第42話 巫女と物の怪(16)
陽向が霞との間合いを詰めていく。その度に霞は詰められた分だけ距離を取っていく。陽向に圧されているのは明らかだった。どう動いても勝ち目がないように思えた。技もなく、力もなく、経験もない。そんな自分が目の前の強力な巫女に挑むことが無理なのである。幸運も奇跡も現実には
(同じ巫女が相手だと手も足も出ないなんて。これじゃ、いままでと何も変わらないよ)
自分の無力さを感じながら、ジリジリと後退していく。霞が迷い、恐れる姿を見る陽向の口元が微かに緩んだ。
「霞ちゃん、それ以上逃げると私が邪鬼に近づくよ。切るね」
「えっ」
後ろを振り向くと邪鬼とは二歩の距離に迫っていた。陽向が一気に詰めれば、一溜まりもない。
「霞ちゃん、時間稼ぎにならない逃げは意味がないよ。はやく覚悟を決めてよ。観念するか、私を倒すか。まあ、一直線に攻めるだけでは先は見えてるけど」
迫る陽向を見据え、霞の頭と五感はフル回転をしていた。
(うん?なにかいま私の耳はすごいことを聞いたぞ。覚悟、一直線・・・・・・)
フル回転する頭が断片的な情報と記憶を瞬時に繋げていく。
霞は邪鬼に語りかけた。
「見てのとおり、あの巫女は強力です。でも、くい止めて見せます。私があの巫女の動きを封じたら、すぐに逃げてください。それまでは時間を稼ぎます」
長老が頷くのを確認すると、頭領の女の子にニッコリと笑ってみせた。霞の精一杯の強がりであった。
(力があれば護ることができる。私が望んだ力。私にはその力がある。風の神の巫女、風の力。陽向さんに勝てなくとも押さえることはできる!)
「陽向さん、いきます」
陽向を見据える霞の身体に風が集まってくる。その風が鎧のごとく霞を包み込んでいった。
(いまになって気がついた。私は風の力を使っているんだ。シーナが言っていた。風は無敵だ!)
緑色のオーラをなびかせると、霞は姿を消した。陽向は霞の気配を察知して紅雷を構える。構えた先に霞は姿を現すが、すぐに消えた。左右上下については離れ、陽向の守りを崩していく。霞のオーラを探り、陽向は先を読んでいるのだが、それは統一され均等なオーラを張り巡らすことで、高性能レーダーとして探知していた。霞が陽向のオーラの感度を何度も試していく。
(やっぱりだ。揺さぶりをかけると陽向さんのオーラに少し乱れが出てきている。色の薄い部分が見えた!)
陽向が霞が現れる場所を察して、紅雷を構えた場所かすめるよう霞が姿を現した。紅雷を振り下ろす陽向の後ろに霞は移動していく。
(背中が薄い!)
後ろから陽向の腕を取り、一回転して投げ飛ばした。凄まじい勢いで陽向は背中から壁に投げつけられるが、激突寸前に壁を足で蹴り反撃の体勢を取った。陽向が蹴った壁はコンクーリとであるが大きくへこみ、ひび割れていた。さらに衝撃で窓ガラスは何枚か吹き飛んだ。
(お見事!だけど、まだ)
陽向が微かに笑みを浮かべた。
二人が争う隙に邪鬼はドアに向かい逃げだそうとしていた。それを見ると陽向は霞には目もくれず邪鬼を切りつけにかかった。
(えっ、うそ!やばい)
霞は再び姿を消した。
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