第41話 巫女と物の怪(15)
陽向が紅雷を構え、攻撃の態勢をとると、身体からは威圧するオーラが放たれていた。その相手はこともあろうに霞である。
(これが陽向さんなの。巫女になってからどんに屈強な人も怖いとは感じなかった。だけどいま、正直に怖い。いままで知っている怖さとは桁違いだよ)
左足を前にずらし、すぐ動けるよう体勢をとった。
(陽向さんは巫女としてずっと手ほどきを受けてきた。だけど私は戦い方なんて知らない。どうすれいいんだろう。陽向さんと戦うの?私に勝ち目なんてあるの?いや、もしかしたら)
霞は神の眼で陽向を見つめた。どこかに隙がないか色の違いを探していたのだ。
(えっ、ホントに!)
紅のオーラに包まれた陽向であったが、そのオーラに色の違いが見えなかった。いままでに経験がないことである。薄い部分があれば、狙うべきところを見つけられると期待したけれど見事に打ち砕かれた。
(隙がないってことなの。でも風の力で一瞬で近づけたら、攻撃はできなくてもあの刀を取ることができれば勝ったことにならないかな)
霞の狙いは定まった。陽向の背後について刀を取り上げるという寸法だ。
「よし」
霞の声に反応して陽向が紅雷を構えた。それを合図に霞は姿を消した。すぐさま陽向の背後に現れるのと同時に霞が見たのは陽向の背中ではなく、紅雷の切っ先が鼻先に迫ってくる瞬間であった。考える間もなく後方にはね飛んだ。
(えっ、何があったの!)
自分に何が起こったのか理解ができないまま肩に紅雷を担いでいる陽向の姿が瞳に映っていた。
「あのまま突っ込んでいたら、顔が串刺しになってたよ。霞ちゃん、一瞬で移動する力はすごいよ。私には真似できない。でもね、どんなに速く動いても行き先が分かれば迎え撃つのは簡単なんだよ」
陽向がクルリと身体を返すと再び紅雷を構えた。霞が再び瞬間移動を試みた。今度は右肩の付近を狙って飛び込む。
(刀を持つ右手を押さえ込めば動きを封じることができるはず。右側につかれたら、陽向さんもすぐには刀は振れない)
霞は陽向の右腕を掴んだが、その手にはすでに紅雷は握られていなかった。
「まずっ!」
今度は状況が分かった。陽向は左手に紅雷を握ると右腕を台にして霞を突きにかかっていた。紅雷が霞の体をかすめる前に後ろに飛びのく。すぐさま陽向が一振りを加えて追撃をした。霞の髪がハラリと床に落ち、その後を冷たい汗が一滴濡らした。霞の頭にシーナの言葉が浮かび上がってくる。
『霞を傷つけることができるものがあるとすれば、魔か神か、それとも同じ巫女か』
(そうだ、これが巫女の力。巫女同士が争えば、力と技の戦いになるんだ。たしかに移動する速さはあっても、近づいてからの動きは陽向さんの方が速い。どう近づいても切られる映像しか見えてこない。陽向さんに勝てるはずがない。同じ土俵にはたてない)
動きが止まっている霞に陽向がゆっくり近づいていく。距離が縮まると、霞は慌てて後へと下がった。
「霞ちゃん、私を倒さないと邪鬼は護れないよ。言葉だけでは護れないよ。覚悟がないと護れないよ。それと、動きが読まれている限りは攻撃はできないから」
紅の光りを放ち、陽向の眼が霞を捉えていた。その瞳に取り込まれ霞の動きは完全に止まっていた。
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