第31話 巫女と物の怪(5)
実菜穂たちは二階へと上がっていった。こうなると映画やアニメのシーンのようだ。上に行くほど相手は強力になる。しかも、経験の浅い実菜穂が四階に行かねばならないのだ。いまは三人であるが、この先は一人になる。みなもと繋がっているとはいえ、緊張と怖さは残っていた。
(陽向ちゃんも緊張しているな。まだ何も経験のない霞ちゃんは、私よりも怖いはずだ。怖じ気づいてはいられない)
「陽向ちゃんはここだね。私と霞ちゃんは上に行くね」
「うん。ここはチャチャっと片づけて行くから、二人とも無理はしないでね。ファイトー」
「オー!」
陽向が右手を上げてガッツポーズをすると、実菜穂もそれに応えた。霞も遅れてポーズをとり、ちょっと高い声で実菜穂の真似をした。その姿がなんとも可愛く、実菜穂と陽向は、思わず笑ってしまった。可愛く心強い強い仲間と妹分ができたことが二人を強くしていた。
実菜穂と霞が上がっていくのを陽向は、にこやかに手を振り見送った。二人の姿が見えなくなると、陽向の表情がクッと引き締まる。瞳が薄く光を帯び、神の眼となる。
二階は、一階と違いオフィス入居を想定した造りになっており、ドアがいくつかある。陽向の隣にはエレベーターがあり、その向かいはお手洗いだ。
(ここでは姿が見えない。でも分かる。ドアの向こうに潜んでいるものから感じる重苦しく、不快な気。みなもは、人の悪意ある思念と言っていた。ならば、憑かれたらその思念に飲み込まれるということ)
陽向がゆっくりと左手を腰にあてると、鞘に収まった刀が現れた。
【
「閉じ込め、仕舞い込んまれたように潜んでいる。ドアを開ければ、不幸を持った思念が一気に飛び出してくるはず。まるでパンドラの箱。式神が使えないのなら、討ち漏らすわけにはいかない」
陽向が紅雷の柄を握り、抜く体制をとると、ゆっくりとノブに手をかけた。瞬間、ドアの奥にいるその思念の姿が脳裏に浮かび上がる。無数の負の感情に、陽向の背筋が凍りつく。
苦しい、辛い、妬ましい、恨み、陥れる・・・・・・
数々の感情が陽向に伝わってきたのだ。
(ダメだ。飲まれるな。一気に叩く)
紅い瞳を光らせると陽向は、ドアを大きく開けた。
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