第36話 巫女と物の怪(10)
霞の瞳が光ると、三体の邪鬼の攻撃をかわしていく。その動きは素早く、風のように掴みようがなかった。
「そういえば隼斗は三階で襲われたと言ってたかな。もしかしたら、この邪鬼が襲ったのかな」
霞が攻撃をかわしたことで邪鬼たちは、ますます
(えっ、怒っちゃった?)
小柄な身体から発する気は明らかに怒りと苛立ちを感じさせていた。邪鬼は数を増やしながら次々と襲いかかっていく。霞はその度に邪鬼をかわしていくのだが、キリがないことから、一体を掴むと床に押さえつけて拳を振り上げた。邪鬼は怯むことなく睨んでいる。睨む瞳に向かい霞が拳を振り下ろそうとした瞬間に腕が固まった。
(ダメだ。これを下ろしちゃったら、この子は潰れちゃう。私がかってに入ってきたから怒っているんだ。ここで傷つけちゃったら、力で抑えるしか方法がなくなってしまう)
霞が迷ったままで動きが固まっていると、後ろから蹴り飛ばされて身体が前へと突き出された。服は引き裂かれて背中が露わになっている。小さく華奢で幼い背中であるが、肌はピンと張りがあり、透明な美しさを見せ、さらに左右の肩甲骨には、緑色の光が一筋放たれていた。
「ごめんなさい」
霞は床に手をつくと押しつけていた邪鬼から離れた。そのまま宙返りをして着地したとき、膝がカクっと崩れた。
(おりょ!足に力が入らなかった。疲れたのかな。一晩中飛んでいても平気だったのに、もしかしたらピーチャンを呼び出したせいかな?)
霞が体制を崩したのを見逃すことなく、邪鬼は襲いかかってきた。今度は鋭い爪が腕をかすめ、袖を引き裂いた。まともに受けていたら出血くらいはしたであろう。
(避けることは難しくないけど、気を抜けばいまみたいになっちゃう。早く片づければいいけど、みなもは『むやみに傷つけてはならぬ』って言ってたなあ。きっとそれが答えなんだ。だったら、時間が掛かってもやるしかない)
スー、ハー と霞が深呼吸をして心を落ち着けて邪鬼を見据えた。
邪鬼もまた霞を見据え、攻撃の体制を整えている。
(私は絶対にここの邪鬼を傷つけない!)
霞はグルリと取り囲んだ邪鬼の気配を全て感じ取りながら、ゆっくりと構えをとった。
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