 紅雷が紅く光り、炎を帯びていく。陽向が小さく構え、飛び込む体勢をとる。


(陽向さんは本気だ。飛び込んできたら刀を受けるのは難しい。それなら、初めから狙いをつけて陽向さんを)


 陽向が床を蹴り霞に向かい一直線に飛び込んでくる。小さく肩に構えているため、振りは狭いが炎を帯びた刃を押しつけることで、霞を切りにかかった。霞も陽向の攻撃を受けるつもりはなく、そのまま右手に風のオーラを巻き付けて陽向の肩に狙いをつけて拳を突きだしていく。捨て身の戦法であった。


 二人は顔を見合わせて狙いを定めた。


 刃と拳が交じり合う寸前、頭上から白い光りが二人の間を突き刺した。


「二人ともちょっと待ったーっ!」


 白い光りのを浴びて影しか見えないが、元気な声をあげて降りてきたものは人の形をしていた。その影が間に入り、二人の腕を押さえて立っていた。

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