第37話 巫女と物の怪(11)

 邪鬼が次々に霞に襲いかかる。霞はその攻撃を全てかわしていく。鋭い攻撃に対していっさい反撃は行わず、ただ舞うように邪鬼をすり抜けていく。霞がかわす度に攻撃する邪鬼の数は次第に増えていった。


(数は多いけど集中していれば攻撃は避けられる。でも、これほどの数がどこに潜んでいたのかな。どこから来たのだろう)


 霞が「う~む」と考えをめぐらせたことで、集中が途切れ攻撃を受けてしまった。胸に当たりそうになった邪鬼の腕を咄嗟に掴むと壁に向かって投げつけた。


(あっ、しまった!)


 霞は瞬時に姿を消し、邪鬼を投げ飛ばした方向に先回りした。飛んできた邪鬼が壁に当たる前に優しく受け止めると、そっと床に立たせた。


「ごめんなさい」


 無事に受け止めたことに安堵の笑みを浮かべ邪鬼の頭を優しく撫でると、すぐさまもといた場所に戻り他の邪鬼たちを相手に飛び回っていた。投げ飛ばされた邪鬼はその場に留まり、霞の姿を見つめている。その眼は醜悪で攻撃的なものではなく、霞の笑みを不思議に思う純粋な光りを放っていた。


(傷つけたらダメだよ。いままでのことが無駄になる)


 フロアには数多くの邪鬼が霞めがけて攻撃を仕掛けている。どんどん数は増えていくが、霞は攻撃されるのに慣れると無駄な動きが減り、体力にも心にも余裕がでてきた。


 フロア内は多くの邪鬼が飛び交って霞を狙っている。目標は霞であるが、肝心の霞は邪鬼を避けていることから同士討ちにあい傷つく邪鬼もいた。事を有利に進めるのなら、これを利用しない手はないが霞は違った。傷つく邪鬼がいたことを察知すると、鋭い爪や歯で同士討ちになる寸前に霞は一方の邪鬼を優しく抱えて攻撃を避けた。そんなことを何度も繰り返していくのだ。はじめは、ガムシャラに霞に突っかかっていく邪鬼たちであったが、霞に助けられている事を理解したものは、一体、一体と攻撃を止めていくので、霞を襲う邪鬼は自然に数を減らしていった。


(あれ、何だか止まっている邪鬼が多くなってきたよ。こんなに数が多いのにあまり乱れることなく行動しているのが不思議なんだけど。これは・・・・・・そうそう、白風のチームみたいな感じ。あっ、シーナは、こんなときは大将を狙えばいいって言ってたよ。うん、あの時みたいにすれば)


 霞は邪鬼を避けながら瞳を光らせてフロアを見渡していく。すると、隅の方に幾重にも円陣が組まれており、その中心に特別に光る場所があることに気がついた。


「よ~し、見つけたよ」


 ようやく先が見えてきた霞は笑顔を浮かべると、次の瞬間、フッと姿を消した。 


 霞が姿を現したのは円陣の中心だった。濃く光を放つ者の口を押さえるとしゃがみ込んだ。


「声を出さないで。何もしないから、そのまま大人しくしていて。お願い」


 このとき霞は初めて邪鬼の頭領を目にした。


(えっ!うそ・・・・・・信じられない)


 予想しなかった頭領の姿に声を上げそうになるのを必死に耐えていた。霞が抱きしめていたのは、小さな女の子だった。女の子は霞を見ると頷き腕の中に埋もれていた。

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